ロシアのバーブシカとの暮らしの暗黒面

ライフ
ジャガー・ビッグズ
 バーブシカ(“おばあさん”)のアパートの一室を間借りした際に、“実際”に期待できることは何だろう。

 ロシアのバーブシカは多くの点で理想的な大家さんだ。彼女は自分のヴァレンキ・ブーツと刺繍に誇りを持っている。彼女は心のこもった料理を作ってくれる。彼女は、プルオーバーを編んだり、友人らとサモワールを囲んでのんびりお茶を飲みながらペイストリーを食べたりして日々を過ごす。訓練を受けていない外国人の目には、彼女が何かおいしいお菓子を焼かない日はないように思えるかもしれない。

 しかし実のところ、バーブシカは、皆と同じように外見も体形も十人十色だ。がっかりしないために、以下に挙げる、現代のおばあさんのあまり知られていない特徴を知っておこう。

 

外見。彼女は、バーブシカ特有の頭巾をかぶっていないかもしれない。

 多くのバーブシカが厳しい表情を浮かべて相応の服装をしているが、一方で現地の蚤の市で手に入るヒョウ柄のレギンスなどを履くこともあるので、心の準備をしておこう。必須アイテムのニットのベストだけが、ロシアのバーブシカの唯一の特徴ということだってあり得る。多くのバーブシカが若い頃を懐かしみ、自分がどれほど美人だったか回想する。1960年代に撮られた彼女自身の写真が正教会の聖人画と孫たちの写真との間にピン留めされていることがよくあるが、それはこのためだ。

 

趣味。おそらく、彼女のボルシチのレシピの秘訣を知ったり、セーターの編み方を学んだりすることはできないだろう。

 もしあなたが出会ったバーブシカが関節痛を患っていれば、編み物棒はおそらく戸棚に放置されて埃をかぶっている。編み物の代わりに、彼女はきっと何時間もずっとテレビを見て日々を過ごしているはずだ。特に第1チャンネル。あなたも一緒にテレビを見てあげると喜ぶに違いない。

 

会話。意外かもしれないが、バーブシカはあなたの家族に特に興味を持たないこともある。あなたがいつ結婚して子供を持つつもりか、またあなたの名前をどうやって正確に発音するかということさえも関心がない。

 あなたのバーブシカは愛国者かもしれない。もしそうなら、テレビを見て日々を過ごし、ニュースで見たことに対していつも文句を言っている可能性が高い。多くのバーブシカにとって、世界は恐ろしい状態にあるように思え、このことが彼女らの心に重くのしかかっている。しかしながら、低額の公的年金と高額の光熱費にもかかわらず、現代ロシアのバーブシカは間違いなく昔よりも質の高い生活を送っている。したがって政治論議を始める際は気をつけたほうが良いだろう。

 

食べ物。誰もバーブシカがソビエト様式のアパートのペチカ(オーブン)の周りで踊るとは予想しない。しかし意外かもしれないが、すべてのバーブシカが、あなたが痩せすぎだと言うとは限らない。さらに言えば、すべてのバーブシカが料理好きなわけでもない。

 一般的な予想とは異なり、オリヴィエ・サラダ、ビーフストロガノフ、ピロシキの並ぶ食卓へ直ちに案内されることもないかもしれない。彼女の料理は、彼女の年金同様、慎ましいものであることが多い。典型的には、バーブシカの冷蔵庫には食品よりも薬が多く並んでいる。したがって、最初の夕飯が解凍したジャム入りブリヌィ2枚だろうと驚いてはいけない。よくあることだ。

 

知識。バーブシカは、生涯役立つ実証済みの家庭薬や健康に関する賢明な助言の詰まった知恵袋であるかもしれないし、そうでないかもしれない。ただし、彼女は病気に対して偏執的で、自分のさまざまな疾患についてあなたといつでも議論する用意がある。

 テレビの健康番組を何時間も連続で見ているにもかかわらず、彼女はいつも明らかに現代医学に裏付けられていない健康上の助言をくれるだろう。例えば、髪のトリートメントに気をつけろと言うかもしれない。あるいは、髪が濡れたままだと喘息になると忠告するかもしれない。お気に入りのテレビ番組を見て、どの野菜がビタミンCの摂取に最適かをメモするわりに、昼食にはトヴォログ(カッテージチーズ)とパンしか食べなかったりする。

 

おそらくあなたが期待できることの一つは、いくつもの細かいルールだ。例えば、彼女は優しく愛らしいが、同時に就寝時間にはうるさい。忌々しいまでに不必要に思えるルールを持つバーブシカがいることも確かだ。

 例を挙げよう。どの石鹸をどの身体部位に使うべきか知っておくこと。決して外出着のままベッドに寝ないこと。電気代は高いので、家では暗闇の中を移動すること。そのくせ、暗闇で前かがみになって歩いていたり目を凝らしていたりすると叱られることがある。あなたのコートが彼女の基準に合わないと、クローゼットにしまいこんであるカビ臭い1970年代のコートを持ち出してきて、あなたに着せるだろう。バーブシカにとっては、毎日異なる靴下を履くことは全く理解できない。

 多くの気骨のあるバーブシカが小遣い稼ぎに留学生をアパートに招き入れるものの、彼女たちはきっと、自分が蒔いた種でない限り責任を取ることはしないだろう。世界の喘息の罹患率を下げようと努力する大家さんなど他にいるだろうか。しかし良い点もある。バーブシカと暮らしている間は、いつも外敵から守られているように感じるだろう。ついには、あなたは行動に先立って、「バーブシカがどう思うだろう」とまず自問することになるだろう。最後に、どんなバーブシカと暮らすことになろうと、ロシアの魂に対する特別な洞察力が養われること請け合いだ。