デジタル・ルーブル:誰がどう利用するのか

テック
マリア・ブニナ
 ロシアで現金・非現金決済と並んで第三の通貨形態「デジタル・ルーブル」が登場する。デジタル・ルーブルとは何なのか、またそのメリットとデメリットとは。

 デジタル・ルーブルとは電子化されたロシア通貨で、ロシア連邦中央銀行が既存の通貨形態に加えて発行を計画しているものだ。

 電子コードで表されるデジタル・ルーブルは、個人や法人の電子口座に保管される。中央銀行のプラットフォームで口座を開設することができ、そこでデジタル・ルーブルを利用したすべての決済が行われる。

 各銀行で保管されている既存の非現金形態のルーブルとは異なり、デジタル・ルーブルは中央銀行で保管される。これは預金の安全性を担保することになる(ハッキングは別として)。それでいて、使い慣れた銀行の携帯アプリやインターネットバンクを通じてデジタル・ルーブルを利用することができる。既存の紙幣のように、すべてのデジタル・ルーブルに固有のコードが付与されている。

 デジタル・ルーブルでの決済は従来と変わらない方法で行われる。ただ、送金されるのが電子口座から電子口座になる、というだけだ。また、銀行の携帯アプリに表示されるQRコードを使って店での買い物にも利用できる。将来的にはNFC(近距離無線通信)を使って支払いができるようにもなる。

 2023年8月1月にデジタル・ルーブル法が施行される。このときから中央銀行と特定の金融機関、その職員によるデジタル・ルーブルのパイロットテストが始まる。中央銀行の評価によると、一般市民が利用できるようになるのは2025年から2027年にかけてとなる見込みだ。

 中央銀行総裁のエリヴィラ・ナビウリナによれば、新通貨の利用は任意だそうだ。デジタル・ルーブルは人々に新たな可能性を与えるものとなる。「利用したい人は利用するし、利用したくない人は利用しない。誰も無理にデジタル・ルーブルを使わせようとは考えていない」と、ナビウリナは発言している。

なぜデジタル・ルーブルが必要なのか

 デジタル通貨の急成長は、金融政策を司る中核機関としてのロシア中央銀行が持つ、通貨レートとインフレーションへの影響力を縮小させることによって、金融システムと国家機能の安定性にリスクを生じさせている。人々の暗号通貨への関心の高まりを背景に、この問題に直面しているのはロシアだけではない。

 デジタル・ルーブルは、何の保障もないビットコインやその他のオルトコインの中央集権化された代替物となる。ロシア中央銀行にとっては、国内の通貨流通をよりコントロールしやすくなることを意味する。

 実際的な問題としては、公的予算の支出をコントロールしやすくなる。特定の使途用にコード化されたデジタル・ルーブルを賄賂や他の違法な目的に当てることは難しくなるからだ。法人および個人取引の情報にアクセスできることは、システムの透明性を高めるはずで、また同時に、課税対象となる収入の実額を把握し、取引の合法性をチェックすることができる。

 技術的なレベルでは、これはスマート・コントラクト(双方があらかじめ設定した条件によって自動的に実行される取引)によって行われる。

 「スマート・コントラクトには取引双方、取引金額、取引の実行条件に関する情報が含まれます」と、中央銀行のウェブサイトに掲載されているデジタル・ルーブルのコンセプトペーパーには書かれている。また、「スマート・コントラクトのさらなる利用法のひとつは、デジタル・ルーブルのマーキングです。たとえば、デジタル・ルーブルで購入することのできる商品やサービスのカテゴリーを細かく設定するなど、使途を条件設定でき、マーキングされたデジタル・ルーブルの資金移動の流れをすべて追跡することもできます」とある。

 その際、デジタル・ルーブルに関する情報は従来の非現金決済と同様、銀行の顧客情報守秘義務に関する法律で守られることになっている(違法資金の洗浄およびテロリスト支援を防ぐ目的で当局への顧客情報提供が可能になる例外規定を含む)。

デジタル・ルーブルのメリット

  1. デジタル・ルーブルが保管されるのは中央銀行のプラットフォームであり、倒産の可能性もある営利企業ではない。デジタル・ルーブルは国家が保有する金準備と他の国家資産に裏付けされている。
  2. デジタル・ルーブルの利用にインターネットは必要ない。まだ開発途上の技術だが、デジタル・ルーブルのコンセプトペーパーによれば、オンライン決済実行のために、オンライン口座の他に、利用者の携帯端末に直接もうひとつのデジタル・ルーブル口座が開設される。口座への入金は、インターネットに接続した上で、オンライン口座から通常のデジタル・ルーブル送金を通じて行われる。(訳注:携帯端末の口座にデジタル・ルーブルが入金された状態であれば、決済にインターネットは必要ない、という意味)
  3. デジタル・ルーブルの盗難や紛失の際、デジタル・ルーブルに付与された固有の電子コードによって迅速に追跡し、所有者の侵害された権利を回復することが可能。
  4. ロシア市民は、デジタル・ルーブルによる送金・支払いの手数料は無料。電子口座への入金と送金の限度額は一ヶ月30万ルーブル(手数料無料での、以下同)。この金額は、現行の即時決済システム(SBP、携帯電話番号によって決済が可能なシステム)の限度額10万ルーブルの3倍。
  5. ロシアの事業者はデジタル・ルーブルを利用すれば手数料を削減できる。デジタル・ルーブル決済の手数料は予め設定された0.3%を上回ることはない。現在は決済金額の3%までかかることもある。
  6. ロシアでのデジタル・ルーブルと他の国でのデジタル通貨の導入は、(2022年にロシアの主要な銀行は遮断された)SWIFTを介さない国際送金を可能にすることが予想される。

30ヶ国以上の中央銀行が現在デジタル通貨の導入に取り組んでいる」と、ロシア中央銀行のオリガ・スコロボガトワ第一副総裁は発言している。「各国の中央銀行がこのテーマに取り組むスピードを見れば、5年から7年後には数ヶ国でデジタル通貨が導入されることは確かだと考えられる。そのときには、国家間の直接経済統合の課題も解決されるだろう。この場合、SWIFTは必要ではなくなるかもしれない。デジタル通貨は全く別のテクノロジーだからだ」。

 現在のところ、デジタル通貨を積極的に利用しているのはナイジェリアで、他の多くの国もパイロットプロジェクトをスタートさせており(中国、南アフリカ、タイ、シンガポール、カザフスタン、サウジアラビアなど)、20ヶ国以上が自国のデジタル通貨を開発中だ(インド、ドイツ、イタリア、スペイン、ブラジル、カナダ、トルコ、オーストラリアなど)。

デジタル・ルーブルのデメリット

  1. デジタル・ルーブルには預金金利とキャッシュバックがない。つまり、デジタル・ルーブルはインフレーションの影響を被る。定期預金口座の開設やクレジットも使えない。
  2. デジタル・ルーブルには100%の保障はない。ハッカーによる攻撃や詐欺被害の可能性はある。だが、固有のコードによって、失われた資金を取り戻しやすくなる。
  3. 理論的には、固有のコードの存在は国家によるデジタル・ルーブルの利用規制を可能にさせる。しかし、今のところそのような目的はない。

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