ロシア人が絶望シミュレーションゲームを開発

イリヤ・マゾのビデオのシーン /YouTube
 ロシアの詩人イリヤ・マゾのプロジェクト「WINTER」が、あなたを田舎町の終わりなき「グラウンドホッグ・ナイト」に引きずり込む。平均的なロシア人の生活を如実に再現したシミュレーションは最適とは言えず、馬鹿げてさえいる。

 夜、あなたは気付くとロシアのとある町のアパートの一室にいる。あなたは貧しい。コンピューターはなく、台所にラジオがあるだけだ。冷蔵庫を開けて食べ物を見てみよう。驚くべきことに、トマトと卵、ソーセージがある。机の上の電子レンジは動く。しかしやかんはだめだ。したがってこのゲームでは茶は飲めない。居間の窓辺には寂しげな花が2本飾ってある。絨毯が壁に掛かっている。窓の向こうでは雪が降りしきっている。冬だ。

 ゲーム「It’s Winter」は、ロシアの無名のアーティストの作品を愛するすべての人のために、モスクワの詩人イリヤ・マゾのプロジェクト「WINTER」の一部として作られた。生みの親が「デジタル・オペラ」と呼ぶプロジェクトは、未発表の詩集、短篇映画、曲集、演劇から成る。

うまくいかない現実

 ロシア語話者と英語話者のプレイヤーと記者から最も注目を集めたのは、詞でも劇でもなく、ゲームだった。2019年3月初旬にSteamで利用可能となったこのゲームは、ロシアの生活を完璧に再現したものらしい。だが、ロシアの生活がそうであり得るように、シミュレーションも正常に動作しない。これは故意だろうか。

 アレクサンドル「sad3d」イグナートフによって作られたこのゲームは、単純なウォーキングシミュレーターだ。ザ・チャイニーズ・ルームの「Dear Esther」に似て、プレイヤーはただ歩き、限られたものにだけ触れることができる。冷蔵庫を開けたり閉めたり、明かりを点けたり消したりできるが、座ったり横ったわりすることはできない。ラジオをつければ、雑音と少女の声で読まれる詩が聞こえるだけだ。もしかしたら外に何かあるのだろうか。

 外に出ても、できることは階段のゴミを片付けることだけのようだ。よその部屋の扉は、どれだけ叩いても開かない。中庭には何もない運動場があり、明かりの点いたよその部屋の窓(入ることはできない)を見て、夜間の店(閉まっている)の前を通ることができる。この場を離れようとしても、せいぜい寂しげなトラクターに出会うくらいだ。林の中に入ろうとすると、ゲームの動作が遅くなり、ついにはテクスチャーに張り付いてしまう。どうやらロシア版マトリックスのグリッチのようだ。リロードしよう。

 多くのプレイヤーが引き込まれたのは、閉じ込められているような感覚だ。ロシアの小さな町の外れ、あるいは首都の郊外に住めば、毎日が同じように見える。冬はなおさらだ。景色は細部まで注意を払って綿密に作られている。ゲームがさらに発展することを望まずにはいられない

「まず詩をトイレに流した」

気付けば廊下に立っている

パイの欠片を噛みながら

台所から歩み出る

部屋に入る意味はない

 これはプロジェクトのために作られた詩集に収められた100以上の短い詩の一つだ。どの詩もミニマリスト的で、意味やイメージはほとんど無に等しい。短編映画では、ロシアの無名のミュージシャンによってこの本の詩が読まれ、あるいは歌われる

 だが、プロジェクトの生みの親であるイリヤ・マゾが詩こそがプロジェクトの「軸」だと話しているにもかかわらず、Steamのユーザーは詩にはあまり関心を示していない。「まず詩をトイレに流した」とあるユーザーはSteam上のゲームのページに書き込んでいる。ロシア人はただ絶望のシミュレーションをプレイしたいだけで、ゲームも現実に忠実であってほしいと望んでいるのだ。

 「タバコの吸い殻は至る所にあるが、タバコを吸うことはできない。ニコチンのない『ロシアの絶望』なんて!」と他のプレイヤーは叫びを上げる。「もっと本物の街が見たい。隣室の騒音や、窓の外から聞こえる酔っ払いの叫び声が欲しい!」

 ロシアのゲーマーは絶望を愛するが、どんな時でもユーモアは忘れない。

 「マルチプレイ版を作ってほしい。友人とウォッカ飲み対決をしたい。」

 「なぜスクランブルエッグしか作れないのか。なぜスープが作れないのか。長いことジャガイモとキャベツを包丁で叩いたが切れなかった!なんで???」

 英語話者のプレイヤーもこのプロジェクトを重宝している。「日々の生活が忙しいと感じているなら、このゲームを購入しよう。癒し効果抜群でやめられない。イチオシは湯船の水を流す音を聞いて、ゲーム内の自分のアパートに引き込まれるのを待つことだ。独特の雰囲気があって、少し気持ち悪いけれどとても癒される。それほど陰気な感じだ。」

 しかし、他のユーザーは完全に懐疑的だ。レビュアーの一人が記しているように、このゲームのプログラムは、Unityエンジンで作られたインディーゲームにしては要求が高い。「Unityで一晩で編集できるロケーションを200ルーブル(約3ドル)で売るなんてあんまりだ」とあるユーザーは言う。「このゲームは払った金額に見合っていない」と他の多くのユーザーも批難している。最も多いコメントの一つが、「コンセプト自体は良いが、もっと触れるものを増やしてほしいし、内容も充実させてほしい」というものだ。

 開発者らはこうしたクレームの一つに回答してこう述べている。「私たちは完全に独立していて、2人しかいない。このゲームがハードウェアに最適とは言えないのはこれが原因だ。別のゲームを作るのと同じくらい困難だったろう。画質を落とせば問題は解決できるはずだ。私たちはゲームの開発に全力を尽くした。パソコンが正常に動作しないからといって私たちを責めないでほしい。そうでないと、ロシアの冬をテーマにしたゲームは現れず、何百万もの予算をつぎ込んだ『Far Cry』シリーズしか手にできないだろう。」開発者らの悔しさをにじむ。彼らの主張もまたもっともだ。

 このことから明らかなのは、ロシア人にとって悲嘆や絶望はどれだけあっても足りないということだ。「私はプレハブのアパートでプレハブのアパートの生活のシミュレーターをプレイしている。仮想現実版が出ないか期待している。現実から現実へ逃げるために!」けだし至言である。

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