「2つのリング」で新世界秩序を構築

アジア太平洋地域では、米中が政治的、経済的にしのぎを削っている =AP通信撮影

アジア太平洋地域では、米中が政治的、経済的にしのぎを削っている =AP通信撮影

今年2月、アメリカのオバマ大統領は一般教書演説 で、自らの優先課題を示した。国際関係では、環太平洋および環大西洋の、2つの巨大な経済ブロックを率いることで、国際政治における指導力を維持する意向だ。

 また、オバマ大統領は、ブッシュ前大統領によって始められた「10年戦争」に終止符を打とうとしており、国際舞台で潰走する醜態をさらさずに、いかに整然と撤退するかが課題となっている。

 これらの戦略を支えるのが「スマートパワー」構想であり、主に非軍事的な手段により世界に影響を及ぼそうとするものだ。

 

天井知らずの成長

 この10年で米国のGDP(国内総生産)の世界に占める割合は、23%から 18%に落ち込んだのに対し、中国は10%から15%まで伸びた。もし中国式経済発展モデルが頓挫しなければ、2010年代のうちに両国のGDPは拮抗し、今世紀半ばには、中国が米国を2倍上回ることになる。

 トム・ドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)によれば、ホワイトハウスでは、こうした状況を改善しうるのはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)だという結論に達したという。

 TPPをうまく構築できれば、加盟国のGDPの4分の3が米国絡みとなり、この新経済“同盟”で主導力を発揮することができる。

 TPPは、中国が提唱しているASEAN(東南アジア諸国連合)+6に対抗したものだ。こちらの16カ国の経済同盟は、総人口30億人、GDPの合計は17兆ドルに及び、そこで主導的役割を果たすのは、域内のGDPの半分を占める中国となる。

 オバマ大統領は、こうした状況を踏まえた上で、TPP構築を優先課題の一つと位置づけたのだと思われる。米国としては、中国の主導下でのアジア経済統合は容認できず、米中の構想は並び立たない。

 こうして今、アジア太平洋地域では、米中が政治的、経済的にしのぎを削っている。

 

各地域のベクトルとシナリオ

 米国の新戦略はTPPだけではない。これの大西洋版であるTAP(環大西洋戦略的経済連携協定)も、優先課題の一つだ。

 近年、グローバリゼーションは、先進国と新興国の間での意見の対立のため、停滞している。そこで、オバマ政権は、北米、欧州、アジア太平洋地域の民主主義的な先進国を各地域で経済ブロックに統合することに重点を置くことにした。

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 そうすることでオバマ大統領は、環太平洋と環大西洋の経済同盟という巨大な2つの環を構築し、その主導的地位を米国が果たしていく意向だ。この2つのリングは現在、世界人口の約20%、GDPの約65%、輸出額の70%近くを占める。

 これに比べるとさしもの中国もかなり見劣りがし、人口は世界全体の19%、GDPは15.8%、資産は7.5%、輸出額は10%で、今後の成長を見込んでも、米国率いる2つの地域同盟には及ばない。

 

軍事

 米国は、中国の軍事力の現代化について懸念している。3月12日に発表された米国の年次報告によれば、中国は、太平洋のみならずインド洋に展開できる、限定的だが増大しつつある軍事力を有している。

 米国のシンクタンクであるランド研究所によれば、20年後に中国の軍事予算は米国のそれを超えることになる。

 米国防総省は既に、米国の軍事面での戦略の重心をアジア太平洋地域にシフトすると発表しており、また政府は、TAPが“経済のNATO”になると公言している。

 TAP諸国の軍事費は、世界全体の約60%を占め、これに太平洋地域の同盟国を加えると65%を超える。

 軍需生産でも、“2つのリング” すなわちTPP とTAP合わせると80%を下らず、軍事技術の研究、開発費は90%超となり、中国はもちろん、新興5か国BRICSを全部合わせてもTPP とTAPに及ばない。

 

21世紀半ばの世界は

 だが、オバマ政権が同盟国やパートナーとの意見の対立を克服できなければ、こうした長期的戦略は失敗する可能性がある。

 米国は今のところ、TPPとTAPのどちらにも、ロシアの参加を呼びかけていない。一方、中国もロシアをASEAN(東南アジア諸国連合)+6に招いていない。このような状況をみると、やがて来たる新秩序下のロシアの位置がどうなるか、考えざるを得ない。

 ロシアの“臨界量”は大きくない。人口は世界の約2%で、GDP は約3%にすぎず、新秩序下での政治的、経済的孤立は大きな危険を孕んでいる。ロシアも、米国同様、大西洋と太平洋への出口をもっているのに、西の統合プロセスにも東のそれにも参加していない。

 こうした状況から抜け出す方法を考えなくてはならない。幸いロシアは、その地理的位置のおかげで、太平洋と欧州・大西洋をつなぐ、大陸の“環”となることができるのだから。

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