Lori/Legion Media撮影
12月半ば、モスクワ大学は、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)の大学ランキングで3位を占めた。「QS 世界大学ランキング」(Quacquarelli Symonds World University Rankings)が、ロシアのインターファクス通信と協力して、この番付を作成した。断トツは中国で、1位と2位をそれぞれ、精華大学と北京大学が占めた。TOP50に入ったのは、ロシアからは6校にとどまったが、中国からは22校。
QSは今年初めて、地域ごとの大学ランキングを作成した。その際、専門家らが評価の基準としたのは、教育の質、卒業生の就職先での評判、外国人学生の数、学術的成果(発表された学術論文の数と、それに対する言及の回数)だが、今回は、新たな基準も考慮された。学位をもつ教員の割合だ。
このランキングで、ロシアははっきり中国の後塵を拝しているが、それでもこの番付は、ロシアの大学に“優しい”ほうだ。
言葉の壁も
これに先立つ2週間前、12月初めに、イギリスの高等教育情報誌「THE」(Times Higher Education)は、似たような、新興国の大学ランキングを発表した。1位と2位は、QSと同じだが、ロシアの大学の評価となると、ずっと控えめだ。モスクワ大学は3位から10位に転落。もう一校、サンクトペテルブルク大学も、ランク入りしているものの、67位に甘んじている。
THEは、「ロシアの大学は沈滞しており」、その教育システムは“内向き”だと指摘している。
もう一つ、ロシア語で書かれた論文が海外に伝わりにくいという事情も、ランキングに影響している。大学の公式サイトで、一般的情報がロシア語のみで記載されているため、海外での評価が事実上不可能だというケースもしばしばある。
とにかく、THEによると、10月に発表された世界ランキングでは、ロシアは、地球全体のほぼどん尻に位置している。TOP200以内に入ったロシアの大学はただの一校もなく、ようやく400位以内に、モスクワ大学だけがぶら下がっている。
ちなみに、QS世界大学ランキングでは、モスクワ大学が120位、サンクトペテルブルク大学が240位、バウマン工科大学が334位で、1位はマサチューセッツ工科大学、2位はケンブリッジ、3位はハーバード。
「自前の基準を作れ」との鶴の一声
こんな状況では、新たなランキングが出る度に、ロシアの大学には痛打となる。
ロシアの政府当局と大学関係者は、これらの番付は不適切だと決めつけ、自分なりの基準を設けようとしている。
今年7月、プーチン大統領は、教育・科学省に対し、自前の大学ランキングを作るよう指示した。
その後、これを受けて、11月末に、モスクワ大学のヴィクトル・サドーヴニチイ総長が次のように述べた。「大学の古典的モデルに合致するようなランキングを作るべきだ。我々は、そのための作業チームを編成する用意がある。文化、教育、科学の牙城としての大学――豊かな伝統をもち、国家に貢献した大学――を評価する基準を作ろうではないか」
ランキングへの投資計画
とはいえ、ロシア政府は、自国の教育が海外で認められる意義を無視しているわけではなく、ロシアの大学の権威を高めるため、350億ルーブル(約1050億円)を支出する計画だ。
目標の一つは、QS世界大学ランキングのTOP100に食い込むことで、そのために来年は105億ルーブル(約315億円)を支出。モスクワ大学とサンクトペテルブルク大学以外にも(この両校は、特別会計となっている)、15校が国庫から金を受け取る。そのなかには、極東連邦大学、モスクワ物理工科大学、国立経済高等学院、サマーラ国立航空宇宙大学などが含まれる。
国立経済高等学院・教育発展研究所所長のイリーナ・アバンキナ教授は、「こうした海外の大学ランキングは、学生の流動性を加速する」と述べた。「ランクで上位を占めた大学の卒業生は、海外の雇用者に信用されるが、そういう会社は、ロシアでITの分野のハイテク・ビジネスや、高価な医療器械の製造などに携わっている」
アバンキナ教授によれば、ロシアの大学が世界ランキングで評価されないのは、歴史的な要因があるという。「この手の番付では、基準の4分の3は、学術研究のレベルで、教育の質は4分の1にすぎない。ところが、ロシアの大学では、研究の集約度は極めて低い。これには、ロシア特有の“歴史的前提”がある。ロシアでは、大学は主に学生の教育に従事し、研究はというと、個々の研究所や学術機関が行ってきたからだ」
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