コーカサスの山岳地方に住む諸民族にとって、かぶり物は寒さや風、剣から頭を守るだけでなく、儀礼的な意味も持っている。コーカサスの女性や男性がどんな帽子をかぶっているのか、それにどんな意味があるのか、お話ししよう。
現代で最も著名な総合格闘家の一人ハビブ・ヌルマゴメドフは、引退前、しばしばふさふさした大きなパパーハをかぶって記者らの前に現れていた。これはコーカサスの多くの民族にとって伝統的なかぶり物だ。ダゲスタンやカラチャイ・チェルケス、イングーシで最も普及しており、多くの伝統と結び付いている。他人の頭からパパーハを取ることは侮辱と考えられてきた(「頭があるならパパーハをかぶっていなければならない」という現地の言葉がある)。パパーハを女性の部屋の窓に放り込めば、それは愛の告白に等しかった。コーカサスの民族はいくつかのパパーハを持つ決まりだった。普段使い用、婚礼用、喪服用だ。パパーハは羊か山羊の毛皮で作られるが、最も高価なのはカラクールの毛皮でできたものだ。パパーハは視覚的に人間の身長を高めるが、山岳民の中には今でも帽子の高さを競う人々がいる。
パパーハをコンパクトにしたものがクバンカで、コサックがかぶっている。コサックの帽子は刀剣や弓矢による攻撃から頭を守る(あるいはせめて打撃を和らげる)必要があった。兵士らの一部は戦闘前に帽子の中に金属版を仕込んでいた。サイズが小さいのは、馬で疾走している際に外れにくくするためだ。カラクールや熊、狼の毛皮で作られる。
チェチェンやイングーシでは男性がピエスと呼ばれる房の付いたチュベテイカをかぶっているのをよく見かける。「ピャス」や「ピェス」、「フェス」(トルコ帽の「フェズ」から)という表記も見られる。このかぶり物は、サラート(礼拝)を行う時にかぶるが(イスラム教では礼拝の際に頭を隠さなければならない)、今日では礼拝時以外にもかぶられる。
オセチアの農民は伝統的にヌィマト・フドというフェルト帽をかぶっている。山羊の毛でできており、普段使いのものは茶色、晴れ着用のものは白だ。広いつばを持つ低い帽子は照り付ける太陽や山風から頭を守ってくれる。フェルト帽は現在でも普及しており、普段着として使用されるだけでなく、コーカサスの土産物としても売られている。
オセチアの女性にも、祭りや祝いの際に身に付ける独自の帽子がある。頭の長いチュベテイカのようなもので、赤と白のビロードが張られ、伝統的な装飾が施されている。女性はこの帽子の上からさらに細い毛で透かしを編んだオセチア伝統のスカーフをかぶる。
多くの山岳民の間に古くから伝わり、後にコサックの間でも広まったかぶり物の一つが、バシルィクと呼ばれるフェルト製の頭巾だ。首に巻き付けけられる細長い帯が付いている。日光からも雨からも寒さからも守ってくれる。19世紀以降、バシルィクはロシア軍の制服の一部にもなり、後に西欧の兵士らの間でも人気を得た。バシルィクは現代のコーカサス諸民族の服装の一部だ。
山岳民族イングーシ人の女性の晴れ着に、クルハルス(あるいはクルハス)という変わった帽子がある。外見はひねった「とさか」の付いたとんがり帽だ。現在これをイングーシで見かけるのは、人々が民族衣装を身に付ける祭りや祝いの場だけだ。
ノガイの女性の伝統衣装にはさまざまなかぶり物がある。未婚女性は金属(ふつうは銀)製のスカーフの留め具の付いたオカ・ボルクという帽子をかぶった。留め具は燕や鳥の翼の形をしていた。
既婚女性は数本の縞の入った頭の高い帽子をかぶって既婚者であることを示した。縞の数は、兄弟の数を表していた。留め具は球形だった。
ノガイの女性で最も頭の高い帽子をかぶるのは花嫁だ。これはテケ・ボルク、つまり山羊帽と呼ばれる。その名の通り山羊の毛皮で作られ、ビロードで覆われる。帽子の高さは80センチメートルに達し、重さは5キログラムに達することもある。花嫁は、テケ・ボルクが女性を家庭内の幸せへと駆り立てると考えていた。
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