ロシア軍の非公式ヒエラルヒー:「象」や「霊」とは誰のことか

Varvara Grankova
 兵役では何が待ち受けているか、自分について良い印象を残して兵役を終えるにはどうすれば良いか。

 軍という共同体は、独自の非公式ヒエラルヒーを持った社会集団だ。役職や階級の話ではない。徴集兵に独自の義務と特権とが存在する男の世界における立ち位置の話である。それは兵役期間の時期ごとに変わる。

 兵役が2年から1年に短縮されるまでは、これは「ジェドフシーナ」と呼ばれ、過酷な(ほとんど刑務所のような)統制と、先輩の後輩に対する権力の行使を含意していた。しかし近年では、兵役期間の短縮と市民および将校の側からの問題解決の努力の結果、このヒエラルヒーは今ではフレンドリーで生彩に富む性格を帯び、軍内での徴集兵の義務を分配する役割を担っている。

霊(「デゥッフ」)

 軍で霊と呼ばれるのは、兵役に就いて100日未満の徴集兵だ。

 都会で育った子供の大半にとっては、これは身体的・精神的に楽ではない時期で、朝から夜遅くまで単調な肉体労働をこなさなければならない。また、「ママやパパなしで」自分で問題を解決し、男集団の中で「陽の当たる場所」をめぐって闘わなければならない。平たく言えば、その日誰が床やトイレを洗うか、誰が演習場で自動小銃を撃つかを自分たちで決めなければならない。

 これは、掃除や任務、駆け足で何キロメートルも移動する行進など、人が軍隊生活のあらゆる「魅力」を知る時期だ。まさにこの最初の数ヶ月に精神面の危機が訪れる。これを経験した人は、その後以前に増して強くなるか、医務室や病院に駆け込んで残りの兵役期間をやり過ごすかのどちらかに分かれる。

 この時期、兵士は「ここから昼食まで洗う」(昼食休憩以外は働き続けるという意味)といったフレーズも覚える。掃除の過程や軍に秩序をもたらすことは、独特の入念さを以て教え込まれる一個の芸術だからである。兵舎から軍事車両、服や外見に至るまで、すべてがピカピカでなければならないと叩きこまれる。兵役経験者の多くが、まさに軍において生涯秩序を保ち続けることを教わったと話す。

 兵役の最初の数ヶ月は、権利のないまま厳しい要求を押し付けられる期間と呼ぶことができる。ある司令官が言ったように、この時期に「諸君に許されているのは新鮮な空気を吸うことだけである」。

象(「スロン」)

 「とんでもない労働量を愛する兵士」というフレーズの各単語の頭文字をつなげると「象」になる。「象」の期間は「霊」の次の100日間で、徴集兵はこの時期に家事めいた労働から本物の軍務へ移行する。

 週休0日で24時間祖国を防衛するこの時期には、徴集兵の義務にAK-74を携えての国境警備や、戦闘機と爆撃機の離陸準備作業などが加わる。当直のシフトは24時間続く。休憩は3時間の睡眠時間だけだ。精神的・肉体的に準備ができていなければならず、徴集兵全体の中で施設の掃除から真の軍務に移行できるのは一部だけだ。

 この時、先輩兵士は自分の義務の一部を新しく来た兵士に押し付けたり、将校らとともに後輩兵士に祖国を守る術を指導したりする。このため先輩兵士には、週末に街に帰って家族と時間を過ごせる「週末休暇」など、独特の特権が生まれている。 

祖父(「ディエッド」)

 「祖父」と呼ばれるようになるのは、先輩兵士が故郷に帰り、新たに部隊に徴集されてきた後輩兵士を今度は自分が育成し始めることになる「入れ替わり」の時期だ。

 この期間はおよそ兵役200日~300日の時期に当たる。任務や当直がノルマになる。何日も連続で寝ないことも恐ろしくなくなる。すでに将校の目を盗んで一休みする場所と方法も心得ている。

 この時期には将校はあなたを尊重するようになり、対等とは行かないまでも、あなたを一人前の先輩兵士として見るようになる。今やあなたは哨所で自分の代わりを見つけることができる。将校は「祖父」の「後輩」に対する意見に耳を傾ける。「祖父」と「後輩」とは共に暮らし、会話し、共同で任務をこなしているからだ。

デンベリ

 デンベリは「デモビリザーツィヤ」(「復員」)から作られた語だ。デンベリになるのは、予備役に回される者のリストが部隊で発表された後だ。

 これは兵役の最後の2ヶ月間で、一息ついて少しリラックスできる期間だ。この時期にはすべての義務を若い世代に背負わせ、自分は悠々と生活することができる。国家の負担で軍事病院でかさぶた程度の傷を治療することもできるし、復員後に計画していることに予め専念することもできる。

 なお徴集兵の中には、最後の数ヶ月間を「デンベリ協定」の実行に捧げる者もいる。部隊のために何か良いことをして、自分について良い印象を残すためだ。例えば筆者の同期兵は、最後の数ヶ月間、将校のためにトレーニング室を整備していた。もちろん「デンベリ協定」は完全に任意で、強制的なものではない。

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