実現しなかった金正恩第1書記の訪露

画像提供:ロイター通信

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 北朝鮮の金正恩第1書記がモスクワで5月9日に行われた対ドイツ戦勝70周年記念式典を欠席したことは、ロシアで大きな反応を巻き起こした。ロシアの政治家や専門家はそれでも、ロシアと北朝鮮の関係に影響はないという意見で一致している。

 金第1書記がロシアを訪問しなかったことは、ロシアでかなり話題となった。ルネット(ロシア語界のインターネット)ではさまざまなジョークも飛び交った。例えば、ツイッターのパロディー・アカウント「大統領の考え」は、「あんな独裁者プーチンのところへなんて僕はお客に行くもんか」や、「ちょっと音楽家を数千人ほど急いで銃殺してこなきゃいけないから時間がないんだ」といった辛辣なブラック・ジョークをツイートしている。ちなみに音楽家の話は、韓国の聯合ニュースが最近伝えた「銀河水管弦楽団」の団員4人の処刑に関する未確認報道がもとになっている。 

 

ロシア政府は事実上ノーコメント 

 ロシア政府は金第1書記が訪問を見送ったことについて、特にコメントしていない。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官が「金正恩第1書記は平壌に留まる決定を行った。(モスクワの式典には)出席できない。外交ルートを通じてこの決定が伝えられた」と述べただけである。ロシアと北朝鮮の首脳の接触はいつごろありそうか、との質問に、ペスコフ報道官は「今のところ、いかなる具体的な計画もない」と短く答えた。 

 金第1書記の式典への出席は望ましくないとする意見が海外からモスクワに寄せられたのではないか、との憶測も、クレムリンは強く否定した。「そんなことはもちろんない」とペスコフ報道官は質問に答えた。 

 

専門家の見方 

 注目されていた金第1書記の訪問が見送られたことについて、ロシアの専門家はどのような現実的な理由を見ているのだろうか。サンクトペテルブルク国立大学国際関係学部のコンスタンチン・フドレイ教授は、「ロスバルト」通信の取材に対し、次のような障害をあげた。 

 第一に、父の金正日氏、祖父の金日成氏の慣例にしたがい、筆頭の来賓とはなれない国際イベントに出席しない路線を継続することを決めた。「モスクワの70周年記念式典はこの路線に合わなかった。金第1書記は筆頭には数えられなかっただろう。多くの出席者、特に習近平主席は、金第1書記よりもはるかに高い位置についただろう」とフドレイ教授。 

 第二に、1945年の認識の違い。「平壌からすると、第二次世界大戦の主な舞台はヨーロッパではなく、アジアであった。アジアの戦域では日本が中心であり、ナチスドイツではない。したがって主たる英雄とは、金第1書記にとってソ連軍ではない。そのためモスクワ訪問は、ヨーロッパをその舞台と認めることを意味するのではないか。このような変換への準備は、おそらく、金第1書記にできていない」とフドレイ教授は考える。 

 第三に、フドレイ教授や他の専門家によると、北朝鮮とロシアの関係は戦略的というよりも戦術的なのだという。「張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑した後、金第1書記と中国の関係はかなり難しくなった。むろん、アメリカとの関係緊張も続いている。北朝鮮はアメリカとキューバの関係改善も注視しているはず。若き金第1書記の主な目的はそれでも、アメリカとの和解だと思う。モスクワ訪問は、中国との関係改善に寄与しないし、アメリカとの関係改善ならなおさら」とフドレイ教授。

 

 

関係そのものには影響せず? 

 同時に、金第1書記の訪問見送りがロシアと北朝鮮の関係に影響を与えることはないと、ロシア側は強調している。「これが既存の合意を不安定にするようなことは絶対にない。これらはまったく無関係だと思う」とアレクサンドル・ガルシュカ極東発展相は話す。

 無関係の例として、ガルシュカ極東発展相は韓国をあげた。朴槿恵大統領もモスクワの式典を欠席している。「少なくともソウルに行った時、ここ2年開催されていなかった政府間経済貿易協力委員会の会議実施に関する最終決定が行われた。したがって式典への参加と経済貿易協力は別問題」とガルシュカ極東発展相。

 金第1書記が訪問しなかったことは、ロシアと北朝鮮の関係にまったく影響を与えず、両国の関係史における小さなできごととして残るにすぎない、という意見で研究者も政治家も一致している。