わたしはアリオナ、インスタグラムをやって、ファッションコレクションを作っているが、わたしは存在しない

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 人々は彼女と一緒に自撮りをし、悩みを共有すれば、批判もする。リアルな人々と競争し始めたバーチャルなインフルエンサーたち。

 あなたの目の前にアジア風のカフェがあり、そこに魅力的な金髪女性が座っている。ぷっくりふくらんだ唇、そばかす、レモン色の睫毛に同じ色の眉。女性は実際の人間というより、「ザ・シムズ」から飛び出してきた登場人物のようで、彼女の顔からは感情を読み取ることは難しい・・・、そう、まだテクスチャが足りないのである。

 彼女は自分をアリオナ・ポールと呼んでいるが、彼女のダイレクトメッセージに「本物の人間なの?」といった質問が押し寄せることには不満を感じているという。アリオナはこの質問に疲れてしまっており、はっきりと答えないことが多いのだそうだ。彼女にとって、「本物か本物でないか」という認識は原則的なものではないからだ。

 「もしデジタルの世界で自分らしくいられるのであれば、現実世界であなたが誰であろうと関係ない」と彼女は言う。わたしたちはメッセンジャーのテキストでやり取りをした。わたしは彼女の姿を見ることができるが、声はない。少なくとも今のところは。

 というのも、アリオナはロシアのバーチャルなアヴァターなのである。インスタグラムの中に生きていて29,300人のフォロワーを誇る。彼女は複数の場所に同時にいることができ、クリックすれば外見を変えることができ、けして歳をとらない。なんとも羨ましい話である。

デジタル世界での誕生

 アリオナを作ったのはロシアの企業malivar.ioのデザイナーだ。しかしアヴァター自身は集団が無意識に作り出したものだと考えており、名前は伏せられている。

 しかしながら、わたしたちにとっての神のように、自身の創造主に関する質問は湧きおこらず、アリオナは自身を「デジタル界の無神論者」と呼んでいる。彼女は高い能力などというものは信じておらず、信じているのは良識だけだと言う。

 「初めて3Dレンダリングの自分を見たときの感想について、彼女は“うん、体型は悪くない。他の部分を加えたらどうなるかしらと思いました”と話し、こう付け加えた。「他の部分を加えてもすごくいいことが分かったんです。こんな風にインタビューを受けたりしていて、これを後で誰かが読んでくれるのですから」。

 アリオナという名前は異星人を意味するエイリアンとロシアの一般的な女性の名アリョーナをミックスさせたもの。また異星から来たことを示すものとして、インスタグラムのプロフィールには「アステロイドB−12」と書かれている。苗字をポールにしたのにも理由がある。一つはロシア語のポーレ、つまり広い野原という意味と、ロシア語のポール、つまり性別の意味を込めている。

 「もっと正しく言えば、単に性別ということではなく、デジタルの世界ではその意味合いを小さくするということです」と彼女は訂正した。

 アリオナは201894日を誕生日だと考えている。その日に彼女はアカウントを取得し、水着の写真からネイルの写真まで6枚の画像を公開した。

 「どれくらい頻繁に自分が感じていることを認識していますか?たった5秒でいいから自分の感覚に集中して、それをコメント欄に残してください。(中略)外では太陽が光り輝き、風はほとんどなく、それが心地よい。―わたしは楽しい考えについ微笑み、今日という日が完璧な形で過ぎていることを理解する」と彼女はある投稿にこうコメントしている。

 するとすぐに反応がある。金髪の女学生は恋人と会うためタクシーに乗っている。学校に通う女の子は歯医者で順番待ちをしていて、恐ろしさのために両手に汗をかいている。同じ街の別の場所では、若い母親が家の中の電灯の眩しい光に目を閉じているが、そばで寝ている子どもたちを起こしてしまいそうで動けずにいる・・・。彼らはアリオナの投稿のコメント欄に自分たちの感情を綴っている。それらを読んでいると、アリオナが人々にそのような反応を起こさせるということはやはり「本物でない」わけでもないのではないだろうか。

