モスクワではメルセデス・ベンツCクラスとEクラスを使用し、運賃も市場価格の2倍に設定している 写真提供:Wheely
「ウィーリー」の創設者で、オレグ・チルクノフ元沿海地方知事の息子であるアントン・チルクノフ氏は、車の運転ができないこと、そしてあえて運転しないことを誇りに思っている。このような行為は自分には合わず、ハンドルを握る時間があったら、他のもっと大切なことに時間を使った方が得だと考えているのだ。少なくともチルクノフ氏に関して言えば、これは当たっているだろう。この”変人ぶり”で、ビジネスを立ち上げるまでにいたったわけなのだから。「自分が利用するつもりのないサービスを始める意味はない。どんなことでも自分自身の必要性に応じているのが理想的だと思う」とチルクノフ氏。
まずはスマートフォンのアプリ設計から
Wheelyの創設者、アントン・チルクノフ氏 |
チルクノフ氏と友人は1年ほど前、運転手付き自動車を素早く簡単に呼べる、スマートフォンのアプリを設計した。自動車は従来型タクシーと差をつけ、屋根の社名表示灯、車体側面の文字、メーターなどのついていない高級車にした。当初は実費ですべてをまかなうつもりだったが、投資をつのらなければならなくなり、チルクノフ氏によれば、親戚や友人から総額250万ドル(約2億4000万円)ほどを集めたという。
まずロンドンで試験モデルの認可を受けることにした。「ロンドンは競争の激しい市場だ。ここで何かを達成できれば、堂々と他の街に進出することができる」とチルクノフ氏。さらに、タクシーの市場運賃よりも10%安くし、魅力的な代替手段にした。これまでに、個人送迎を行う7社と業務提携を結んでいるが、今のところ利益がないため、ビジネス・モデルを変える決定を行った。現在はロンドンで普通のタクシー会社として活動できるよう、ライセンスを待っている。ロンドンのタクシー会社は運賃の50%を手数料として徴収するが、そこを25%にして、個人のタクシー運転手と提携しようとしている。
スマートフォンで簡単便利
ロンドンでは価格を抑えてサービス満点にしていたが、ロシアでは逆にエリート層を狙っている。モスクワではメルセデス・ベンツCクラスとEクラスを使用し、運賃も市場価格の2倍に設定している。一般のタクシー運賃が17~20ドル(約1600~1900円)のところ、「ウィーリー」の平均運賃は50ドルだ。モスクワでは4社と業務提携し、約60台を保有している。利用者がスマートフォンのアプリをダウンロードし、そこから提携会社に予約をした場合、その会社は「ウィーリー」に運賃の20%を手数料として支払うという仕組みだ。モスクワではまだ3000人しかダウンロードしていないが、注文はウェブサイトを通じて行うこともできる。「ウィーリー」の収益は現在のところ、月5万ドル(約480万円)だ。11月までにこれを30万ドル(約2900万円)に拡大しようと計画している。
業界トップの「ヤンデックス・タクシー(Yandex Taxi)」の場合、アプリをダウンロードしているユーザーは60万人いる。「ヤンデックス・タクシー」のエリーナ・スタヴィスカヤ広報部長によると、業務提携しているタクシー会社は100社以上になるという。また、週4万回ものタクシーの予約があり、収益は月18万5000ドル(約1800万円)に及ぶ。同社の手数料はわずか5%だ。
「オンライン・タクシー予約市場は、モスクワでも他の都市でも拡大している。まず、1クリックだけでタクシーを呼べる手軽さがある。わざわざコールセンターに電話を入れて、オペレーターに予約内容の詳細を電話で伝える必要がない。次に、オンライン予約の場合、呼んだタクシーの動きが地図で確認できる便利さがある。予約時間にタクシーが現れないという事態が発生した場合に、タクシーの動きが把握できていないと、予約者が待つべきかどうか悩むことになる」とスタヴィスカヤ広報部長。
狭い“隙間”
チルクノフ氏によると、運転手付き自動車のサービスを行う会社が、大きなタクシー市場に参入できるチャンスを獲得できる点が、このアイデアの価値だという。「ウィーリー」の活動により、そのような会社の車がワンクリックでいつでもどこでも参上し、予約後平均時間16分で迎えにきてくれるのだ。ただ、この隙間サービスが目指している市場部門は、極端に小さい。モスクワのタクシーの需要は格安が65%、快適が30%、商用はわずか5%だ。
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