ロシア人が「赤い角」と呼ぶものとは?

ロシア・ビヨンド, Legion Media
 家の中でもっとも神聖な場所と10世紀から伝えられる伝統

 ロシアの木造家屋に「赤い角」のないものなど存在しない。これは家の中でもっとも重要な場所である。ここに、もっとも重要な客人を座らせ、ここで、花嫁をもらうための財産を渡した。また家の敷居を跨いだすべての人がまずそちらの方向を見た。その「赤い角」とは一体何なのか。

なぜその角は「赤い」のか?

レーニンが流刑を過ごした家屋にて、赤い角が右上に

 「赤い」という言葉はルーシ時代、「美しい」を意味した(たとえば、モスクワにあるロシアの主要な広場「赤の広場」は「美しい広場」を意味する)。この角は常に家屋の中でもっとも清潔できれいな場所であった。なぜなら、そこには家庭のイコノスタス(聖障)があったからで、それゆえ「赤い」と呼ばれたのである。

 ロシアの農家の家屋に「赤い角」が初めて作られたのは、キリスト教が受容されてから(ルーシでは988年の夏に洗礼を受けたとされているが、これは公式的な日付であり、実際には長年にわたって複雑な手続きが行われた)である。それまでの異教時代には、家の中でもっとも重要な場所はペチカであったが、新たな宗教を受け入れた後はイコン(聖像画)が飾られる角がもっとも崇高な場所となった。イコンは教会のイコノスタス同様、宗教の階層に従って決まった方法で並べられた。

『家屋の赤い角』、ワシリー・マクシモフ作、1869年

 角は、風向きや、依然として重要な精神的意味を持っていたペチカの場所という2つの条件によって決定された。赤い角は、南、東、あるいは南東に設けられ、死や不浄な力を連想させる西や北には作られなかった。

 また、角はペチカの対角線に置かれた。家に入ってきた人が一番にイコンが目に入るように、である。

その意味

『赤い角にて』、アレクセイ・コルズヒン作、1875年

 イコンへの敬意は、出産、結婚、葬儀など、もっとも重要な儀式にも反映されていた。たとえば、家の中で死者を見送るときには、頭をイコノスタスに向けて横たわらせた。ルーシ時代は、追悼の日の間、先祖の魂がそこにあると信じられていたのである。

 こうした意味から、花嫁の受け入れやそのための財産の受け渡しも、赤い角で行われた。花嫁は、生家から花婿の家に嫁ぐとすぐに、赤い角へと促された。

『病気を罹った主人』、ワシリー・マクシモフ作、1871年

 家の敷居をまたいだ人は、まずイコンの方に体を向けて、十字を切り、その後でその家の主人と挨拶を交わした。こうした習慣を表すロシアのことわざに、「神なしに敷居には辿りつけない」というものがある。つまり、家の主人の方を向くより前に、何よりまず神への敬意を表すべきだという意味である。

 そして、祝日にも、この「赤い角」ほど美しく飾られる場所は家の中にない。「赤い角」は、生花やろうそく、布などで装飾された。とりわけ、布には特別な意味が込められていた。

なぜイコンに白い布がかけられたのか?

 聖像画を布で飾るという古い伝統は、イエスが起こした奇跡についての聖書の言い伝えの一つに基づいている。その言い伝えによれば、ハンセン病に苦しんだエデッサのアブガル王は、その病を治してもらうため、侍従らをキリストのもとへ送った。しかし、イエスは水の入った水差しとプラトーク(スカーフ)を頼んだだけであった。イエスは顔を洗い、プラトークで顔を拭くと、イエスの顔の跡がプラトークに残った。王の侍従たちがそのプラトークをアブガル王のところに持ち帰り、王がそのプラトークに触れると、王の病はたちまち治ってしまったのである。言い伝えによれば、この聖なるプラトークは、数百年もの間、遺物として保管されていたが、中世になり失われてしまったという。

 正教徒たちがイコンを覆う儀式用の布は「ルシニク」、「神のタオル」、または「女神」などと呼ばれる。布は細長く、両端に赤と黒の糸で刺繍が施されている。平日は平日用のシンプルな布で覆い、祝日にはより豪華な布を用いる。

現代の家に「赤い角」はあるのか?

『結婚の話し合い』、ミコラ・ピモネンコ作、1882年

 今も、一部の正教徒の家では、この伝統が守られている。もちろん、すべての規則に合致した「赤い角」を選ぶのは難しくなっている。現代の家にはペチカはなく(とはいえ、田舎などでは、まだ目にすることができる)、部屋の間取りによっては、光の差し込む場所に「赤い角」を設けることができない場合もある。

 いずれにせよ、人々は、家の中の然るべき場所に、小さなイコノスタスを置こうと努め、そこにすべての家族、客人が集まる。客間の東の角であることが多い。

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