ロシア外交の舞台となり得るG20

AP通信
 中国の杭州市で開催された世界の指導者たちの首脳会議は、G20サミットを演出過剰の定例写真撮影会さながら、実体のない会合として見下す考え方に異議を唱えるものだ。少なくとも、プーチン大統領は手ぶらで帰国することは拒んだ。

 2日間の日程で開催されたサミットの舞台裏でロシア大統領が行った一連の一対一の会談は、明白かつ肯定的な結果をもたらした。 

 二国間関係の比重と複雑さの関係から、可能な対談相手の選択肢はもともと限られていたが、その中でもおそらく、3人の「大物」と行った会談が注目に値する。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、英国のテレーザ・メイ首相と米国のバラク・オバマ大統領だ。

 

再び軌道に乗るターキッシュストリーム

 7ヶ月間にわたり断絶状態にあったトルコとロシア間の関係が最近修復されたことを受けて、「独裁者」たるエルドアン大統領を相手に杭州で行われた会談では、少なくとも5つの顕著な進展が明らかになった。 

 第一に、ロシアとトルコが共同出資する投資ファンドが、早ければ10月または11月には発足し、収益性の高いプロジェクトに融資枠が提供される予定だ。

 第二にモスクワは、食料品禁輸制裁を徐々に解除することで、トルコの農業関連産業の輸出を再活性化させている。

 第三に、ロシアのロスアトム社によるメルスィン県のアックユ原子力発電所の建設が加速化される予定だ。 

 第四に、黒海を横断し欧州側のトルコ領土へつながる海底パイプライン「ターキッシュ・ストリーム」に対し、以前発行されたすべての認可書の再登録を最終承認することに対し、エルドアン政権の準備態勢ができていることである。

 そして何といっても、ロシアとトルコの両国は自由貿易ゾーン設立の合意間近に迫っており、既に中期的な経済・技術・科学的協力プログラムを策定済みであるという点だ。

 

トランプ役を演じるテレーザ・メイ

 最大の競争相手に現実的なアプローチで取り組む姿勢を示す顕著な例として、新たに表舞台に登場した英国のテレーザ・メイ首相は、初めてウラジーミル・プーチン大統領と会談し、最悪の状態にあった両国間の関係を、対話により改善していくことを約束した。

 正確を期するため、発言内容を引用しておこう。「両国間に一定の相違点があることは承知していますが、私たちには話し合うべき複雑で深刻な懸念事項や課題点があります。私たちが率直でオープンな関係や対話を持てるよう願っています」とメイ首相は述べた。 

 この英国人らしく典型的な控えめの表現 (「両国間の一定の相違点」) は、何世紀にもわたって非攻撃的な言葉によるコミュニケーションを洗練させてきた外交という絶妙の芸術を具現するもう一つの例だ。人工的にこじれた英国・ロシア関係という背景においては、調整が不可能な利害の対立を克服するのに、そのようなコミュニケーションが役立つ。

 「トランプ役を演じる」ことは、完全な「リセット」に比べれはとても及ばないが、それでも、外交官がよく口にするように、「これは正しい方向への一歩である」と言えるのではないか。

 

シリアをめぐる妥協の模索

 モスクワとワシントンは、泥沼状態に陥っているシリア状勢について、妥協案の合意に迫っているようだ。ジョン・ケリー米国務長官が認めたように、いくつかの「困難な問題点」がまだ残されている。

 しかし「レイムダック」化した米国のオバマ大統領は、その政権期間中に、歴史教科書に記されるような外交政策上の成果を残すことに熱心だ。そうすることにより、まだ成し遂げていない業績に達する一種の「前払い金」として授与されたノーベル平和賞に値する人物として、自らの真価が実証されるからである。

 オバマ氏は、シリアの紛争を停戦に持ち込む見通しについて自らが抱いている懐疑的な考えを、率直に明らかにした。任期終了が迫っている米大統領が懐疑的に感じる根拠は十分にある。米国は、「穏健派」の反政府勢力 (親欧米の戦闘員か?) を標的とする空爆を停止させるためシリアに圧力をかけるよう、ロシアに要求している。また、トルコ北部地方に通じる「人道的回廊」の確保も要求している。

 モスクワが、シリア政府の地上戦力を強化するための空爆を止めるようバッシャール・アル=アサド大統領を説得することに成功したとしても、アサド反対派勢力や、最近補強されて戦闘活動を再開し、失った領土を奪回しつつある、ロシアで禁止されているイスラム国は、シリア政府が示す自制を尊重する気にはならないだろう。

 米国の提案を実施することで得られる唯一の成果は、シリアの内戦における逆波となる可能性がある。しかし、これまでに交渉されてきた内容のすべてが明らかになっているわけではない。

