人間の身体のそれぞれの細胞では毎日、最大2万件のDNAの「小さな損傷」が起きている。これは紫外線、電離放射線、酸化ストレス、有害物質などから引き起こされる。二本鎖切断は、変異につながり、アルツハイマー病、ルイ・バー症候群、癌のような深刻な病気を刺激する。ヴァシリー・ストゥディツキー教授率いるモスクワ国立大学の研究者と、フィラデルフィアのテンプル大学フォックスチェイス癌センターの研究者は6月、DNA修復の新しいメカニズムを発見した。将来的には、さまざまな病気の治療や防止に役立つのではないかと、研究者は期待している。
DNAの損傷に、身体のタンパク質やシグナル応答性分子の複合群が反応しなかったら、生命はどんなことになるかわからない。複合群はDNAの損傷を検出し、修復できるかを評価し、切れた部分を接合する。
モスクワ国立大学の研究者スヴェトラーナ・ホロネンコワ氏と、オックスフォード大学のグリゴリー・ディアノフ教授の研究により、これが明らかになった。研究者らは2014年、いわゆる一本鎖切断を検出するDNA修復のメカニズムを発見した。
多くの場合、特別な酵素すなわちRNAポリメラーゼによって修復が行われる。酵素はDNAに沿って移動しながら、分子の損傷を探し、検出。修復するための一連の化学的反応を始める。ただし、酵素は二本鎖の一本の損傷しか“見る”ことができない。最近まで、2本目の鎖の修復がどう起こっているのかは不明であった。
「DNA鎖の表面の一部は隠れている。ヒストンという特別なタンパク質との相互作用があるため。このようにして、(情報読み取り中の部分を除いて)ゲノム全体が包まれている」と、生物学博士であるモスクワ国立大学生物学部転写調節・複製実験所のヴァシリー・ストゥディツキー所長はロシアNOWに話した。
ストゥディツキー所長率いるグループは、破損の修復がDNA鎖の内部の「隠れた」部分でも起こっていることを証明することができた。この発見については、7月初め、アメリカの科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載された。
研究者の説明によると、ヒストンに結合したDNA鎖の部分でさえも、RNAポリメラーゼによって修復されるという。この時、ヒストンは酵素の損傷検出を助ける。
ヒストンの助けがあることで、独自のDNAループが形成される。RNAポリメラーゼは、そのループに沿って移動することができる。損傷部分の近くに止まり、”警報をならし”、「修復作業」のための反応を始める。この時、DNAとヒストンの結合手段自体、すなわちループも、損傷発見を助ける。研究者は、ループの形状あるいはループ内のDNAの構造が、損傷時に変化する、と考えている。
研究者は実験の際、過酸化水素などの特別な酵素を用いて、DNAの一部に破損を作成。RNAポリメラーゼの速度におよぼすループの影響を調査した。そして、ループ形成プロセスをプログラミングすることができるとわかった。将来的には、DNAの損傷によって引き起こされる、さまざまな病気の治療や防止に役立つ可能性がある。
「DNAとヒストンの結合を強化すれば、ループ形成の効率および修復の可能性を高め、病気のリスクを減らすことができる。この結合を不安定にすれば、ナノ輸送体のような特別な薬物投与方法によって、損傷細胞を殺すプログラミングができる。この場合、癌を治療し、予防することが可能」とストゥディツキー所長。
科学者はこれから、仮説を証明していかなければならない。プロセスがはるかに困難である可能性もあるし、DNAで同時にいくつもの種類のループが形成される可能性もある。これを理解するために、ループの構造を描写し、DNAの修復メカニズムを観察し、またどのようなDNAの損傷のサブセットがこの機構により修復され得るのかを調べることが必要だ。
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