ロシア初の“ネット海賊”裁判

GettyImages/Fotobank撮影

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5年間にわたったロシア最初の“ネット海賊”裁判が10月15日に結審し、21世紀の“海賊”夫婦に対して、執行猶予付きの判決が言い渡された。この種の裁判初の判例となる。

執行猶予付きの禁固4年

 モスクワ市チミリャゼフ地区裁判所は、アンドレイとナジェージダのロプホフ夫妻に対し、トレント・ファイルと映画を不法に広め、映画会社に総額23億ドル(約2300億円)の損害を与えたとして、執行猶予付きの禁固4年の判決を下した。

 検察は、禁固3年の実刑を求刑していたが、裁判所は、幼い子供がいること(うち一人は裁判中に生まれた)、前科がないことなどを考慮し、刑を緩和した。

 夫妻は罪を認めず、トレントの利用は、何百万ものロシア人にとって日常茶飯事だと弁解している。

 とはいえ、裁判はこれで終わりではなく、夫妻のサルキス・ダルビニャン弁護士によると、同党は上告し、最高裁まで争う構えだ。この判決が危険な判例になるからだと言う。ダルビニャン氏は、政党として登録されていない「ロシア海賊党」の弁護士だ。

 一方、ロシアの「反海賊組織」所長であるコンスタンチン・ゼムチェンコフ氏は、ロシアNOWに対して、ネット海賊には実刑を期待していたが、判決には満足だと述べた。

 

海賊サイトのトップ20以内にランク

 検察の調べによると、夫妻は、2007年4月から2008年9月にかけて、自宅のコンピュータを使って、約30本の様々な映画やアニメをネットにアップロードした。映画の中には、ソ連のラブコメ『運命の皮肉、あるいはいい湯を』、『バイオハザードIII』、『シュレック3』などが含まれている。

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反海賊法の機能のしかた

 被害を受けたのは、20世紀フォックス、パラマウント、ディズニー、ソニー、ユニバーサル、ワーナー・ブラザーズなどのハリウッドの大手企業のほか、ロシアの「セントラル・パートナーシップ」社、「パラダイス」社など多数。

 アンドレイ被告は、サイトinterfilm.ruを運営していた。これは、海賊ビデオ・サイトのトップ20に入っていたが、2009年5月にブロックされた。妻のナジェージダ被告は、サイトpuzkarapuz.ruを運営し、ロシアとウクライナの住民を対象に、アニメと子供用のコンテンツをアップロードしていたが、2010年10月にやはりブロック対象となった。夫妻はサイトでは、ShturmanとNadezhdaというニックネームを使っていた。

 

海賊の手口

 彼らの活動は単純だった。目当てのコンテンツがロシアより早くレンタル市場に出た国で、無許可複製を買い、ロシア語の字幕をつけて販売していた。その際に、様々なネットショッピングの支払い方法を利用していた。

 BBCロシア(bbcrussian.com)の専門家によると、夫妻が行っていたのは、いわゆる「ソース海賊」(source-piracy)だった。つまり、他の“海賊”たちが、夫妻がアップロードした映画をコピーし、字幕、音声などを追加して、世界中にばらまいていた。

 もっとも夫妻は、ダウンロードに対してではなく、広告のバナーを掲載したり、ユーザーがランクを上げたり、ダウンロードをスピードアップしたりしたことに対して金銭を得ていたと主張していた。

 

被告がプーチン首相(当時)に公開書簡

 1年半前にアンドレイ被告は、サイトに次のような、ロシア国民宛のアピールを載せていた。「私は、ネットでトレントを通じてファイルを交換したことで、告発されています。我々みんなが毎日やっていることに対して、380億ルーブル(約1140億円)の損害賠償を要求されています。あなた方は皆、私と同じ立場に陥る可能性があります」(RBCデイリー紙からの引用)。

 アンドレイ被告はこう述べて、プーチン首相(当時)への公開書簡に署名するよう呼びかけた。書簡は、「ネット上のファイルのコピーに対する罰が、殺人よりも重い」現状を正すように求めたものだ。

 その後、賠償請求は、ダルビニャン弁護士によれば、7億5千万ルーブル(約22億5千万円)まで減らされた。

 ゼムチェンコフ氏によると、ロシアではこの種の裁判は初めてだったので、損失額を正確に計算するのが難しかったという。

 「各社とも、映画一本につき、かなりの額を示したきました。映画の本数は多かったので、捜査官が機械的に計算したら、こんな額になってしまいました」。同氏はこいう説明する。

 

オランダ当局が協力

 「反海賊組織」は、ロシアで海賊版ビデオと戦うために、米国の支援を得て、15年前に設立された。そして、今回の初のネット海賊裁判では、捜査機関と協力してきた。とくに、サイトにアップロードされた映画の特定には丸1年かかった。

 ゼムチェンコフ氏は、オランダ側の協力を賞賛する。「リソースがロシア国内に登録されている場合しか、海賊とは戦えないなんて、神話です。interfilm.ruはオランダのサーバに登録されていましたが、両国の捜査機関の協力のおかげで、そのサーバは、あらゆる情報と映画が記録されているハードディスクを送ってきました」。

 同氏はまた、現在、やはりネット海賊と推測される5つの事件が、起訴に向けて準備中だと語った。

 

「判決に二つの問題」

 だが、ロシア海賊党は、ロシアNOWのインタビューに対して、今回の判決に対する憂慮の念を表した。トレント・ファイルのアップロードはすべて、不法行為になり得るからだという。

 「この判決には、主として2つの欠陥があります。つまり、トレント・ファイルと著作権の対象(この場合主に映画)とを同列に扱っていること、そして、著作権の所有者に、自分で損失額を決めさせていることです」。こうダルビニャン氏は指摘し、10日以内に上告する意向だと述べた。