 

先行きの暗いG7を避けるクレムリン

 G20会議開催の前夜、ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイアー外相は、ウクライナとシリア問題の解決に向けて十分な進展がなされることを条件に、次回のG7首脳会議にロシアを招待することを提案した。

 それに対しプーチン大統領のドミトリー・ペスコフ報道官は、「国際勢力のラインアップを最も反映しており、そのような舞台でロシアがより力を発揮できる」という理由から、ロシアはG20を優先すると説明した。

 同時にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ロシアは「G8の形式にはこだわらない」うえ、参加国が西側諸国に限定されているこのクラブに再び加わるために労力を費やすつもりはないと強調した。

 ロシアは1998年にG7の「クラブ会員」になったが、それは当時、冷戦の斧が最終的に葬り去られた後、崩壊した旧ソビエト連邦の最大国であるロシアが、西側の正当なパートナーとして受け入れられたことを意味する、有意義な成果であるとみなされていた。

 その後の2014年、ウクライナ東部での劇的な展開をきっかけに、G7はロシアをブラックリストに入れ、そのメンバーシップを停止扱いにした。

 モスクワのあの冷たいあしらいのボイコットから、シュタインマイアー氏による条件的再参加の招待に至るまでの過去2年間に、実際にどんなことが起きたのだろうか? G8がG20に対する競争力を失ったのはなぜか? 学者でロシアの元第一外務次官のフョードル・シェロフ=コヴェジャエフ氏が、ロシアNOWに対し自身の見解を解説してくれた。

 「G7は概して、ロシアに対し行使可能なアメとムチの戦術を過大評価してきました。 G7は、ある日学校に編入してきた生徒を歓迎したかと思いきや、別の日になると家に送り返してしまう校長のように振る舞いました。G7の行動では、モスクワが歓迎されているように感じられませんでした。また、打撃をかわす方法を習得できる武術に精通している国家元首のプーチン氏に、それが打撃を与えることはほとんどありませんでした」

 安定した民主主義国家として多大な影響力を持つ点で、G20はG7に及ばないと主張する人も一部はいるが――。

 「G20は話し合いの場であり、あまり意思決定のための場であるとは言えません。ロシアにとってG20は、より多くの相手とコミュニケーションを取りながらも、主要な西側諸国と対話する機会が得られる場なのです」 。 シェロフ=コヴェジャエフ氏はこうつけ加えた。

 

20の主要国:次の展開はいかに?

 杭州G20サミットのホスト役を務めた中国の習近平国家主席は、需要の伸び悩みや保護主義的措置の強化、金融市場の混乱などによる世界経済の動揺のみに焦点を絞って本会議の議題を進行させようと試みた。

 しかし、G20首脳の間で誰が最初に妥協案を提示すべきかについてのコンセンサスがなかったため、「持続可能でバランスのとれた包括的成長」を確実にするための、構造改革と組み合わせた積極的な金融・財政政策への、この呼びかけは、ほとんど影響力を持たなかった。

 しかし争点はいくらでもある。中国は先月、オーストラリア国内最大の送電網を77億ドルで落札した中国企業への売却をオーストラリア政府が阻止したことに対し、同国を非難しているが、それは、中国を中心とするコンソーシアムによる畜牛会社Kidman & Co.の買収が阻止される事件により、保護主義復活の兆しが見え始めた中での出来事だった。

 逆に欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、EUの鉄鋼業界に多数の失業者を生み出した「過剰生産能力」の当事者であるとして、中国を非難した。最後に、米国は最近、中国製の冷間圧延鋼に522%の関税を課したが、それは中国のダンピング戦術に対する妥当な措置だと主張した。

 あいにく、米国と「アングロサクソン」系の連合国が、環太平洋地域と欧州連合国を包含する2つの貿易同盟 (両者とも中国は含まれていない) に加盟している状態では、さらなる権力をG20に譲渡して世界経済の運営を委ねる可能性はきわめて低い。

 ハンブルクで開催される次回のG20サミットの焦点は「移民危機」となる可能性が非常に高いため、G20を強化してこの組織に世界経済危機の管理を任せるという議案が優先的に扱われる可能性は、あるとしても決して高くはあるまい。

 概して、G20メンバー国内の利害関係の実際の均衡を考えると、習国家主席が抱く偉大な中国の野望が実現される可能性は低そうだ。「私たちは、G20グループを単に提言ばかり行うグループではなく、行動を起こすチームにしていく必要があります」と習国家主席は主張した。しかし彼の現在の言動を見る限り、彼自身、そのような希望的観測が実現する可能性をほとんど信じていないようだ。