ロシア美術史を彩る10人の偉大な画家たち

カルチャー
アレクサンドラ・グーゼワ
 彼らの作品は世界中の美術館に収蔵されている。彼らがロシア文化のコードに残した影響は絶大で、その名を知らぬ者はいない。
  1. アンドレイ・ルブリョフ(1360頃~1428(30)

 14~15世紀に生きた、最も名高いロシアのイコン作家である。彼の制作したイコンも教会壁画も、現在まで残った作品は数少ない。特に有名な彼のイコン『至聖三者』は1420年代に至聖三者大修道院のために描かれた。このイコンで、キリスト教の重要な教義である神性の三位一体を、ルブリョフは初めて視覚的に表現することに成功したとされる(詳しくは、こちらの記事を参照)。このイコンはソ連時代からトレチャコフ美術館に保管されていたが、最近、大修道院に返還されることが決まった。

  1. アレクサンドル・イワノフ(1806-1858

 19世紀末まで、宗教画はロシア絵画の中で大きな位置を占めていた。その代表的作家の1人が、アレクサンドル・イワノフである。彼はその代表作『民衆の前にあらわれるキリスト』の制作に、実に20年を費やした。作品の完成は大きな注目を集め、アレクサンドル2世がこれを購入し、モスクワのルミャンツェフスキー博物館に寄贈した。博物館には、この作品専用の展示ルームが作られていた。

 制作当時に耳目を惹いた『民衆の前にあらわれるキリスト』は、現在でもトレチャコフ美術館の目玉の1つであり、現代の作家に影響を与え続けている。例えば、現代美術の大家エリク・ブラートフは、本作へのオマージュとして作品『絵画と観衆』を制作している。

合わせて読みたい:ぜひ知って欲しい、アレクサンドル・イワノフの傑作5選>>>

  1. イヴァン・アイヴァゾフスキー(1817-1900

 ロシア最高峰の海洋画家は、黒海沿岸のクリミアで生まれ、人生の大半をそこで過ごし、海の風景を眺めつつ制作を行った。アイヴァゾフスキーは将校でもあり、海軍参謀本部付きの海洋画家で、ヨーロッパを多く旅し、アメリカも訪れ、各地で必ず海の風景を絵にした。彼の作品で最も有名で、最も表現力に富むのは、『第九の怒濤』であろう。嵐の後の海が描かれ、遭難した人々が帆柱の残骸につかまり、今にも彼らに襲いかからんとする大波を見て恐怖している。

合わせて読みたい:20枚の海を描いたロシアの絵画>>>

  1. イリヤ・レーピン(1844-1930

 ロシアのリアリズム絵画の中心人物で、その才能は様々なジャンルで発揮された。肖像画は、驚くべきリアリティと実在性を特徴とする(レフ・トルストイの肖像画も多数残している)。歴史画では、伝説級とも言える『イワン雷帝とその息子1581年11月16日』がある。あるいは、60人以上の役人の肖像が盛り込まれた大作の『1901年5月7日の国家評議会の記念祝典』。

 特に名高いレーピンの代表作の1つは、風俗画の『ヴォルガの船曳き』であろう。

合わせて読みたい:ロシアの偉大な画家イリヤ・レーピン― 知っておくべき10枚の名画>>>

  1. イワン・シーシキン(1832-1898

 精緻な風景画の天才はロシアの森林を愛し、その作品の主役は針葉樹林や広葉樹林や小さな林であった。シーシキンの最も有名な作品は、もちろん、『松林の朝』であろう(なお、本作に熊を描き加えたのはコンスタンチン・サヴィツキーである)。

 シーシキンは光と影を巧みに描写し、彼の描く森林は霧に包まれたり、冬の情景であったり、あるいは樹冠から差し込む太陽の光が目を惹く。

 もう1つの代表作『ライ麦畑』は、金色のライ麦畑を通る田舎道と、シーシキンが大変好んだ松の木が印象的だ。ソ連時代、彼の作品は切手からポスターからキャンディの包み紙まで、あらゆる用途に利用された。

合わせて読みたい:イワン・シーシキンが描くロシアの森の色彩>>>

6.ワレンティン・セローフ(1865-1911

 リアリズムとモダニズムの大家セローフは、レーピンの弟子だった。セローフは何より、肖像画家として名高い。皇帝と皇帝一家の肖像画の注文を受けた他、ユスーポフ公爵夫人や作曲家リムスキー=コルサコフ、同僚の画家など著名人の肖像画も依頼された。彼の最も有名な作品『桃を持った少女』は、メセナのサーヴァ・マモントフの娘の肖像である。

