写真提供:ShutterStock/Legion-Media
幹細胞は病気を発症した際の、独自の「生物学的保険」である。幹細胞から肝臓や膵臓などの必要な内臓の細胞を培養することが可能で、脳卒中、糖尿病、腫瘍性疾患、心臓血管疾患、遺伝性疾患などの治療の際に使用される。
細胞は出生時の臍帯血、また大人からも得ることができる。ドナー自身、またその親戚が利用可能。細胞が自分のものであるため、拒絶反応が最低限に抑えられる。
今年3月、臍帯血からの細胞移植が、チェリャビンスクのカリーナちゃん(6)の治療で実施された。カリーナちゃんは4年前にファンコーニ貧血と診断された。これはまれな遺伝子疾患で、さまざまな症状を引き起こし、血液疾患や腫瘍が進行する。唯一の救援策は健康な幹細胞の移植。2年前にカリーナちゃんに弟のニキータくんが誕生したため、その臍帯血が移植に使われた。
開発のきっかけは戦傷
ロシアでは、幹細胞適用技術が国防省向けに秘密裏に開発されていた。ソ連時代のアフガニスタン紛争の際に、脳の戦傷の影響を防ごうとしていた。
この分野で25年以上研究を続けている神経科のアンドレイ・ブリュホヴェツキー医師はこう話す。「脳損傷への幹細胞の使用はロシアで進歩し続けている。最初は技術が子牛に使われていた。作業は有名な移植科医でアカデミー研究員のヴァレリー・シュマコフ氏と共同で行った」
国防省は今年6月、研究継続の意思を示した。国防省軍医総局のアレクサンドル・ヴラソフ副局長は、キーロフ軍医アカデミーで新しい科学中隊を編成する計画があることを伝えた。科学中隊は兵士の幹細胞バンク創設に関わる。
中隊は生物薬剤学、予防医学、技術工学の小隊にわけられる。生物薬剤学の小隊は、紛争地帯などのリスクの高い課題をこなしている軍人の幹細胞バンクで活動する。
諸外国よりも安く
幹細胞バンクがロシアにあらわれ始めたのは2000年代だが、すべてが現在まで残っているわけではない。今年4月末、モスクワでは一騒動あった。2003年から活動していた「フロラ・メド」バンクが消滅。新生児の幹細胞のサンプルもバンクとともに消えた。顧客は保存費用を支払っていたにもかかわらずである。
一部バンクは倒産した。再生医療への関心は高いものの、ロシア人が高額な幹細胞保存料を支払うことにためらっていることが原因の可能性もある。そのためか、モスクワの幹細胞バンクのサービス料は、世界と比べて低めになっている。例えば、モスクワで臍帯細胞を貯蔵すると9万5000ルーブル(約28万5000円)ほどだが、アメリカでは1万2000ドル(約120万円)ほどだ。
ロシアの幹細胞バンクの成功例もある。ヒト幹細胞研究所(ISKC)が昨年、先天・遺伝性免疫不全、クラッベ病、オーメン症候群、ダイヤモンド・ブラックファン症候群、ファンコーニ貧血などの遺伝子疾患の治療を行う「ジェネティコ」センターを開設。今年、シュバッハマン・ダイアモンド症候群の姉を救うため、新生児が誕生した。センターは近い将来、ヨーロッパやアジアの家族との活動も始める予定。アメリカでは現在、ISKCが開発した薬剤「ネオヴァスクルゲン」の登録手続きが行われている。これは下肢虚血を治療する薬である。世界では現在、2億200万人強がこの病気を抱えている。ロシアでは切断件数が世界でもっとも多く、年間100万人中500人に対して行われている。「ネオヴァスクルゲン」は、アメリカのメリーランド州バイオテクノロジー協会の評議会に支持された。
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