​国際裁判の判決は履行可能か

Lori / Legion-Media
 ロシア下院(国家会議)が、大統領または政府の照会に基づき、国際裁判の判決について、その履行可能性の可否を判定できるようにする法案を採択した。ロシアNOWが話を聞いた専門家は、国はこうして主権を守り、かつ問題が起きないように「保険をかけている」と述べた。

 ロシア下院(国家会議)が、国際裁判の判決――とくに欧州人権裁判所のそれ――について、履行可能性の可否を判定できるようにする法案を採択した。この法案によれば、大統領または政府の照会に基づき、ロシアの憲法裁判所が、判決が履行不能であると判定する権限をもつ。

 しかし、下院で示された考えによれば、こうした照会が行われるケースは「ごくわずかであり」、この法案自体は、ロシアにおける「投資の活発さの度合い、または私有財産の保護」に対し、いかなる損失もおよぼさないという。

 また下院議員らの指摘によると、これは世界の実際の対応と矛盾するものではなく、欧州の複数の国にも、同様の先例がある(例えば、ドイツとイギリス)。

 国際法の国内法に対する優越の問題は、今夏にも下院議員らによって提起されていた。その際、議員は、憲法裁判所にこの点での説明を求め、同裁判所は、ロシアとしては欧州人権裁判所の判決のあるものは履行しない権利があると声明していた。

 

単に保険をかけただけ

 こういう法案が出てきたのは、主に、国の内外の難しい状況と関係がある――。ロシアNOWのインタビューでこう説明するのは、弁護士で(欧州司法裁判所の審理にも参加している)、モスクワ国立法学大学准教授のアレクサンドル・マノフ氏だ。

 「残念ながら、ロシアの法制面での政策は、あまりにも政治化されている。ロシアに対し国外から圧力をかけようと試みるケースに、議員らは備えたのだろう。そういう懸念の根拠はある」 。マノフ氏はこう考える。

 欧州人権裁判所は、判決の執行機関をもたないため、欧州評議会の閣僚委員会を通じて働きかけるが、ロシアは最近、同評議会との関係が緊張しており、しかも、ロシアにとってリアルな問題が生じている。

 「確かに人間は主権をもつが、国家もまたそうだ。この法案は、国民の一部の福祉が損なわれ得るような要求に対して、保険をかけたもの。とくに、ロシアが民間石油会社ユコスの株主に対し18億7千万ユーロ(約2500億円)支払わねばならないとする判決に、それは関係している」。こうマノフ氏は説明する。

 しかしマノフ氏は、通常の事件と一般市民には、この法案は関係ないと確信しているという。もっとも、下院の立場はあまり先を見通したものとは言えず、いつかは、関係が正常化し、ロシアは欧州の裁判所の決定不履行を想起させられる日が来ると、氏は付言した。

 一方で、法律事務所「アート・デラックス」国際訴訟・仲裁実践部のアルトゥール・ズラビャン部長によると、ロシアの判断によるところの判決の「履行不能」が続くと予期する必要はないという。国際裁判所の決定が明らかに政治的で、ロシア連邦に損害を与えると認められ、この権利が何らかの形で適用されるような場合があるなら、細心の注意が払われる。「恐らく、このメカニズムは、核兵器装備のような抑止要因になるだけ」とズラビャン部長。ちなみに、同様のメカニズムは、多くの主要な法制度でも定められており、ドイツ(ギョリュギュル事件――家族関係分野の紛争)でも、イギリス(受刑者の選挙権非認に関するいわゆるハースト事件)でも、少なくとも一回ずつしか適用されていない、とズラビャン部長は説明する。