本の出版禁止の是非

マスメディアの記事に投稿される読者のコメントで、この本を出版する必要性に関するさまざまな意見が見えてくる。=Getty Images/Fotobank撮影

マスメディアの記事に投稿される読者のコメントで、この本を出版する必要性に関するさまざまな意見が見えてくる。=Getty Images/Fotobank撮影

最近出版されたファシストの指導者の本が、出版禁止になる可能性がある。検事局が過激主義的な内容の有無について調査している間に、ロシア社会は出版の是非について議論している。

 ロシアで出版された2冊の本に過激主義的な内容が含まれている疑いが浮上し、激論を巻き起こした。どちらの本もすでに書店から回収されている。その本とは、ナチス・ドイツの政治家であるヨーゼフ・ゲッベルスが若き日に書いた「ミヒャエル:日記が語るあるドイツ的運命」と、ファシスト党統帥であるベニー ト・ムッソリーニの本「第三の道:民主主義者と共産主義者不在」。どちらも出版社「アルゴリズム」が昨年と今年、少ない部数で出版した。

 

ゲッベルスとムッソリーニの本が問題に 

 マスメディアの記事に投稿される読者のコメントで、この本を出版する必要性に関するさまざまな意見が見えてくる。出版賛成派は「敵のことをよく知る必要 がある」、「読みたい人は自分で見つける」などと書き、出版反対派はファシズムに勝利した国に、なぜファシストの本が必要なのかと、歴史的記憶を強調して いる。

 作家でジャーナリストのドミトリー・ブィコフ氏は、出版禁止に対して懐疑的だ。「悪書や非道な内容の本の出版は全世界にあることだし、必要なこと。ファシズムやファシストの発生を理解するためには、読まなければならない。ただ文献学的解説だけでなく、いかにしてその大げさな本からファシズムが増大するのかを説明する精神分析的解説など、優れた解説をつけて出版する必要がある。禁止は一番簡単な手」。

 一見すべてが簡単に見える。ロシアではファシズム、ナショナリズム、過激な宗教といった、明らかに過激な本の出版は禁止されている。判断を行うのは司法省だ。裁判所が正式に過激な本と認めると、禁止書籍リストに記載される。さらにポルノや麻薬使用のプロパガンダも禁止。ただし罰則は本の出版に対してではなく(ロシアには“検閲はない”ので)、頒布に対して科せられる。

 

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「本に対して無力であることを自認するも同然」 

 実際にはそれほどスムーズではない。問題のある本が販売されると、しばらく経過した後に検事局に苦情が入る。するとマスメディアがこれを伝え、社会的な議論を巻き起こす。その後禁止されるか否かが決まるが、人々はこの本の存在を知ってしまう。内容が実際に有害な場合、禁止されるまでに大々的な”宣伝”が 行われるし、有害でなかったとしても、出版社は評判悪化またしばしば経済的損失を被る。

 人気の“知的文学書店”「ファランステル」の共同所有者で、モスクワ書籍フェスティバルのプログラム編成者であるボリス・キプリヤノフ氏は、ロシアNOWに こう話す。

 「いかなる本の禁止にも反対。禁止は本への関心を高めるだけだ。禁止すると、本に反論することができない、また本の内容に我々がかなわないと宣伝することになるため、その本の価値を高めてしまう」。

 キプリヤノフ氏はこれを政府にも説明した。同書店で2007年、マイナー出版社「ウリトラ・クリトゥラ」の5冊の書籍がポルノの疑いで回収された。ポルノが見つかっていたら、販売者はポルノを保管および販売したとして、刑事責任を問われていただろう。

 有名な詩人であり、翻訳者であるイリヤ・コルミリツェフ氏が創設したウリトラ・クリトゥラ社の本に対して、役人はたくさんの疑問を抱いていた。ポルノ以 外にも、麻薬とテロのプロパガンダの疑いがかけられた。2004年に7冊(この中にはシュルギン夫妻の「ピーカル:化学物質のラブストーリー」、ジェイ・ス ティーヴンスの「猛烈な天国:LSDとアメリカン・ドリーム」もあった)、2006年にアダム・パーフレイの「終末論文化」とフィル・ジャクソンの「クラブ文化」が禁止され、この本の印刷所が罰則を受けた。2007年に出版社は営業停止し、出版グループ大手のASTに売却された。

 

児童書の国旗の解説が槍玉に挙がる 

 書籍市場の子供部門でも今夏、予期せぬ問題が発生。小さな独立系出版社「コンパスギド」が出版した、フランスの作家シルヴィア・ベドネルの「児童のための世界の国旗」を、ロシア下院(国家会議)のアレクサンドル・ヒンシュテイン議員は「ロシア恐怖症」ととらえ、出版社をファシストと呼んだ。リトアニアの 国旗に関して、赤い色は「ロシアとドイツの侵略者と戦ったリトアニアの民が流した血の色」との説明書きがあったためだ。

 ヒンシュテイン議員は検事局に問い合わせを行うと警告しながら、ツイッターにアップロードした。大手書店は調査結果を待たずに、本を出版社に返送した。

 「コンパスギド」のマリーナ・カデトワ編集長は、ロシアNOWにこう話した。「苦情の本質や根拠を調べることもなく、ほとんどの大手書店が独断で本を返送してきた。販売用に残したのはほんの一部の小さな書店。いまだに検事局からの正式な決定はない。この本は当出版社、一部の書店、そして我々が参加する フェスティバルにしかないため、このスキャンダルは大きな損失となった」。

 文学協会は速やかかつ友好的に反応。リュドミラ・ウリツカヤ、ボリス・アクーニン、ウラジーミル・ソローキンなどの作家、文芸評論家、出版社、書籍販売者は、この出版社を擁護する声明を発表した。「出版社には恐怖と不安が生じ、それが続いている。書店や流通者は、例え評判の悪化あるいは資金の損失があるとしても、個別の役人の発言に対応しなければならない」。

 ロシアにおいて、本は常に特別な扱いを受けてきた。そして今も、こうやって本が社会的注目の的となっている。その結果、社会学者は、読書への関心の低下について話す暇がない。