モスクワ暴動の原因は何か

モスクワの市南部のビルリョーヴォ地区の騒乱、13日10月=ロシア通信撮影

モスクワの市南部のビルリョーヴォ地区の騒乱、13日10月=ロシア通信撮影

一件の殺人事件が、首都の暴動を引き起こし、民族主義者を刺激した。警察当局は深刻な衝突を未然に防止し、新たな被害者を出さなかった。しかしながら、市民が民族・移民政策の見直しと汚職防止対策の強化を、政府に求めていることに変わりはない。

事件の経緯 

 地元のロシア人男性エゴール・シチェルバコフさん(25)は10月10日夜、モスクワ市南部のビルリョボ地区で殺害された。カフカス系の外見の男がシチェルバコフさんの恋人にからんできたため、シチェルバコフさんが守ろうとして争いになり、男にナイフで刺されて死亡した。警察署の前で10月12日、犯人の拘束と移民の犯罪取り締まりの効率化を訴えるデモが発生。翌日になると、殺害現場近くでデモに参加していた群衆が暴徒化。約400人が拘束された。移民の多い地元の野菜倉庫は14日、閉鎖されることが決定した。シチェルバコフさんを殺害したとみられる容疑者は、モスクワ郊外で拘束。容疑者はアゼルバイ ジャン人だった。

 暴動の翌日、ロシア国内の複数の都市では、人々がモスクワ市民を支持するデモを行ったが、警察が穏便に解散させた。イスラム教の「クルバン・バイラム (犠牲祭)」(10月15~17日)でさらなる暴動が起きる懸念もあったものの、衝突は起こらなかった。唯一ビルリョボ地区に隣接する地区で、民族主義者らが集まり、列をなして再び暴動現場に向かおうとしたが、警察はこれを阻止した。

 

大金を目の前にして汚職を止めようとする役人はいない」 

 専門家は、このような衝突が発生しないよう、ロシアの移民政策をより注視する必要があると話す。ロシア国立経済高等学院・地域経済学・経済地理学講座主任であるアレ クセイ・スコピン教授は、移民に対する就労証の発給において汚職が蔓延している現状で、モスクワの騒乱は序章にすぎないと話す。

 「このような緊張は地方で始まり、今になってようやくモスクワに到達した。モスクワでは個別の対立で衝突は起こっていたものの、大事にはいたっていなかった。今回の問題はずっと放置されてきた根の深い問題であり、このような状況でビルリョボの対立がすぐに収まるわけはなく、今後も事態は発展していく。不法移民の世界では多額の賄賂が飛び交っているため、大金を目の前にして、積極的に汚職を止めようとする役人はいない。ここが正常化されないうちは、状況は悪化するだけ。不法移民は賄賂を握らせる代わりに、滞在の可能性と行動の免罪符を手に入れる。だが、そのツケは住民自身に回ってきて、通りで自分の身を自分で守らなければならな い。本来であれば政府の義務なのに」。

 アルファ部隊退役者協会の会長を務める、セルゲイ・ゴンチャロフ・モスクワ市議会議員は、衝突を防止することは可能だと話す。

 「地元市民は、例の野菜倉庫には武器や麻薬があって怖くて近寄れないと、いつも苦情を言っていた。地元の役人や移民局の関係者の誰もが、あの地区で何が起こっているのかを知ってい た。だが殺人事件が起こって、住民がデモを行うまで、予防対策は一切とられなかった」。

 

憎悪と暴力の連鎖 

 ロシア連邦社会会議のメンバーで、全ロシア社会運動「ロシア・カフカス民族議会」幹部会のアスラムベク・パスカチェフ会長も同じ意見だ。対移民予防対策がとられていないため、あのような市民の大規模なデモが発生するのだという。

 「ある人間が犯罪を犯したら、逮捕されなければならないが、警察当局がそれを怠ったら、罰せられないものだと思うようになる。そうなると、人々は犯罪者に対する怒りを、関連するあらゆる人間にぶつけるようになる。あのような事件の 後は、すべての移民を排斥すべきだという考えが出てくる」。こうパスカチェフ会長は指摘する。

 非営利団体「モスクワ人権保護援助局」のアレクサンドル・ブロド理事によると、このような、もはや定番となっている市民デモ用に、予防対策がかなり以前につくられていたが、活用されていないという。あらゆる犯罪がらみのできごとが、デモの発端になり得る。

 「地元市民と移民の中にある攻撃性を低下させる必要がある。国内の状況の健全化を考え、不法移民を探し、警察当局の改革を行うべき。このような事件が起こった後は、行政の役人と警察の関係者の責任を問う必要がある」。ブロド理事はこう言う。

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