ロシアに慣れたウクライナ乳母

ロシア連邦移民局のデータによると、ロシアで働くウクライナ人は350万人強=タス通信撮影

ロシア連邦移民局のデータによると、ロシアで働くウクライナ人は350万人強=タス通信撮影

ウクライナ国家安全保障会議のアンドレイ・パルビー書記は、ウクライナ外務省に、対ロシア・ビザ制度を導入するよう指示した。これに対して、ロシア政府は今のところ、いかなる決定も行おうとしていない。相互への行き来が制限されれば、一般人が影響を受ける。

あるベビーシッターの話

 私のモスクワの友人ニーナのベビーシッターは、ウクライナのルハンシク市出身。モスクワに出稼ぎに来たのは10年ほど前。ニーナのところに行く前は、いくつかの場所で働いていた。地下鉄で警察が旧ソ連諸国の出身者や外国人の身分証明書を確認していた時代、なけなしのお金を使ったりしながら、なんとかこの困難を乗り越えていた。その後”雪解け”が始まって、ウクライナ人はロシアを母国と同じように感じることができるようになった。

 ニーナはシングルマザーだから、ベビーシッターに支払う給与には限界がある。その代わりに住む場所と食事を提供している。ベビーシッターはニーナの娘のポリンカを学校に迎えに行って、音楽学校、英語教室、運動クラブなどに連れて行く。基本的には、これで仕事は終わり。最近は余暇をロシアとウクライナの政治について考えることに費やしている。

ウクライナ人の出稼ぎ労働者

 ロシア連邦移民局のデータによると、ロシアで働くウクライナ人は350万人強。不法就労者の数は少なくとも50万人。ウクライナ人の出稼ぎ労働者は昨年、ロシアで300億ドル(約3兆円)ほどを稼いだ。ロシア連邦移民局の2014年のデータでは、160万人の就労者以外のウクライナ人がロシアに滞在している。これは昨年と比較して増加している。  ウクライナ国家安全保障会議のアンドレイ・パルビー書記は、ウクライナ外務省に、対ロシア・ビザ制度を導入するよう指示した。ロシア外務省は正式な通知があるまで特別な対策を講じることはないと、外務省の関係筋は明らかにしている。ロシアが何らかの対策をとった場合、困るのはロシアで自国より給与の高い仕事についているウクライナ人自身である。

 

 結論としては、ウクライナ情勢ではロシアに非があると考えている。国会でこれを演説できるわけでもなし、ニーナに考えをぶつける。政治問題が思わぬ影響をもたらしているけど、だからといってわざわざ新しいベビーシッターを探すわけにもいかず、ニーナは話を聞いている。ウクライナの独立広場での革命に刺激されて、賃上げを要求された――ロシアのくびきの下にウクライナが置かれてきた数世紀の償いとして。

 ニーナが賃上げに応じると、今度は追加的な休日も要求された。さらにニーナに対して、育児についてあれこれ批判するようになった。食器洗いも、搾取だと言って、やらなくなった。もっとも、これは、彼女を雇ったときに、仕事に入っていたのだが。

 「彼女をどうしたらいいんだろう。日一日と態度の悪化が見られる。でも気の毒で放り出せない。故郷のルハンシク市には子どもも孫もいるから、みんなに対して責任を感じる。『ロシア人は私たちの生活を壊し、私たちの歴史を壊した』って言われると、本当のことだから返す言葉がない。『ウクライナ人は奴隷、ロシア人は自由人。ずっとそうだった。でもEUに加盟したら、私たちも普通の生活を送れるようになる。フランスやスペインに働きに行くことができるようになる』って」

 ベビーシッターは新年の休暇のため、また稼いだ給与を実家に持ち帰るために、荷物をまとめた。切符を買うために駅に向かったけれど、帰ってきた時はとても動揺していて、イスに座って言葉を失っていた。

 

ロシアであった法律の改正

 「ニーナ、1月1日からロシアでのウクライナ人の滞在手続きが変わったの。私たちは年間90日以上ここに暮らすことができなくなる。いったん帰国しても、前みたいにすぐに戻ってくることができない。3ヶ月経過した後で入国でスタンプをもらって、モスクワに戻る切符を買わなければいけなくなるの。他の外国人みたいに。この決まりを破ったら、3年間ロシアに行くことが禁じられる。私たちはどうしたらいいのかしら?」

 2014年1月1日から、ウクライナ人のロシア滞在手続きが変更された。2013年12月28日付けロシア連邦法第359-F3号「連邦法第27条『ロシア連邦からの出国およびロシア連邦への入国手順について』、連邦法第5条『ロシア連邦の外国人の法的地位について』の改正について」が施行された。これは独立広場とは無関係である。

 この問題の唯一の解決策は、ウクライナ人を正式に雇い入れ、被雇用者の税金を支払い、労働許可書を受け取るなどの手続きをふむことである。すべてを正直に行わなければならず、いかなる個人的事情への配慮もない。これがヨーロッパだ。ベビーシッターはモスクワを離れる時に泣いた。3ヶ月後に戻ることを約束したが、再びニーナのもとで働くことはないだろう。