ソ連のプロパガンダは、いつでもどこでも敵を発見し、特に意味のないものにも隠された意味を見出すことを奨励していた(例えば、マッチ箱の炎の絵に「人民の敵」レフ・トロツキーの横顔を見出したりしていた)。無数の都市伝説も存在し、人々はしばしば、理解できないものや知らないもの、特に外国のものを、こうした怪談によって説明し、解釈しようとした。
レフ・トロツキーの横顔が見られますか。
eva.1/meshok.net「怪談を含めた噂や都市伝説が生まれ、広がるのは、人々がそれを求めているからだ」と民間伝承を研究・採集しているアレクサンドラ・アルヒポワ氏とアンナ・キルジューク氏は、著書『ソビエトの危険なもの:ソ連の都市伝説と怪談』に記している。彼女らによれば、こうした都市伝説によって暗い現実から目を逸らすことは人々にとって都合の良いことだったのだという。そんなソ連の都市伝説をいくつかご紹介しよう。
スターリン崇拝が終わると、ソ連と中国の関係が悪化した。中国では反ソ連プロパガンダが展開し、中ソ国境では散発的に武力衝突が起こった。ソビエト市民は中国軍の侵攻と毛沢東支持者による破壊工作を恐れた。「中国の脅威」が迫っていると刷り込まれていたのだ。1960年代後半、人々は次のような都市伝説によってこの状況を再解釈しようとした。
ある女性が中国製の絨毯を買い、壁に掛けた。夜、隣の部屋にいた息子が恐ろしい叫び声を聞き、警察を呼んだ。女性は死んでおり、その顔は恐怖で歪んでいた。頭の切れる警官が明かりを消すと、皆は闇の中で新しい絨毯に恐ろしい絵が光っているのを見た。毛沢東が胸の上で手を組んで棺の中に横たわっており、手には緑の火が灯った蝋燭が持っていたのだ。何でも、中国人が自分たちの指導者に敬意を払い、ソ連に輸出する絨毯に燐光を発する糸で模様を描き、人々を恐怖で殺そうとしたというのである。
第二次世界大戦後、農業にとって脅威となったのが、ジャガイモの葉と茎を食害するコロラドハムシだ。ソ連の農業大臣はコロラドハムシの出現を米国による破壊工作だと断じた。この話は瞬く間に広がり、ソ連全国の新聞や、社会主義陣営のメディアで報じられた。コロラドハムシはどんどん見つかり、数千人の学童が党の指示で野に出て素手で虫を捕まえ、毒入りのアンプルまで探した。ちなみに1970年代には別の噂が広まった。バイカル・アムール鉄道の敷設工事の最中に米国人がアンプルの付いたダニを沿線に撒いたというものだ。
ジェームズ・ボンドの映画はソ連では公開されていなかったが、最も信じ難いスパイ装置の噂はソ連の人々のもとにも届いていた。西側のテクノロジーが生んだ奇跡の「万能」装置の噂は人々を怯えさせた。ただ、なぜかその多くがストリップと関係していた。例えば、日本製の特殊な眼鏡を掛ければ、人のヌードが見えるといった具合だ。
ビーチで水着を着ている女性を特殊な赤いフィルムで撮影する外国人がいるという噂も流れた。ネガでは水着が消え、狡猾な外国人はソ連を貶めるため、卑猥なヌード写真を現像し、そのポルノ写真を自国で拡散しているというのだった。
外国人は「鉄の壁」の中にほとんど入れなかった。このため、1950年代にソ連で世界青年学生祭典が行われた際には、市民は外国人客の「襲来」に怯えた。もちろんその恐怖は都市伝説となって現れた。当時の多くの怪談のテーマとなったのが、「危険なプレゼント」だ。外国人が子供たちに毒入りキャンディーを与えたり(この噂はあるスウェーデン人が子供に苦い甘草キャンディーをやったことで生まれた)、爆弾や毒の仕込まれたボールペンや玩具を贈ったりしているというのだ。
特に危険と考えられていたのが、ソ連の子供たちの憧れの的だったガムだ。噂では、外国人がガムの中に極小の毒針やガラスの破片を仕込んでいるとのことだった。ガムを飲み込めば、口の中にカビが生えるとも考えられていた。
その上、こうした贈り物は、狡猾な資本主義者の優越感に基づく行為と受け止められた。外国人はソ連の子供に菓子をやるところを写真に撮り、帰国後にその写真を自国民に見せてソ連の子供が物乞いをしていると嘘をついているという噂も広がった。
1950年代初め、ソ連はヨシフ・スターリンと党の幹部を毒殺しようとしたとして、医師らを逮捕した。有名な「医師事件」からユダヤ人陰謀説が生まれ、多くのソビエト市民を恐れさせた。
考えられないような噂が広まり始めた。一部では、至る所で狡猾なユダヤ人医師が逮捕されており、彼らは自分たちの犯罪が何千人もの共犯者によって引き継がれていると供述していると言われた。また別の噂では、医師が学校の予防接種によって子供たちを癌や結核に感染させたり、鉛や針金の破片が入った錠剤を配ったりしていると言われた。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。