ロシアは月探査競争で米中を追い越せるか

Reuters
 「月探査競争」は、おそらく今日のロシア宇宙工学にとって真の悪夢だろう。だが、どうもロシアに他の選択肢はないようだ。

 「合衆国は月面に戻る。これは皆が思っているよりも早く実行されるだろう」と昨年11月にNASAのジム・ブライデンズティーン長官がツイッターに記した。これは、月を目指す競争に参加することを、米国が厳かに表明したものに他ならない。だが中国とは異なり、これは今のところツイッターの中だけの話だ。この直後に中国は月面探査機を打ち上げ、人類史上初めてそれを月の裏側に着陸させた。

 一方ロシアの議会では、ロスコスモスの代表が慎重に自身の推測を述べた。「私の考えでは、月探査競争が始まったようだ。現在おそらく、3つの宇宙大国の間で一種の競争が行われている。」 第3の国はもちろんロシアだ。ロスコスモスは、2019年春に独自の新しい月開発コンセプトを提示することを約束している。ちなみにソビエトの探査機が最後に月へ行ったのは、1976年という遠い昔のことである。

なぜ皆月に飛ぶ必要があるのか

モスクワの上の満ちていく月。画像は20枚の写真を重ねたもの。

 月まで飛ぶには非常に費用がかかる。13年に及ぶアポロ計画(他に先駆けて月面に人を送ることを目的として1961年に始まった)の最初の数年間ほど多額の出費をNASAが経験したことは後にも先にもない。だが、こうした投資は将来必ず報われると考えられている。月探査は基礎科学にとって重要であるほか、燃料やその他の資源を補給する火星探査用の宇宙基地として月を利用することも検討されている。遥かなる宇宙に探査機を送る「門」となるわけである。

 現在月は、南極大陸同様に、どの国の領土でもない。「あそこ[南極]には規則がある。湖の近くに基地を建てれば、もう他の者は同じことをしてはならない。月でも状況は同様だ」とロシア科学アカデミー宇宙研究所のレフ・ゼリョヌイ所長は話す。国連では1979年に、月とその資源は「人類の共通の遺産」であり、誰も月面で主権を主張することはできないという協定が採択された。問題は、ロシアも、米国も、中国も、この協定に批准していないということだ。つまり、月に多量にある資源をめぐる論争が起きるのは時間の問題なのである。例えば月には、地球では稀少なヘリウム3同位体があり、その量は少なくとも人類に250年間のエネルギーを供給できるほどと推計されている。インド宇宙研究機関のカイラサヴァディヴー・シヴァン所長がすでに指摘したように、「月から地球へ資源を輸送する能力を持つ国々が、このプロセスを支配することになるだろう」。

国際宇宙ステーション(ISS)

 その上、国際宇宙ステーション(ISS)が2024年には現在の形で存在しなくなるだろうという憶測もある。現在ISSの維持費の約半分(約25億ドル)を米国が負担しているが、この契約は2024年で満了する。ドナルド・トランプ政権は米国がISSを維持し続けることを望んでいない。NASAにはすでに、月周回軌道や月面に方向転換し、ISSは商業目的で民間企業に引き渡すという計画がある。

  「だが、現在ロシアの宇宙計画はただでさえ空転状態だ。問題は、計画が常に延期されたり変更されたりすることだ」と「アンガラA5」ロケットと「KSLV」ロケットを開発した技師の一人であるアレクサンドル・シャエンコ氏はロシア・ビヨンドに話す。

未完のプロジェクト

国際宇宙ステーションのクルーによって使われた有人宇宙船「ソユーズMS-11」。バイコヌール宇宙基地の打ち上げの前に組立場から発射台へ運ばれる様子。

 目下ロシアが計画しているのは、土壌に凍った水が見つかっている月の南極に、他国より先に向かうことだ。ロシアはそこに将来の基地を建設する予定である。2020年に、月の南極に向けて欧州の設備を搭載したロシアの探査機「ルナ27号」が送られることになっている。