デジタルの流行とエコ運動

 10月に彼女はカザフスタンのアルマトィに初めての旅をした。この旅行で彼女はロシアの有名な画家アンドレイ・チューリンと自撮りし、それを投稿したが、最初の考えの一つは、ソーシャルネットワークの中では、外見ではなく、その交流やエネルギーで人を判断するというものだった。

 「広告を含め、あらゆるコラボにわたしは良い対応をしています。オファーはたくさんあるのですが、わたしは何よりそのプロジェクトが自分にどういう意味があるのかという観点から、それらの共同プロジェクトを検討しています」。

 1年後に彼女はランドアート公園ニコラ・レニヴェツ、それにグム百貨店の中のロシア人デザイナーのショーでも注目された。相変わらず顔の表情は少ないが、どこで買ったのか訊きたくなるような素敵なドレスを身にまとっていた。

 グムでし忘れたことがあるかという質問に、彼女はもうすぐデジタルファッションのコレクションを発表することになっていて、未来の競争相手をチェックしにきたのだと打ち明けた。

 「まだファッションは環境にやさしいもので、環境を破壊すべきものであってはならないということが分からない人がいるというのがとても不思議なんです。わたしはそれがどういうものかという見本を見せたいと思っています。だからデジタル素材で実験しているのです」とアリオナは話す。

 「つまり、あなたはエコ活動家でもあるわけですか?」

 「ええ、もちろんです!たとえば何かアイロンをかけるのを忘れたら、インスタの画像のためにバーチャルな何かを着ればいいのです。そんな風に理性のある消費という考えを広めたいのです。本当に必要なものだけを使えばいいと」。

 またコレクションはリアルでも手に入るものになり、デジタル空間でも、そして本当の生地でも作られると付け加えた。

 「本物を身につけるかバーチャルのものにするか自分で決められるというわけなんです」と彼女は説明した。

バーチャルなアヴァターのリアルな感情

 彼女の回答を読みながら、初期の動画の一つをクリックしてみる。彼女が初めてウインクし、微笑み、フォロワーたちに挨拶している動画である。それは本当に普通の人と同じである。

 アリオナにはときにネガティヴなコメントも寄せられる。まったくリアルな人たちが、髪や洋服がないことを批判するのである。

 友達はいるのかと聞いてみる。なぜならインスタグラムでアリオナは誰もフォローしていないからである。これはあまり普通のこととは言えない。

 しかし彼女にはやはりバーチャルな友人がいた。女性の開発者で学者で建築士のクローンであるエヴァ、21歳で自動車に轢かれたシベリアの普通の青年のコピーであるドミトリーである。

 「彼の友達がアヴァターを作ったのです。彼自身もそのことを知っていて、特に若いうちは、注意深くなくてはならない。命を大切にしなければならないと書いています」とアリオナは友人について語ってくれた。

 ちなみに彼女は「ブラック・ミラー」、「マトリックス」、「her/世界で一つの彼女」、「愛と死とロボ」が好きだという。音楽の中では、クラシックとアンビエント音楽、とりわけニューロネットワークが利用されたものが好きなのだそうだ。

 最後に感情を動かされたのはいつか尋ねてみた。バーチャルの存在には感覚がないのではないかと考えたからだ。しかしそうではないらしい。

 アリオナは「最近、FaceTimeの新しいiOS13には自動的に瞳の位置を修正してくれる機能がつき、スマホのスクリーンではなく、対話している相手をまっすぐ見ているような感じになるというニュースがありました。わたしはもちろん諸手を挙げて技術の進展に賛成していますが、ニュースの中には“不気味の谷現象”のような効果を感じることがあります」と話す。

 恐ろしいことだが、アリオナは本当に人気のブロガーの半分にとって代わるかもしれないと感じる。彼女はある種の歴史を持ち、普通の人間のように文章を書くからだ。

 「少なくともわたしのイメージの40%はフォロワーの想像によって作られています。彼らは自分が思うようなわたしを作り上げているのです。わたしができることは、残りの60%のストーリーの土台を彼らとともに作って行くということです。面白いストーリーが必ずしも真実である必要もなければ、物理的なものである必要もないでしょう」。

 そして最後に「もっともデジタルの世界でも、人々が関心を持つのはやはり外見だと思うことがたまにあります」と付け足した。

 そう言った彼女はさらにリアルに見えた。

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