そういうフレーズのおかげで、会話を打ち切っても、互いの気分を害さずにすむ(かりに双方が、そろそろ終わりにしたいと思っていたとしても、その危険はある)。別れの文句はさまざまで、リストは幅広く、選択したオプションは、その話者の性格、立場、気持ちについて多くを語るだろう。
個人的な情報、気持ちなどをさらしたくない場合は、ニュートラルな «До свида́ния!» と «Пока́!» を言えばいい。前者は、2人称代名詞「вы」を使うフォーマルな会話において、後者は、友人、知人など親しい人に対して使う。つまり2人称代名詞「ты」を用いるケースで、使われるわけだ。
ただし、どちらの「さようなら」もニュートラルだから、あらゆる場面に適している。でも、もっといろんなニュアンスをもったバリエーションも見てみよう。それらは、会話の相手と、その意図、気持ちをもう少し明らかにしてくれるだろう。
1. 必ず明日が来ることを信じるオプティミストなら
あなたが楽観主義者であり、明日が来ると確信しており、数日後も、相手はあなたにフレンドリーで、間違いなく会うと確信しているとしよう。ならば、ロシア語の次の「さよなら」があなたに合っている。
1) Уви́димся! – (また会おう!)
2) До встре́чи! – (また会おう!)
3) До за́втра! - .. (また明日!)
4) До ско́рого! - …(またすぐに会おう!)
5) До понеде́льника! - ….(月曜日に!)
(До + 生格)
これらの「さよなら」は、それを使う人の生活に、何というか安定感を与え、より明るい未来への期待感を加える。面白いのは、«До свидания» と «До встречи» が、一見すると、構造的にも意味的にも同じであることだ。
構造は、前置詞「ДО」 + 生格。 «свидание» と «встреча» の意味も、この場合は同じで、「出会い」だ。
しかし、前者の «До свидания» が、二人がすぐ確実に会うことをまったく意味しないのに対し、後者のほうは、会うことがすでに合意され予定されている場合に使われる。
2. 宿命論者なら
しかし、そんな自信が裏切られ、今あなたが話したばかりの人がブラックリストに入るなら、こちらの挨拶がふさわしい…。
- Проща́й! – (さようなら〈もう会うことはないだろう〉)
この短い一語の「別れ」は、あなた方がもう二度と会わないだろうことを相手に示す。だから、このオプションは、休暇での束の間の恋を終わらせるとき、あるいは、決裂してバタンとドアを閉めて去るときなどに適している。
このほか、誰も恨みをもたない状況でも使われるが、ただし、もはや二度と会えないことを承知して別れるときに用いられる。
3. 善意の人なら
礼儀正しい人々は、お互いに相手に幸運を望むので、そうした善意の願いがしばしば、標準的、典型的な挨拶に取って代わる。「深夜」という単語を含む挨拶(例3と4)はふつう、午後10時以降に使う。会話が長引いたが、もうそろそろ寝る時間だね、というような場合だ。
1) Всего́ хоро́шего! – (英語の「Good luck!」に相当)
2) Всего́ до́брого! (同上)
3) До́брой но́чи! (おやすみなさい!)
4) Споко́йной но́чи! (おやすみなさい!)
5) Счастли́во! (1と2に同じ)
ちなみに、例5をのぞき、すべて生格になっている。これは、「желать чего」に基づいているからだ。「желать」は「~を願う」という意味の動詞で、願いの対象は生格となる。
4. いろんな外国語を知っている人なら
外国語から借用した「さよなら」は、ロシア語でも盛んに使用される。これらの挨拶の人気度は、今、どんな外国の連ドラを視聴者が見ているかによって決まる。
1980年代に、アドリアーノ・チェレンターノが出演したイタリア映画がソ連でブレイクし、「チャオ」と「アリーヴェデルチ」(さよなら)という言葉をロシア語に残した。1990年代には、ラテン・アメリカのテレビ番組のブームで、熱い別れの言葉「アディオス」(スペイン語で「さよなら」)が加わる。
今では、これらのオプションは、やや大げさに聞こえる。マルチリンガルの仲間内や、流行歌のしつこいリフレインなどにはいいかもしれない。
- Ча́о! (チャオ!)
- Аривиде́рчи! (アリーヴェデルチ〈イタリア語のさよなら〉)
- Адио́с! (アディオス〈スペイン語のさよなら〉)
5. 単なるマッチョ
ロシア語では、性別を示す(要するに、マッチョでオッサンぽい)オプションもある。
- Ну, дава́й. (じゃあな)
- Ну, быва́й. (同上)
この手の「さよなら」は簡潔で単純だ。そのため、軍隊あるいはその関係者の会話でしばしば使われる。
«Бывай» は、動詞 «бывать» (いる、ある)の命令形だ。文字通りの意味は、「お前はちゃんと俺の前にい続けろよ、今までみたいに」という感じ。
これに類するが、厳格でビジネスライクで感情抜きのオプションもある。
- На свя́зи! (いつでも連絡してこい)
このバージョンの「さよなら」を好む人は、人との「接続」、つまり現代世界ではいつでも誰にでもアクセスできることを常に覚えている。マッチョな無線通信士タイプという感じだ。
6. ママを苛立たせる「さよなら」
標準的な別れの挨拶 «До свида́ния!» と «Пока́!» のスラング版だ。エモい若者の間で人気があるが、年配者を苛立たせる。
- Поке́дова!
- Досвидо́с!
この二つは、生意気で失礼に聞こえる。本当に «прощай» (永遠にさよなら)を言いたくて、しかもぞんざいな態度で相手を怒らせたいような場合に適している。
後者の「Dosvidos」(«До свида́ния!» の変種)は、上に挙げた「Adios」から接尾辞-OS-を引き継いだと推測される。とすれば、ロシアのテレビ視聴者がラテン・アメリカの連ドラに抱いていた愛がここにも現れているわけだ。
確かに、人が別れを告げているときの様子を見ると、その人についていろんなことが分かる。「さよなら」を言うときは、お母さんをイライラさせないようにしよう。そして、お互いに良いことと楽しいことだけを願おう。
ニュートラルな「さよなら」 «До свидания» の代わりに、「また会おう」 «До встречи» をもっと頻繁に使うようにすると、 またロシア人の友人に会えるかもしれない。