子供の頃、そのお菓子の小さなエレガントなバラの形がわたしを魅了した。それはまるで小さなおもちゃのようだったからだ。それにお菓子が入っていた箱も素敵だった。色が変わっていて、ベージュと茶色だった。カラフルな箱でなくて、シンプルで、楽しくて、落ち着いたデザインであった。その箱には、このお菓子(スリーヴォチナヤ・ポマトカ=クリームファッジ)の写真が印刷されており、中を見せる透明な「窓」はなかった。何回も見ていて中身を知っていたにも関わらず、その箱を開けるたびに驚かされたものだ。
包装やこのお菓子の形の魅力以上に、スリーヴォチナヤ・ポマトカの味はとても素晴らしかった。
ソ連で生れ育ったロシア人の多くは、クリームファッジを見ると、子供時代をノスタルジックに思い起こす。そしてそれは、ロシア最古の菓子工場であるクラースヌィ・オクチャーブリ(「赤い10月」)と結びつくのだ。この菓子の歴史は100年以上もあり、世界中で数多くのバリエーションが生まれている。
スリーヴォチナヤ・ポマトカは1920年代にクラースヌィ・オクチャーブリの商品ラインアップに登場し、お菓子の中でも大人気商品となった。1992年以降は海外のお菓子が数多く入ってきて、ソ連時代の伝統的なお菓子は姿を消したもののあるが、このポマトカは生き残っている。そして今でも、あらゆる世代の人の間で人気を保っているのだ。
このお菓子の特長はその組み合わせの良さ、つまり味と食感の両方の素晴らしさである。
この菓子は、中は柔らかく粘り気があってクリーミーな一方、外側は薄くカリッとしているのだ。砂糖漬け果実とわずかなコニャックが入っていることによって、独特な香りと軽さを醸しだしている。この絶妙なコンビネーションが素晴らしい。
その独特な味に加えて、スリーヴォチナヤ・ポマトカはある特色を持っている。小さなバラの形だ。1920年代から90年代までは、バタークリームで作られたバラや花でよくお菓子を飾っていたものだ。このアイデアがこのファッジにも使われた。今では、お菓子を飾るにはもっと現代的な方法に変わってしまったが、ポマトカの形だけは変わらず、最初に作られた時のままで、このお菓子の不可欠な部分のままである。
この伝統的なお菓子、がんばって作ってみると、その価値が分かることは請け合いである。
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