ロシア人がどんな病気も蜂蜜で直す訳

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 蜂蜜が役に立たないような病気とか不愉快な状況なんてたぶんないだろう。医者はいろんな薬効を証明してくれたが、それだけじゃない。たったスプーン一杯の蜂蜜を飲むだけですぐに気分が良くなり、絶体絶命の状況でも出口が見つかる。

石油より有名なバシキールの代名詞

 正直なところ、子供の頃は、私は蜂蜜にあまり関心がなかった。もっと正確に言うと、何かありふれたもののように考えていた。だって塩や胡椒や砂糖があるからって、すごい!と思ったりしないじゃないか。それらはいつもテーブルの上にあるものだ。うちの家族では蜂蜜はそんな平凡なものに過ぎず、一番苦しかった時代にも、いつも家にあった。他の食品のなかには手に入れるのが難しかったものもあるかもしれないが、蜂蜜は大丈夫だった。

 というのは、私は南ウラルで生まれ育ったからだ。ここはバシキールの蜂蜜で名高い。石油よりこっちのほうが有名だろう。大昔からロシアのこの地域では、養蜂と蜂蜜製造が行われており、少なくとも1500年前からやってきたという証拠がある。バシキールで考古学者が見つけた最も古い埋葬地では、様々な道具とともに、天然の蜂蜜を集める器具も見つかった。岩面壁画の証するところでは、この地域の古代人は、このこってりして甘い、しかも身体に良い塊に舌鼓を打っていた。

 というわけで、蜂蜜はバシキールの代名詞であり、ここの地元料理には欠かせない食材だ。一番有名なバシキールのお茶菓子は「チャクチャク」。これは小麦粉を練って棒または球の形に焼いたもの。蜂蜜がたっぷり浸み込ませてある。ちなみに、古いロシアのことわざに、「蜂蜜があれば釘だって飲み込める」というのがある。

 

民話の甘~い“キャラクター”

 諺が出たついでに言えば、ロシア民話には、しばしば蜂蜜のことが出てくる。熊はロシアのおとぎ話では最も人気のキャラクターの一つで、蜂蜜を集めた樽を抱えた姿で連想されることが多い。そして熊の冒険のほとんどが蜂蜜採りと関係しているのだ。だいたい「メドヴェージ(熊)」という名前からして、蜂蜜を食べる者という意味から来ている。「熊に十の歌があればそれはみんな蜂蜜のこと」という諺があるが、これは熊のそういう性格と習癖の強さを物語っている。

 蜂蜜は、世界で最も甘く美味しいものとされているが、まったくもっともなことだと思う。他の多くの言語と同じく、ロシア語の「蜂蜜の月(蜜月)」は、ハネムーンの意味。つまり新婚旅行、そして幸せな新婚生活の最初のひと月という意味をもつ。ロシアでは、新郎新婦に蜂蜜の樽を送るのが伝統だった。夫妻はこの期間中にそれを空にしなければならない。

  「あなたは蜂蜜みたいに甘いことを言う」。もしあなたが褒められたり幸先の良いことを言われたりしたときは、こう答える。ところで、この決まり文句に出てくる「蜜」は蜂蜜ではなく、それをベースに古代ロシアで作られていた弱いアルコール飲料のことだろう。これは樫の木の樽に何年も寝かして造る。いろんな儀式やお祭りに欠かせない一品だった。

 「蜜を塗った」。誰かが行くべきでない所に行きたがるような場合は、こう言う。どこかに蜂蜜を塗られて、それに引かれていくみたいだ、ということだ。

 いい気になっている、ナルシストのカブについての、こんな教訓的なお話がある。カブは味に苦みがあるのに自慢して言う。「私はカブです。私はすごく美味しくて、蜂蜜をつけるととても良いですよ」。これに対し蜂蜜は、自分はカブ抜きで食べても、それだけで美味しいと合理的に説明した。

 

万病の薬

 時とともに私は、良い蜂蜜はあらゆる意味で貴重な品だと気づいた。それは、私が子供のときに思っていたように、美味しい食べ物や、風邪やインフルエンザの治療薬であるだけではないことが分かった。それはまさに万病の薬なのだ。それが効く病は膨大な数にのぼる。ほぼすべての臓器、関節にその薬効は及び、傷、潰瘍を癒す。免疫力を向上させ、天然の抗うつ剤になる。さらに、蜂蜜には長寿の秘密が隠されており、統計によると、定期的にこれを食する人は、そうでない人より長生きする。

 ところで、名高いバシキール産蜂蜜のほかにも、ロシアの様々な地域――沿海地方、クラスノダル地方、ペルミ州など――に、これに劣らず美味しい各種の蜂蜜がある。なかでも私の好みに合うのはアルタイ産のちょっと渋いもので、これはアルタイ山脈の花や草から集められた蜜による。
 しかし常に念頭に置かねばならないのは、他の食品もそうだが、決して蜂蜜を乱用してはならないことだ。

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