モスクワ郊外のダーチャで休息するマイヤ・プリセツカヤ
Vasiliy Malyshev/Sputnikブエノス・アイレスのテアトロ・コロンでリハーサルするマイヤ・プリセツカヤ、1976年
Horacio Villalobos/Getty Imagesマイヤ・プリセツカヤ(1925〜2015)の「とにかく食べないこと」という言葉はロシアではあまりにも有名である。これは、どうやったら体型を維持できるかとの質問にプリセツカヤが答えたものである。しかし実際にはこの言葉は別のニュアンスがあった。舞台やリハーサルでものすごいエネルギーが費やされるバレリーナは、ダイエットのことなど考える必要もない。そこでプリセツカヤは、「バレエの世界にダイエットなど存在しません。なぜならレッスンでの運動量がものすごくて、すべて消費されてしまうので、太るなんてことはないのです」と語っていた。ただ、「本番の前に少し体重が増えてしまったと感じたら、(食べる量を)減らすしかないのです」。
これ以外にもプリセツカヤは、ビールとニシンが大好きだと打ち明け、世界で最高においしいものはシンプルなパンにバターを塗っただけのものだと語っている。
しかし、彼女はバレリーナという職業はハードで忍耐力を必要とするものだと強調し、「行きたくても、行きたくなくても、これまでずっとレッスンにはきっちり出ていました」と述べている。
一方、彼女の代表作である「瀕死の白鳥」の腕の動きと姿勢は、動物園の白鳥を見て学んだと打ち明けている。
プリセツカヤは70歳までステージに立ち続けた。
指導者のガリーナ・ウラノワとバレエ・ダンサーのマイヤ・プリセツカヤ
Alexander Makarov/Sputnikガリーナ・ウラノワ(1910〜1998)はバレリーナとしてだけでなく、指導者としても有名で、プリセツカヤを含め、多くのバレリーナを育てた。ウラノワは非常に内省的な人物で、数少ないインタビューの中で、自然の中でゆっくり過ごし、力を温存していると打ち明けている。とりわけ、バイダルカと呼ばれるカヤックを漕ぐのが好きだったという。「もう何時間でも漕げるんです。わたしが疲れ知らずで、カヤックを漕ぎ続けるのを見て、皆、驚いていました。わたしは一人で遠くまで漕いで行って、背の高い葦が茂っているところに行って、その中に寝転び、長いこと空を眺めていたものです」。
ジュリエット役を演じるガリーナ・ウラノワ
Yakov Tolchan/Sputnikウラノワは50歳まで活躍し、観客はその優雅さに感嘆した。しかし、引退した後も、彼女は毎日、バレエ教室で指導を行い、脂っこいものや重いものは口にしなかった。「今でも、朝からボリショイにレッスンに行くときは、リンゴしか食べません。着いてから、ズッキーニを蒸したり、何か軽いものを作ったりします」と語っている。
自宅では、椅子をバー代わりにエクササイズをし、常にハイヒールを履いていた。
エスメラルダ役を演じるアグリッピナ・ワガノワ、1910年
Legion Mediaマリインスキーバレエのアーティストで、サンクトペテルブルクの伝説的なバレエアカデミーにその名前がつけられているアグリッピナ・ワガノワ(1879〜1951)は極めて厳しい教師として有名で、バレエにおいてもっとも重要なのは規律だと考えていた。彼女は生まれつき、背が低く、足も短く、ぽっちゃりしていたが、アンナ・パブロワとマチルダ・クシェシンスカがスターだった時代、自らの努力によって認められるようになった。
ワガノワが1934年に出版した著書「クラシックダンスの基礎」は、今でもバレリーナにとってもっとも有名なバイブルである。著書の冒頭には、「もしわたしが何らかのプログラムを演じるよう言われたら、ただそれを遂行するだけではなく、それを超えたものにしたいと思う」と記されている。
またワガノワは、「しかし、わたしの責務は、生徒たちを生活から切り離さないよう、負荷を考慮すること」と書き、生徒が疲労状態にあることに気づいたなら、「レッスンが害とならないよう、2週間、軽めのレッスンに切り替える」とも記している。
当時の他の振付師と違い、彼女は、コンディションを維持するため、夏の休暇の間もレッスンを中断してはならないと考えていた。しかも暖かい季節は「足を温め」、新しいシーズンが始まるときには、よりレッスンが受けやすく、レッスンの効果がより出やすい状態になるのだと論じている。
エカテリーナ・マクシモワ
A.Vorotynskiy/Sputnikガリーナ・ウラノワに師事したエカテリーナ・マクシモワ(1939〜2009)は、60歳まで現役で活躍し、人生の最期まで細いウエストを保った。身長1メートル57センチで体重は40〜45キロ。かなりの年齢になっても、ティーンエイジャーと間違えられた。
ボリショイ劇場でのリハーサルで、マクシモワは脊髄を損傷し、医師らにはもう舞台には立てないと言われたが、マクシモワは奇跡的な大復活を遂げた。1年間、コルセットをつけ、夫でバレエダンサーのウラジーミル・ワシリエフが考案した指導法でトレーニングし、60歳まで踊り続けた。
生まれつき細く、小さかったマクシモワであったが、バレリーナ人生を困難にするある特徴があった。それは足の指が1本短く、トゥーシューズで立つのが非常に難しかったことであった。そこで、彼女は、現役の間中ずっと、その指の長さをテーピングで調節しなければならなかった。
マクシモワは、「ステージは飛行のようなものでした」と打ち明けている。「何度もステージに立つときには本当に疲れて、体じゅうが痛み、ときに舞台裏に戻ったときに、もう舞台になんて戻れない、何もできないと思ったものです」とも綴っている。「しかし音楽が鳴ると、ステージに飛び出し、そしてすべてが終わると、痛みも吹き飛び、何かあったこともすべて忘れ、ただステージに立つのみなのです」。
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