情報の交換かはたまた漏洩か

画像:アレクセイ・ヨルシ
 5月15日(月曜日)、アメリカの多数のマスコミは、トランプ大統領を激しく非難した。今回ホワイトハウスの主が非難されたのは、ラブロフ・ロシア外相に、ロシアで禁止されているイスラム国との戦いにおける機密情報を漏洩したという理由でだ。とはいえ、非難している当のマスコミも、トランプ大統領が米国のどんな法律も破ったわけではないことは認めている。

 トランプ大統領の機密情報漏洩について真っ先に報じたのは、米ワシントン・ポスト紙。同紙は、米国務省の匿名の元職員および現役職員の情報にもとづき、次のように報じた。米大統領が、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相との非公開の会談の席で、アメリカの特殊機関およびその同盟国の行動の「メソッド」を暴露するような情報とその情報源を漏洩した、と。

 とはいうものの、米大統領は、どんな情報でも公開し、その利用方法について決定する権限をもっている。だから、トランプ大統領を最も厳しく批判する者たちでさえも、大統領の行動が不適切で危険をともなうと言っているだけだ。その不法性について云々することはできないでいる。

 ラブロフ外相とトランプ大統領の会談が行われたのは5月10日のこと。大統領が米連邦捜査局(FBI)のジェイムズ・コーミー長官を解任した翌日だ。ちなみに、FBIも国家機密の保護を担当している。

 ところで、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると、イスラム国のテロリストが民間機を攻撃する方法に関する情報について、露外相と米大統領が話し合ったというのだが、この情報を大統領に提供したのは、FBIではなく、国家安全保障局(NSA)か中央情報局(CIA)らしい。マクマスター大統領補佐官は、ちなみに、軍事行動のメソッドや具体的な情報源などはまったく話題にならなかったと断言している。

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機密情報の“最終利用者”

 機密情報、すなわち特殊機関の最も重要な「製品」の最終的な利用者は誰だろうか?当然、国家元首である。毎朝、国の指導者の机上には機密情報がまとめて載せられている。それらを読むのは、超大国の指導者にとっては、一般市民が朝コーヒーを飲みながらニュースを見るのと似たようなものだ。

 もちろん、大事件(例えば、テロとか地域紛争の激化とか軍事攻撃の可能性の発生とか)が起きた場合には、指導者は別個にメモランダムを受け取る。大抵の国では、特殊機関の長官は定期的に、国家指導者に最も重要な情報を個人的に報告する。が、それらの情報の入手方法と情報源について指導者に教えることはめったにない。指導者に必要なのは情報であって、それを手に入れる方法ではないからだ。

 とはいえ、特殊機関の最重要な活動については、国の指導者には常に知らせる。例えば、第二次世界大戦中、イギリスは、ナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」の解読に成功し、ナチスの行動計画に関する膨大な情報を入手する可能性を得たが、これを受けて、ウィンストン・チャーチル英首相は、この種の情報の利用に関する決定を自ら行った。その例は、彼が自国の都市への大空襲のいくつかについては、自ら傍受する可能性を放棄したことだ。英空軍がうまく防御することで、かえって独軍にそのデータ通信システムが傍受されていることを感づかれるのではと恐れたからである。

 その点、チャーチルとは違って、ソ連指導者、ニキータ・フルシチョフは、機密の扱いは大変ぞんざいだった。例えば、1964年10月、ソ連共産党中央委員会総会における、フルシチョフ解任に関する報告には、彼が外国人との会談で、ソ連の軍備と宇宙開発計画に関する機密情報を漏らしたことが再三あったと、はっきり記されている。世界史上、超大国の指導者がこんなふるまいをしたケースはごく珍しかった。

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ロシアにとっては良いシグナル

 ひるがえって現在のロシアの指導者たちが何らかの機密情報を漏らしたようなケースは指摘されていない。その一方で、ロシアのマスコミは、非公開の首脳会談に関する情報は、公式情報を通じて知るようにしている。だから、ラブロフ外相は、トランプ大統領にとっては、共同でテロリズムと戦うために情報交換をしようという場合には、この上なく信頼できるパートナーということになる。

 最近、シリアのシャイラット空軍基地を米軍が巡航ミサイル「トマホーク」で攻撃して以来というもの、露米両国の特殊機関と軍の間での、イスラム国の行動に関する情報交換はほとんどなくなってしまった。しかし、中東で具体的な成果を上げたいトランプ大統領は、明らかにロシアの支持を取り付けたがっている。で、いま彼がイスラム国の作戦計画に関する機密情報をロシアに合法的に手渡せる唯一の人間である以上は、それを自分の手で行っているだけのことだろう。

 だから、ラブロフ外相がかなりの重要な情報をロシアに持ち帰った可能性はあり、それは、シリアでイスラム過激主義者に対し効果的に用いられることになるだろう。そして、たぶんトランプ大統領も見返りに何かを得たのではないか。

 コーミーFBI長官解任後、反トランプ陣営はその数を増している。5月15日に始まった「特殊機関の機密情報漏洩」で彼を非難するキャンペーンは、なるほど、一時的には彼の人気に影を落とし得る。だが、この状況でより重要なのは、アメリカの指導者がテロ対策のため、ロシアとの情報交換を続ける用意を示したことかもしれない。そのおかげで、イスラム国との戦いでかなりの成功を収める可能性は十分ある。そして、それは結果的に、この第45代米大統領の人気を押し上げることにもなるだろう。