ソ連崩壊でピオネールはなくなったが、キャンプ自体は定着している。子供たちには楽しさの一方で3週間も親もとから離れる「試練」の期間でもある。写真はキャンプ「カムチャツカ」=クセニア・プロトニコワ撮影
キャンプでの生活は軍隊のそれと似ており、起床、朝食、昼食、レクリエーション、夕食、消灯と、すべてが規則通りだった。
ひと夏は3週間ずつ三つの期間に区切られ、子供たちはたいてい一つの期間を過ごすが、夏中キャンプで寝泊まりする子供もいた。
ロシアの子供用サマーキャンプはソ連時代のピオネール・キャンプが基になっている。ピオネール(パイオニア)とは共産圏の少年団で、愛国的なコンセプトだったが、次第に一般的なスポーツ・健康プログラムに代わっていった。最近では海外のキャンプに子供をやりたがる親が多く、ブルガリアとトルコが人気だ。
1980年代にはソ連国内にピオネールキャンプが4万以上あり、そこで約1000万人の学童が休暇を過ごしていた。
現在は年金生活者のナタリヤさんは次のように語った。
「夏はほとんど毎年キスロボツクのそばのピオネールキャンプへ出かけていて、キャンプへ行かない夏なんて考えられませんでした。登山サークルの仲間とともに毎日のように山登りを楽しみました。キャンプの規則は厳しかったのですが、女の子同士でこっそり町へ繰り出したりしていました。後でおきゅうをすえられて、みんながディスコへ行くときに行かせてもらえなかったりしたことも……」
ピオネール(共産主義少年団)組織はなくなったが、キャンプはそのままの形で残り、非公式な伝統も受け継がれてきた。
このキャンプを体験した誰もが真っ先に思い出すのは、歯磨き粉。それを夜にみんなに塗るのが、子供たちの何よりの楽しみだった。
クセニア・プロトニコワ撮影
ソ連最初のピオネールキャンプは1925年にクリミア半島のグルズフ村に設けられ、「アルテク」と名付けられた。
当初はロシア赤十字社の提唱に基づき、結核に苦しむ児童のためのサナトリウムとして機能していた。
1927年からキャンプに年長者のリーダーが置かれるようになった。このシステムは後にすべてのピオネールに広まる。
教師はというと、郷土史や自然科学などのレクチャーをしたり、子供たちとエクスカーションをして植物標本を作ったりした。また、海岸や公園の清掃も教育プログラムに含まれていた。
こうしてアルテクはいつしか普通のピオネールキャンプのメッカとなり、ソ連のすべての学童にとって、アルテクのキャンプで夏休みを過ごすことが憧れの的になった。
男子が女子の部屋に忍び込んで顔に歯磨き粉を塗るのだが、それにはコツがあった。チューブに入った粉は冷たく、そのまま顔に塗ると標的にされた子はすぐに目を覚ましてしまうので、前もってチューブを自分の体で温めておく。この遊びはそのものずばり「塗り」と呼ばれていた。
「今日は女の子たちを塗っちまおうぜ」と悪童たちは相談し「今日は私たちが塗られちゃったわ」とやられた方は話したりする。
女子大生のビクトリアさんはこう語る。「私は5年続けて子供のキャンプへ行きました。毎日何かの行事がありました。ディスコとか、テーマ別の祭事。男子が女子に、女子が男子になる『あべこべの日』というのもありました」
どこのキャンプにもかならず「女王様の夜」というのがあった。それはキャンプの最後の夜。みんなが願いごとをしてキャンプに別れを告げる。
年少の子たちは晩に「願いごとの小径」を順番に通らされる。そこを通ったら朝まで黙っていないと願いごとがかなわないというわけで、彼らはおとなしく早々に眠ってしまう。年長の子たちは朝まで眠らず、トイレットペーパーを投げ合ったり、寝てしまった人にいたずらをしたり……。
学生時代にリーダーを務めたイワンさんは「子供たちにはできるかぎり何かをやらせていました。彼らに何かを禁じることはできないけれど折り合いをつけることはできると思っていました。私の班の子供は12~13歳なので楽でしたね」と語る。
キャンプは福利厚生の事業であり、現在これを運営しているのは大企業や国の省庁である。
多くの企業はスタッフを抱えて年間を通して大きな敷地を維持管理するより、社員の子供たちのためによそのキャンプの利用券を買ったほうが安上がりなので、次第にキャンプを手離しつつある。いずれにせよ、キャンプで休暇を過ごした少年少女にとって、子供時代の最高の思い出の一つなのだ。
クセニア・プロトニコワ撮影
1. 歯磨き粉
眠っている子の手のひらに気づかれないようにそっと歯磨き粉をつけ鼻を羽毛でくすぐる。「塗り」と呼ばれるいたずら。
2. 天井落ちる
眠っている人のすぐ上にシーツを張っておいてから、「早く起きて、天井が落っこちてくるぞ!」と叫んで起こす。
3. つなぎ服
夜のうちに誰かの服を全部つないでおく。いたずらされた子はそれをみんな解かないと服が着られない。
4. かゆい
シーツに茶がらをまいておく。いたずらされた子は夜どおし寝返りを打ちながら体を搔(か)くことになる。
5. 運び出し
目星をつけられた子が深い眠りに落ちたら、廊下かトイレへ寝台ごと運び出す。暖かな夜ならば戸外へ。
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