歌いながらロシアを旅する和歌山県の音楽家:第三章「出会い」~イルクーツク・クラスノヤルスク~

クラスノヤルスク

クラスノヤルスク

Reuters
 一面が凍りついた湖の上を、あてもなく歩いた。混じりけのない雪の白と、どこまでも澄んだ空の青。その境目には、壮大なスケールの山々が顔を覗かせる。

 ロシア、バイカル湖。世界最古の湖とされ、その深さ、透明度共に世界一。その美しさから「シベリアの真珠」とも称されるという。

 凍った湖の上をこの足で歩く。そんなとても酔狂に思えることが、ここではいともたやすく実現できてしまうのだ。前日、イルクーツクの宿で知り合った台湾出身のシンガー、直樹さん。彼と二人、氷の上で歌を歌ったことは一生忘れないだろう。

 その夜、宿で二人、ギターを触っていると集まってきたロシア人の皆さん。突然のライブ開催!直樹さんと一曲ずつ交互に演奏し、宿は拍手と歓声、笑顔に包まれる。

 音楽は国境を超える。日本、台湾、ロシア。国籍も言語も何もかもを超越し、人と人を繋いでくれる。そこで仲良くなったロシア人の女性がお勧めしてくれた、クラスノヤルスクという町を次の目的地に定めた。

 「友よ安らかに眠れ」

 その文字を目にした瞬間、涙を流さずにはいられなかった。

 クラスノヤルスク地方、日本人慰霊碑。

 シベリア抑留。第二次世界対戦後、日本国外に残っていた日本兵が、ソ連軍の捕虜としてソ連各地に移送され、奴隷的な強制労働に従事されられた悲劇。当時抑留された日本人は約六十万人にのぼり、多くの人々が祖国の地を踏むことなくこの世を去った。

 ここクラスノヤルスクにも、数多くの日本人が拘束し移送されたそうだ。そのお墓は、現地の人々を祀るお墓が並ぶ区画の端っこに、忘れ去られたかのようにひっそりと佇んでいた。

 日本という国を背負い、逞しく生きた人々がいたから今の自分は生きている。それは絶対に忘れてはいけないことだ。生きているということは、それだけでこの上なく素晴らしいことだ。幸せになりたい、と人は言うけれど、生きているだけで幸せなんだ。帰る場所があるだけで幸せなんだ。そんなことを思った。

クラスノヤルスク

 宿に泊まっている外国人は自分一人だけだった。いかにも強面で、屈強そうな若者たちがリビングで楽しそうに会話をしている。英語が通じない中で、一人ロシア人たちの中に入っていくのは容易なことではない。

 だが、音楽は驚くほど人と人との心の距離を縮めてくれる。歌を歌うことで、それまでの冷ややかな視線が一変、長年来の友人を迎え入れるかのような態度で接してくれる若者たち。彼らがご馳走してくれたボルシチは優しい味がした。

 何度か路上でも歌ってみたが、ある時、話しかけてくれた現地の方がInstagramで紹介してくれたのがきっかけで、クラスノヤルスクのちょっとしたニュースに取り上げられた。それを見て、暖かいメッセージを送ってくれたロシア人の方々。名前すら知らなかった町、クラスノヤルスク。ここに来て本当に良かった。

 寂寥の念と共に、再度、シベリア鉄道に乗り先を目指した。

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