聖セルギイ大修道院の「門前町」、セルギエフ・ポサードで何を見る?

Legion Media
 伝説によれば、至聖三者聖セルギイ大修道院があるかぎり、ロシアも存在し続けるという。だから、もしあなたが神秘的な北方の大国の本質を見極めたいと思うなら、必ずここを訪れることをおすすめする。

モスクワからのアクセス

  •  モスクワのヤロスラヴリ駅から電車で(所要時間は1時間15分~1時間40分)

訪問すべきでないとき

  •  正教の大きな祭日:降誕祭(17日)と復活大祭
至聖三者大聖堂(トロイツキー大聖堂)

 この小都市の歴史は極めて豊かで、ロシアの文化や伝統について多くを語ることができる。だから、この国についてもっと知りたい人はぜひ訪れてほしい。また、このセルギエフ・ポサードは、人気の観光ルート「黄金の環」の古都群のなかでモスクワ州にあるただ一つの都市だ。モスクワから簡単に日帰りできる唯一の「黄金の環」の古都である。

 次は、セルギエフ・ポサードですべきことの簡単なチェックリストだ。

・至聖三者大聖堂(トロイツキー大聖堂)を訪れる。

・アンドレイ・ルブリョフによるイコン『至聖三者』を見つける。

・ウスペンスキー聖堂(生神女就寝聖堂)を訪れる。

・ラドネジの聖セルギイの木製の棺を見つける。

・修道院の城壁の塔の数を数える。

・もし、城壁への入り口が開いていたら、中に入り、上から修道院を眺める。

・「大動乱」の時代のツァーリ、ボリス・ゴドゥノフとその家族の墓所を見つける。

・記念にイコンか修道院の手作りの品を購入する。

・修道院の焼き菓子を味わう。

・ロシア正教の「愛の聖人」、ピョートルとフェヴローニャ夫妻の記念碑を見つける。

 中世ロシアでは、ポサードとは、修道院や公の領地の周辺を指した。基本的にここには職人が住み、商いが行われた。ということは市場があったわけだ。

 こうしたポサードが、至聖三者聖セルギイ大修道院の周りにも、エカテリーナ2世の命令で、1782年に形成された。ポサードは、 聖セルギイにちなみ、セルギエフ・ポサードと名付けられた。

至聖三者聖セルギイ大修道院は何で有名か

至聖三者大聖堂(トロイツキー大聖堂)の中。

 伝説によると、ラドネジの聖セルギイは1340年代にこの場所にやって来た(1342年と正確な年を示している研究者もいる )。セルギイは仲間たちと共に、自分たちの小さな住居を建て、それから聖三位一体(至聖三者)を記念して教会を建立した。

 至聖三者大聖堂(トロイツキー大聖堂)は必ず訪れてほしい。現存する大聖堂は1422年の建立だ(もっとも、その後何度か建て増しされ、周縁部分は改修されているが)。内装は、15世紀の最高の名匠たちの手になる。

 ここのイコノスタシス(聖障)のために、アンドレイ・ルブリョフがかの有名なイコン『至聖三者』を描いた。これは、ロシア正教会で最も尊崇されるイコンの一つだ。

 イコン『至聖三者』は、イコノスタシスのイコンの中にある。下段の、王門から右に向かって最初のイコンだ。

 ところで、ここで一つライフハックをお教えしよう。もし教会の名前が分からないときは、イコノスタシス下段の、王門の右にあるイコンを見ればよい。そのイコンが常に教会の名に冠せられているからだ。

ウスペンスキー聖堂(生神女就寝聖堂)

 また、至聖三者大聖堂(トロイツキー大聖堂)は、イワン雷帝(4世)がとくに愛していた。ここで彼は洗礼を受け、結婚式を挙げ、戦勝に際しては感謝の祈りを捧げた。

 この修道院はまた、大動乱の時代は、ポーランド干渉軍の包囲に耐え抜いている。ピョートル大帝が、姉で摂政だったソフィアに対しクーデターを起こし、親政を開始するに当たっては、この修道院はピョートルを支持した。

 修道院には10ほどの聖堂があり、15世紀~18世紀の様々な時期に建てられている。だから、それらの聖堂を子細に見れば、ロシアの教会建築の変容を見て取ることができるわけだ。

 しかし、必ずしもすべての聖堂を見学しなくてもよい。頭の中でごっちゃになるかもしれないから。だが、ウスペンスキー聖堂(生神女就寝聖堂)には入ってみてほしい。この聖堂の建立を命じたのはイワン雷帝その人だ。

 ウスペンスキー聖堂の目印は、黄金の星が散りばめられた青い丸屋根である(ちなみに、「黄金の環」のいずれの都市でも、こういう丸屋根は、その聖堂が「生神女就寝」、すなわち、聖母の永眠を記念していることを示す)。

 この聖堂の中では、上の方に目を向け、フレスコ画をとくと見てほしい。また聖堂内では、聖セルギイの木製の棺も必見だ(もっとも、聖セルギイの不朽体はここではなく、至聖三者大聖堂〈トロイツキー大聖堂〉のほうにあるが)。

ラドネジの聖セルギイはなぜこれほど有名なのか?

