国家と協力してはならない
「規律ある泥棒」にとって国家というのは自由と独立の真逆にあるものであった。そこで国家組織や公的機関との協力は一切禁じられた。この禁止事項は、地下の犯罪組織のリーダーがすべて自分で決定を下し、犯罪界の栄誉と利益に基づく「規律ある泥棒」の掟にのみ従わなければならず、国をもちろん、いかなる人物からも圧力や指示を受けてはならないという考えからきているものと思われる。
実際、 国家との協力の絶対的禁止の中には複数の禁止項目が含まれていた。決して罪状を認めない、決して検察の取り調べに応じない、決して目撃者として裁判に立たない、決して税金を払わない、決して刑務所の管理組織と関係を持たないなどであった。
家を所有してはならない
この犯罪の世界の基本理念は、絶対に遵守すべき他の多くのルールや決まりと関連していた。その中には、高価な所有物、また自動車や家のようなものを持ってはならないというものがあった。
犯罪の世界の掟では、犯罪者は国家組織に目をつけられないよう、慎ましやかな生活を送り、目立つ行動を控えなければならないとされていた。さらに、リーダーになれば、自身の個人的な豊かさよりも、メンバーたちの問題の解決に気を配らなければならなかった。
犯罪者の生活は禁欲的であるべきだとされ、国内の特定の場所に住民登録することも禁じられていた。
結婚してはならない
「規律ある泥棒」たちは特定の女性と長く付き合ってはならなかった。夫婦関係というのは、一般の人々に与えられる贅沢だと考えられていた。結婚して家庭を持つ人間はプレッシャーに弱くなるが、犯罪者はこれに打ち勝つことが必要だったからである。また家族というものは、犯罪の世界の問題に完全に捧げなければならないはずの犯罪者の貴重な時間を奪うものだとされた。
刑務所に背を向けてはならない
犯罪に手を染めようとする人間は「規律ある泥棒」という特権を得るために、服役しなければならなかった。すでに「規律ある泥棒」の地位を獲得したボスたち(刑務所の中で儀式が執り行われた)も、別のリーダーの服役期間が満了しそうになると、また刑務所に戻ることもあった。
このルールは刑務所の複雑なヒエラルキーが常に安定した状態に保つものであった。受刑制度の最上層にいる犯罪者が、受刑者たちをコントロールしていたのである。面白いのは、犯罪者はけして罪を認めてはいけなかったということである。なぜなら罪を認めるには調書に応じなければならなかったからである(それも禁じられていた)。
働いてはならない
「規律ある泥棒」は、その地下の世界での責任を果たす以外のいかなる職業につくことも許されなかった。ロシアの刑務所では、仕事は犯罪者には適さない卑しい職業だと考えられていた。職業に就いた場合は、ロシアの受刑制度の中でもっとも普及していた「ムジキー」と呼ばれる階層につくことを意味した。
この掟は、誰かの利益のために働くというのは、労働者に従う立場につくことを意味するという考えからきている。「規律ある泥棒」となったからには、豊かな者から盗むことのみによって金を手に入れると誓わなければならなかった。
自らの手で殺人を犯してはならない
正当な「規律ある泥棒」は武器を使うことなく、その権限を行使しなければならないと考えられていた。これは彼らの権限が、単なる暴力の脅威ではなく、仲間への敬意に基づくものであるということを意味している。しかし必要に迫られた場合、「規律ある泥棒」はいつでも手下に汚い仕事をさせることができた。