 ロシアは同じ2020年に月に向けてISSのロシアセグメントの一部を月に送り、それを基に2030年代に月周回軌道基地を建設することを目指している。この宇宙基地には、新しい宇宙船で定期的に人が送り込まれることになる。

 これは結構な計画だが、すでに問題も起きている。2019年に打ち上げられる予定だったロシアの探査機「ルナ25号」の打ち上げが2年延期されたのだ。この探査機は史上初めて月の南極に着陸する予定だったが、ロシア科学アカデミーの会議は、実験で「思わしい結果が得られなかった」と結論付けた。これが原因でロシアはすでに協力国の一つを失った。スウェーデンは、「ルナ25号」に代えて中国の探査機に自国の外気圏調査装置を載せたのだ。今後も頓挫が続く恐れがある。

 「開発は常に頓挫してきた。我々は未だに新しい宇宙船『フェデラーツィヤ』(建造作業はもう10年も続いている)を完成させられていない。プロジェクトを打ち切りにして、『ソユーズ』を最新化するという話も出てきている。我々は未だに重い『アンガラA5』ロケットも打ち上げられていない」と「スホイ」の元設計者、ヴァジム・ルカシェヴィチ氏はロシア・ビヨンドに話す。

技術の喪失

2019年1月3 日。中国の北京航天飛行制御センターで働く技術家
たち。中国は月面探査機を打ち上げ、人類史上初めてそれを月の裏側に着陸させた。

 計画の頓挫の他にも問題がある。ロシアは、ソ連時代に蓄積された惑星間探査機の打ち上げ、飛行、着陸に関する技術を失ってしまった。誰も地球周回軌道の外に出ることがなかった40年以上の沈黙の時代の影響は大きい。ロシア科学アカデミーも認めているように、長らく実践を欠いたためにこうしたノウハウは忘れられてしまった。現状で惑星間探査機を開発できる人々は、すでに退職してしまっているか、亡くなってしまっている。

 まずロシアは月面に探査機を軟着陸させる技術を一から開発し直し、それから土壌運搬技術や月面探査機の開発に取り組まなければならない。経済制裁が状況をさらに複雑にしている。従来ロシアは宇宙電子工学部品の約7割を米国から購入していたが、今やこれは不可能だ。

時間稼ぎ

米国の火星探査ローバー「キュリオシティ」に搭載されている機器DAN(「中性子動的アルベド」)。

 とはいえロシアにもチャンスはあるとアレクサンドル・シャエンコ氏は見ている。彼は、火星と月に水を発見し現在は米国の火星探査ローバー「キュリオシティ」に搭載されている機器DAN(「中性子動的アルベド」)の存在を挙げる。それから、ロシアのもう一つの世界的に重要なプロジェクト、「ラジオアストロン」望遠鏡も挙げている。この望遠鏡は天文学史上最高の解像度で宇宙を捉え、予定の倍の期間運用された。退役したのはごく最近、今年1月のことだ。

 ロシアに時間を与え得るもう一つの状況がある。ISSのアメリカセグメントの民営化を目指すトランプ政権の計画に、米国上院とNASAのポール・マーティン監察長が強く反対しているのだ。「アメリカ人は、自分たちがISSの維持をやめて月探査に方針転換すると、中国にその座を奪われてしまうのではないかという深刻な懸念を抱えている」とルカシェヴィチ氏は考えている。ともあれ、これはISSがしばらく軌道上に残ることになる数ある理由の一つにすぎない。

 「あらゆる条件におけるモチベーションの欠如が我々の抱える重大な問題だ。予算は割かれているが、[月探査競争が]本当に不可欠だという実感を持つ者は誰もいない」とシャエンコ氏は言う。「ISSがある。ISSが従来通り機能し続ける限り、ロシアは真剣に月を目指すことはないだろう。」

 

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