 後にセローフはリアリズムから遠ざかり、モダニズムの影響を受けた。この時期の有名な作品には、バレリーナのイダ・ルビンシュタインの裸婦像や、『エウロペの誘拐』などがある。

合わせて読みたい:ロシア美術傑作史:ワレンチン・セローフ作『桃を持った少女』>>>

  1. ワシーリー・スリコフ(1848-1916

 スリコフは、ロシアの歴史画を得意とした。彼は絵画に描くことで、忘れられていた多くの説話を「復活」させた。初期の歴史画の傑作の1つが、『銃兵処刑の朝』である。赤の広場と聖ワシリイ大聖堂を背景に、ピョートル1世の命によって、1698年の反乱の罪で処刑される銃兵たちが描かれる。

 シベリアをテーマにした作品も多いが、これはスリコフ自身がクラスノヤルスクの出身で、古儀式派の人々の生活を見て来たからである(後に作品『大貴族夫人モロゾワ』の制作に繋がる)。また、同地で見た流刑者や移住者の姿は、『ベリョーゾヴォのメンシコフ』(かつて高位にあったピョートル1世の側近が、シベリアに流刑され小さく貧しい小屋に暮らす光景を描いている)に反映された。

合わせて読みたい:解説:ワシーリー・スリコフの大貴族夫人モロゾワ>>>

  1. ヴァシーリー・カンディンスキー(1866-1944

 カンディンスキーは、抽象画の始祖の1人とされる。長年の試行錯誤を経て、1910年代に彼は初めて物体を描かない絵画とコンポジションを制作し、それらはカンディンスキーの代名詞となった。カンディンスキーは形状と幾何学と色彩を自由にあやつった。しかしソ連美術がイデオロギーに浸蝕され始めると、これを嫌って当初ドイツに、後にフランスに移住した。フランスで制作された彼の作品は、やがて世界中の美術館に広まっていく。『白い線のある画像』は、オークション史上最も高額で落札された絵画の1つとして知られる。

合わせて読みたい:これだけは知っておきたい!カンディンスキーの傑作10選>>>

  1. カジミール・マレーヴィチ(1879-1935

 マレーヴィチは、ロシア・アヴァンギャルドの最も独創的な作家の1人だろう。彼の初期作品はまだ十分に表象的であり、印象派の影響(『春 花咲く庭』、1914年)や、フォーヴィスムの影響(自画像、1908年)が見て取れる。しかし次第に彼は独自の画法の開発とシュプレマティスの提唱に傾き、その真髄は1915年の『黒の正方形』となって現れた。この作品は未来派の画展で初めて発表され、しかもその展示方法は、まるでイコンのように上座に掲げられるというスキャンダラスなものだった。現在、マレーヴィチ作品は世界で最も高価な絵画の1つとなっている。2018年、彼の『シュプレマティスム コンポジション』はクリスティーズのオークションにおいて8580万ドルで落札され、その記録は破られていない。

合わせて読みたい:マレーヴィチの「黒の正方形」にまつわる7つの重要な事実>>>

  1. イリヤ・カバコフ(1933-2023

 ソ連の画家・イラストレーターのイリヤ・カバコフは、ロシアのコンセプチュアリズムの旗手として世界的名声を博した。当初は、師匠のロベルト・ファリクの影響を受けてクラシカルな画風だった。その後は公式にデザイナーとして働きながら、自らの表現手法を模索し続けた。やがて、後にモスクワ・コンセプチュアリズムと呼ばれるようになる流派を確立し、多くの賛同者を集めることになる。1980年代、カバコフは世界に先駆けてトータル・インスタレーションに着手した1人となった。特に有名な作品は、『自分の部屋から宇宙へと飛び立った男』、『トイレット』、『誰もが皆、未来に連れていってもらえるわけではない』などで、現在も世界中の有名美術館で展示されている。カバコフはソ連の生活用品を利用して、過去、現在、未来を考察する作品を作り続けた。

合わせて読みたい:知っておくべきイリヤ・カバコフの作品10点>>>

ロシア・ビヨンドがTelegramで登場!是非ご購読ください!>>>