ロシアの永久凍土から出てきた線虫

 2年前、ロシアの学者らは永久凍土から見つけた42000年前の古代の線虫を目覚めさせた。古代の線虫は生き返り、食事をとり始め、急速に繁殖し始めた。この出来事は革命的だと学者らは語る。なぜこのようなことが起こったのか、研究者らは謎を解こうとしている。

 「ジュラシックパークを作りたいか。こうやってジュラシックパークができるのだ」。

 「やめろ。線虫を凍らせろ。2020年にこれ以上の災いは必要ない」。

 「嫌な予感がする」。

 そもそも、ロシアの研究者らがシベリアの永久凍土で見つかった古代の線虫を「解凍した」ことが報じられたのは2018年のことだ。当時、ロシア国内外の学術誌にこの出来事に関する論文が掲載された。しかし2020年、線虫のことを思い出した誰かがニュースを拡散し、「これは2021年に起こる[感染症の災いの]続編の予兆に過ぎない」などといった新たなミームを生み出した。

 とはいえ、線虫は発見以来、常に研究者らの観察下にある。この出来事はクリオビオシスや生物学における革命だからだ。線虫や輪形動物、緩歩動物(クマムシ)といった微小な無脊椎動物はかなり生命力が強く、乾燥あるいは凍結した状態に長く留まり、後に復活できる。

 「だが彼らにとっても、従来の仮死状態での生存記録は約30~40年だった」とロシア科学アカデミー物理化学生物土壌学研究所の上級研究員のアナスタシア・シャチロヴィチ氏は話す。彼女は他の研究所の学者らのグループと共同で古代の線虫を研究している。

全くの偶然 

 当初シャチロヴィチ氏らは永久凍土の中の線虫を探していたわけではなかった。彼女らはサハ共和国の永久凍土の堆積物に数千年間冷凍保存されていた原生生物(単細胞生物)の群集を研究していた。単細胞生物が冷凍保存された状態で数千年、数億年生きることは特に珍しいことではない。2000年には、彼らは塩の結晶の中で2億5千万年間眠っていた細菌の芽胞を見つけ、これを生き返らせた。それより前には、プシチンスキー科学センターの研究者らが永久凍土に3万年間眠っていた種の生きた細胞から植物を育てることに成功していた。だが、多細胞生物の線虫を生き返らせられるなど、誰も予想だにしていなかった。

線虫が見つかったところ

 「地質学的な規模の時間をクリオビオシスで生き延びる多細胞生物というのは今まで見つかっていなかった。同時に2つの凍土の試料から生きた線虫が見つかったのは、幸運としか言いようがない」とシャチロヴィチ氏は語る。

 線虫はすぐには見つからなかった。凍土の試料がプシチンスキー研究所の研究室にもたらされた際、研究者らはそれをペトリ皿の培地に乗せ、古代の原生生物を見つけるため数日に一度観察していた。

 「我々は線虫が動き出してようやくその存在に気付いた。解凍時から約2週間が経っていた。ひょっとすると、もっと早く生き返っていたのかもしれない」と彼女は話す。

 現代の線虫が紛れ込んだのではないかという疑いは除外された。まず、線虫が見つかった試料はいずれも独立した研究者らによってシベリアのコルィマ川付近とアラゼヤ川付近という別々の場所の堆積物から取り出されたものだった。さらに、標本の一つは高い滅菌性を示す方法でコア試料から取り出されていた。

アラゼヤ川付近

 試料から見つかった線虫の一種であるパナグロライムスは32000歳で、もう一種のプレクトゥスは42000歳だった。どちらも雌だった。

コルィマ川付近

 この結果をまとめた論文が出ると、ロシアの研究者らにドレスデンの研究者らが協力を申し出た。こうして線虫のDNAがドイツのマックス・プランク分子生物学・遺伝学研究所のテイムラズ・クルズチャリア氏らの元に送られた。彼らは現在2種類の線虫のゲノムの完全解読に取り組んでいる。

最も興味深い謎

 「単細胞生物はその高い順応力によって生き延びることができる。例えば、芽胞や嚢胞など、さまざまな成長休止期の段階を形成できる。だが、多細胞生物の作りは複雑だ。長い間仮死状態にあると、細胞内でDNAと細胞膜の損傷が進み、毒素が生成され、仮死状態の最中や解凍後に組織を破壊してしまう。だがどういうわけかこの線虫たちは生き延びた」とシャチロヴィチ氏は言い、これを「最も興味深い謎」と呼んでいる。

永久凍土で見つかった古代の線虫

 損傷の修復はどのように起こるのか。どのような適応メカニズムが働いたのか。どのようなユニークな遺伝子を持っているのか。4万年の間にこれらの種に進化は起こったのか。ゲノムが完全に分かれば、多くの疑問が解けるだろう。

 ゲノムの解読には約2年を要した。一種につき一年かかったのだ。分かったのは、うち一種の線虫は三倍体を持つということだ。つまり、染色体が3セットあり、単為生殖する。ゲノムの解読は年末までに完了する予定だ。

人類にとって致命的な脅威か

物理化学生物土壌学研究所の研究者

 この線虫の子孫は現在、雪氷土壌研究室に保管されている。一部は冷凍され、一部は乾燥され、一部は生きて繁殖を続けている。

  アナスタシア・シャチロヴィチ氏は、多くの人に「もし線虫と一緒に危険な微生物が解凍されたらどうなるのか」「何か恐ろしいものを解凍する恐れはないのか」「線虫を解き放つことで生態系にどんな影響があるのか」と尋ねられるという。

 「永久凍土は常に溶け、地中に眠っていた生物は毎年のように現代の生態系に解き放たれている。これは自然のプロセスだ。我々は単に自然に倣うだけで、自然界で起こらないことは一切しない」とシャチロヴィチ氏は言う。

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