サンクトペテルブルクの北と南を結ぶ、地下鉄5番線はネヴァ河の下をくぐって、乗客をエルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク・スタジアム、バスの中央駅に乗客を運ぶ。この線の最深部は地下129メートルで、15ある駅の平均深度は地下51メートルになっている。これらの駅の中から、もっとも楽しい駅を5つ選んで紹介しよう。
1. アドミラルテイスカヤ駅
歴史あるサンクトペテルブルクの中心に位置する観光客の間でも人気の駅。宮殿広場やエルミタージュ美術館まで徒歩3分の距離だが、プラットホームから地上に出るまで2つのエスカレーターを使って上がらなくてはならない。その理由は、地下鉄駅最深記録である86メートルにあることなので、上り下りの不便さには耐えるしかない。
駅名は、近くに旧海軍省があるためで、ここには、1704年にピョートル大帝が最初につくった造船所がある。伝えられるところでは、ピョートル大帝はこれを自身で設計した(建物内部のホールの奥にモザイクで飾られたピョートル大帝の像がある)。
アドミラルテイスカヤ駅の壁にはロシア海軍の歴史が語られている。バルト海を象徴する灰色の大理石、有名なロシア海軍の提督を描いた金属板が施されている。地上入り口に飾られた格好いい羅針盤は見逃せない。そして、全長125メートルのエスカレーターは、ロシアで最長のものの1つであるので、ビデオに撮っておこう。
2. スポルチーヴナヤ駅
ペトルフスキー・スタジアムとユビレイヌィ・スポーツ・パレスにほど近いこの駅は、最初はオリンピースカヤ駅と呼ばれていた。電灯が聖火のような形をしていて、入り口に美しいギリシャのスポーツ選手と神々が飾られているのはそのためである。
地下鉄の歴史研究家であるドミトリー・グラフォフは、スポルチーヴナヤ駅をサプライズに満ちた宝石箱に例えて言う。「この駅は2階建てになっており、将来的にはそれぞれの階で紫ラインと環状ラインのふたつの列車の発着ができるようになるはずなのだが、まだ完成していない」。 しかし、このために若干の混乱が起きている。プラットホームの片側には線路が引かれていないためで、これを見てパニックを起こす乗客がいる。どうやって町の中心部に出れば良いのか分からないからだ。答えは簡単で、小さなエスカレーターを使って下の階に下りるだけなのだが。
「スポルチーヴナヤ駅は地上22メートルの高さにあり気が遠くなる!ソ連の標準的なパネル製のアパートと同じ高さだ」とグラフォフは続ける。なによりも2015年には川の下に通路が出来、観光客にとってワシリエフスキー島に行くのがより便利になった」。
3. ズヴェニゴロツカヤ駅
2008年に紫ラインが開通した当初からあった駅のひとつ。また赤ラインに乗り換えるための主要な駅でもある。駅名は、駅の上を通っているズヴェニゴロツカヤ通りからとられているが、駅のテーマはセミョノフスキー近衛連隊にインスピレーションを得たものである。
以前、隊員の兵舎と練兵場がかつては駅の真上にあった。この連隊に入れるのは一般的にあご髭のない、茶色い髪の青い瞳の男のみであった。しかし、おかしいことに、プラットホームのモザイクをみるとすべての隊員たちの眼の色は茶色に描かれているが、これは誤りである。
中央に描かれているのが、ピョートル大帝時代にロシア陸軍の陸軍元帥であったボリス・シェレメチェフだ(ピョートル大帝自身もシェレメチェフの左側2人目に描かれている)。
とりわけ、インドから贈られた緑の大理石と赤い花崗岩が駅の入り口を豪奢な宮殿に変え、隊員たちが勝利を祝っている。
4. オブヴォドヌィ・カナル駅
サンクトペテルブルクは数多くの川と運河があることで知られているが、オブヴォドヌィ(バイパス)運河地区はあまり観光客が立ち寄らないところだ。20世紀初め頃にはこのあたりは市の周辺部だったのであらゆる工場が集中して建っていた。しかし、特にバスで到着するなら、この駅は見る価値がある(この地下鉄駅は、中央バスステーションから徒歩5分の位置にある)。
地下鉄を案内するツアーをガイドするイワン・パカロフにとっては、オブヴォドヌィ・カナル駅は紫ラインでもっとも魅力的な駅だ。「そこに行けば、誰もが、産業が隆盛だった19世紀後半のサンクトペテルブルクを体験できる。ガラスや陶磁器製の壁タイルを見れば、この時代のことを多く知ることができ、それだけで歴史を学べる」とイワンは言う。パネル展示されている収蔵写真は歴史マニアを喜ばせ、赤い金属製のアーチの写真はかなりインスタ映えすること請け合いだ。
5. メジュドゥナロードナヤ駅
「国際的な」の意味のこの駅は、地元っ子には特別な場所であるクプチノ近隣にある。
市の近郊部にあるのだが、皮肉を込めて「世界の首都」と呼ばれるこの場所は、都会のソヴィエト・ゲットーのようであるとして知られている。このあたりは、灰色で、鈍重で、モノトーンのソ連時代のパネル住宅ばかりがあるのだが、地下鉄駅の入り口はとても活気がある。
クプチノに住む地元の芸術家であるサーシャ・パヴロワは芸術家の眼で駅を見ている: 「近くに住むある友人は、理想的な傑作絵画の決まりごとについてこう言っていた。大きくて、壮大な主題があり、金色の額におさめられている。有名なメジュドゥナロードナヤ駅の金柱は同じ理由でわたしを元気づけてくれる。アメリカ人芸術家ジェフ・クーンズのセンチなバルーン・ドッグを思い出させる」とサーシャは言う。
実際にはこの柱は、本物の金ではなく、真鍮でメッキされたものだ。もともとは2つのモザイクは国際親善のために捧げられるはずだったのだが、現在、利用客たちが讃えるのは、ギリシャ神話の英雄たちー巨人アトラスと空飛ぶイカロスである。