宇宙に行って病気になったら

 ロシアの研究者の新たな実験は、火星や他の遠い惑星に飛行する際の人の治療薬の開発に役立ちそうだ。
 Cosmonauts
ロシアのセルゲイ・ヴォルコフ宇宙飛行士が宇宙遊泳をしている=  写真提供:「ロスコスモス」

 宇宙が人体におよぼす影響は予測不可能。最も危険なのは放射線で、すでに死亡している22人のソ連の宇宙飛行士のうち、ガンが死因だったのは40%強。軌道上の飛行は、部分的難聴から骨粗しょう症までの、他の疾患も引き起こす。現在、人類の大部分を治療しているビフィズス菌は、当初、宇宙飛行士の消化機能を回復させるために研究者によって考案されたもの。

 宇宙では、カルシウムが骨から血液や尿に流れ出て、尿路結石症の悪化につながる可能性がある。1982年、アナトリー・ベレゾヴォイ宇宙飛行士は、宇宙を飛行していた際、腎疝痛に襲われた。「宇宙空間に飛び出したくなるほどの痛みだった」と本人は語る。ベレゾヴォイ宇宙飛行士は、宇宙遠征の中断という事態に発展しないよう、痛いことを地球に伝えず、また軌道上で211日過ごすという新たな記録を更新するため、飛行延長にまで同意した。

 現在、国際宇宙ステーション(ISS)への短期飛行には、十分な地球の薬がある。だが、たとえば、火星などの長期飛行の治療薬の問題は、解決していかねばならない。軌道上で宇宙飛行士を治療するという課題は、簡単ではない。重力のある条件下では、人は異なる動作をするし、細胞の活動まで異なる。

 ロシアの研究者は、宇宙の長期飛行用の新薬の開発に役立つ、幹細胞の生存にあたえる宇宙の影響を研究することを決め、新しいバイオリアクターを開発した。2018年5月、これと幹細胞をISSに送り、影響を調査する。

 

予測不可能な重力

 「人や動物の細胞が、重力の低下や上昇といった異なる条件にさらされた時に、どんなふうになるのかわからない」と、第一モスクワ国立医科大学先進細胞技術課の上級研究員ミハイル・クラシェニンニコフ氏は話す。

 宇宙に送ろうとしているバイオリアクターの開発には、14年を要した。「宇宙環境で細胞を培養することに、まだ誰も成功していない。軌道上で細胞を育てる条件も完成していない」

 まず、軌道上で、ISSの乗員が常時監視をする中で、植物を用いた実験を行うという。細胞が無重力でどうなるのかが理解できてから、研究者は人体の細胞レベルで起こるプロセスの研究に着手する。

 「ISSや他の宇宙施設では、すべての植物が特殊な遠心分離機の中で維持される。そうでないと根が四方八方に延びてしまう。宇宙の条件では、植物さえも上と下を間違える。動物の体となればその混乱は計り知れない」

 

どんな薬に

 過酷な宇宙環境に人が順応する問題、そこでの治療の問題は、宇宙環境がMSC細胞(間葉系間細胞)におよぼす影響を理解できれば、完全に解決できると、研究者は考える。これらの細胞は、植物から人までのすべての生き物の組織の基礎である。

 骨組織、筋肉組織、脂肪組織を生成するだけでなく、中性幹細胞に変換可能。つまり、MSC細胞は、中枢神経系を含む身体のすべての重要なシステムの基礎なのである。

 研究者はこれを応用して、軌道ですばやく、効果的に、内臓の疾患、ウイルス感染症、ケガを治療する薬をつくろうとしている。

+
フェイスブックで「いいね!」を待ってます!