「若きヴァルフォロメイの聖なる光景」。画家:ミハイル・ネステロフ、1890年。

 ラドネジの聖セルギイの名は、「タタールのくびき」からのロシアの再生、およびロシアの「ルネッサンス」と結びついている。セルギイと弟子たちは、ここの修道院だけでなく、中央ロシア各地にさらにおよそ10もの修道院を建立している。セルギイはおそらく、ロシア正教で最も崇敬されるロシア人の聖人だろう。20世紀には、カトリック教会でも正式に列聖されている。

 聖セルギイの俗名はヴァルフォロメイ。言い伝えによれば、彼は幼いときから修道士になることを夢見ており、出家してセルギイと名乗った。現在のヤロスラヴリ州ロストフ市(これも「黄金の環」の古都の一つ)の近くで生まれた。しかし、後にラドネジに移った。

 セルギイの信じ難いほどの修行、精神の道程、禁欲、そして道徳的な生活についての説教…。後世の人々は、その功業を称え、列聖した。それも、克肖者(こくしょうしゃ)、すなわち、神に似た人間の本来の姿を取り戻した聖人、キリストに似た聖人を意味する称号を奉っている。

 また、セルギイは、実質的に修道院の在り方すべてを改めた。彼は修道士たちが修道院の外に出て布施を求めることを禁じた。修道士たちは、完全な自給自足の生活を始めたのである。

 さらに、セルギイは、共同生活の原則を導入した。これは、修道士には、私有財産がまったくなくなり、「パン」を共有することなどを意味した。これによりロシアの修道院は、「放浪者に優しくなる」、言い換えれば、放浪者や巡礼者を受け入れられるようになった。当時は「土地と人間を結びつける」ことが最も重要であった。

 セルギイの精神的権威は極めて大きく、彼は事実上、「タタールのくびき」で四分五裂していたロシアの統合者とみなされている。ロシアのバラバラだった諸侯に対し、モスクワ大公のもとで結束して「タタールのくびき」を打ち破れと呼びかけたのは彼だった。

 ジョチ・ウルス(キプチャク・ハン国)は、ロシアの地から長年にわたり収奪し、荒廃させてきた(タタールは、セルギイが生まれた村も破壊している。彼と両親がロストフからラドネジに移ったのはそのためだ)

「ママイとの戦いの前にモスクワ大公のドミトリー・ドンスコイを祝福するラドネジの聖セルギイ」画家:А. ノヴォスコリツェフ。

 「クリコヴォの戦い」は、「タタールのくびき」脱却のきっかけとなり、中世ロシアの戦いの中でも最も知られたものの一つだが、モスクワ大公のドミトリー・ドンスコイは、戦いの前にセルギイに祝福を乞うている。セルギイは祝福しただけでなく、屈強な弟子二人をタタールとの戦いに送ってさえいる。

他に見るべきものは?

セルギエフ・ポサードの湖

 セルギエフ・ポサードで見るべきものは修道院だけではない。ここには、大規模ではないがとても楽しい博物館が10ほどある。街の主たる博物館は、セルギエフ・ポサード国立歴史・芸術博物館だ。古いイコンや教会の手作りの品、その他の展示品があり、古代からソ連時代までのロシアの暮らしについて教えてくれる。

 1918年に開館した「おもちゃ博物館」もある。ここでは、ロシアの古いおもちゃや、ソ連時代の工場製の玩具、それに、ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世の子供たちが遊んだおもちゃまで見ることができる。

セルギエフ・ポサード、2018年。

 ロシアの標準的なイズバ(木造家屋)が見たいと思ったら、博物館「昔々」に行けばいい。台所用品、糸車、各種道具など、ロシアのイズバにあるものすべてが集められている。

セルギエフ・ポサード近郊の見もの

 セルギエフ・ポサードのすぐ近くに、時間を費やして損のない場所がまだ3つある。 

1. アブラムツェヴォ博物館

 この邸宅を建てたのは、サッヴァ・マモントフ。帝政時代の芸術の大パトロンで鉄道王だ。彼はここに、19世紀末~20世紀初頭の、最高の作家、芸術家を招いた。現代のアーティスト・イン・レジデンスの原型だと言える。

2. ポクロフスキー・ホチコフ修道院

 この修道院は、若き修道士セルギイの出発点となった。彼はここから、自分の場所を見出すべくさらに進んでいった。主要な聖堂であるポクロフスキー大聖堂には、セルギイの両親(1992年に列聖)の聖骸も安置されている。修道院には、1904年に建てられた赤レンガのニコリスキー大聖堂もあるが、こちらは、ビザンチン様式の建築だ。

3. ムラノヴォ

 19世紀における中程度の貴族の邸宅はどんなものか?もしそういう興味があれば、ムラノヴォ村に行ってみよう。ここでそういう地主の館と公園を見ることができる。樹齢150年を超える老木も何本かある。ムラノヴォでは、19世紀ロシアの詩人、フョードル・チュッチェフについても知ることができる。彼の親族はここに住んでいたのだ。 

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