毎月建て直さなければならない家に暮らすなど想像できるだろうか。ロシア極北の原住民族はまさにそんな家に住んでいる。数百年前と同様、彼らの多くがトナカイ飼いで、移動式の家とともに遊牧生活を送っている。遊牧民のチュムはどんな構造で、各家庭は住居の維持費にいくらお金を貯めているのだろうか。
一時間で建つ家
チュムは遊牧民の移動式住居だ。極北、特に木の少ないツンドラ地帯の冬は寒くて長い。そのため、チュムは組み立てや移動が簡単なだけでなく、風に強く、温かくなければならない。構造はとても簡単だ。基礎はエゾマツの竿で、円錐状に組んで冬にはトナカイの毛皮を、夏には防水布をかぶせる。
チュムの組み立て
チュムを建てるのにかかる時間は約一時間だ。ふつう女性が担当する(2018年にはチュム家政婦という職業が公式に登場した)。だが、今ではこの伝統が守られないこともある。男女で一緒に建てた方が早い。
チュム内は中央にかまどがある。現在、これは金属製のコンロで、暖房と料理に使われる。煙は「天井」の穴を通して外に出る。かまどの周りには「床」、つまり木の板を敷き、そこにトナカイの毛皮を敷き詰める。チュム内は必要に応じて複数の部屋に分けられる。家庭が大きいほどチュムも大きくなり、必要になる竿やトナカイの毛皮も増える。現在トナカイ飼いは班単位で活動しているため、一つの遊牧民の宿営地にはいくつかチュムがある。
移動が必要な際は、前日にすべての荷物をまとめ、ナルトィ(遊牧民の橇)に詰め込む。翌朝にはチュム自体も解体する。経験豊かなトナカイ飼いなら約30分で解体できる。
チュムの解体
ツンドラの貴重な植物をトナカイの群れが食べ尽くさないよう、遊牧民は頻繁に移動する。冬は3、4週間に一度、夏は2週間に一度引っ越す。ルートは一年を通してほぼ同じ場合もあり、ツンドラの住人はナビがなくても土地勘で移動できる。ただし彼らにも文明の利器はある。
トナカイ飼いはスノーモービルを持っており、電話やパソコンを充電するための発電機や、緊急時にドクターヘリや救急隊を呼ぶための無線電話機もある。
チュムはどうやって購入するのだろうか
チュムは単純に見えて実はかなり複雑な高級品だ。まず、ツンドラで木を見つけてみよう。チュム一つには(大きさに応じて)25~40本の竿が必要だ。竿は消耗品で、朽ちたら交換するか(それには費用がかかる)、切り詰めなければならない。チュムの背が低いほど、竿が古いということだ。
第二に、トナカイの毛皮が必要だ。毛皮が多いほど家は暖かく、家も裕福だと見なされる。ヤマルやチュコトカは冬には氷点下50度になることを考えれば、トナカイ飼いの家庭にとってトナカイの毛皮の購入は不可欠な投資だ。貯金には数年を要し、毛皮は子供に受け継がれる。毛皮が足りない場合は夏用の防水布で補う(かつては白樺の樹皮が夏用の覆いだった)。
一つのチュムには平均で60~80枚の毛皮が必要だ。毛皮は一枚当たり安くとも一万ルーブル(1万4千円)はする。だが、これだけの毛皮を一度に用意できるトナカイ飼いはいない。そんなことをすれば、トナカイが一頭もいなくなってしまう。しかも、毛皮は服や靴にも必要だ。
かつてチュムは自給自足で作られていたが、現在では若い家庭は家を建てるのに必要な物をすべて都市部で調達することもある。平均でチュム一軒当たり百万ルーブル(142万円)かかる。これは建材だけでなく、暖房用のかまども含めた費用だ。
この金額があれば、同じ地域にアパートを買ったり一軒家を建てたりすることもできる。遊牧民の多くは実際にごく一般的なアパートを持ち、休暇や老後はそこで過ごす。アパートは国からの優遇と補助で得ているものだ。だが、ツンドラで働くためにはやはり移動式住居が必要で、そのため家庭にとって最も重要なのは一年の大半を過ごすチュムの維持費を貯めることである。2020年、ロシアの主要なトナカイ畜産地域であるヤマル半島において、現地当局による若い家庭向けのチュム建設証明書の発行が始まった。