絶対に見逃せないベクマンベトフ監督の作品ベスト5

カルチャー
ワレリア・パイコワ
 ティムール・ベクマンベトフは、次々と大ヒット作品を産み出すハリウッドの映画監督として長く活躍している。このカザフスタン出身のロシア人映像作家は、アクション映画やシリアスドラマまで、幅広いジャンルの作品を作りだしている。

 ベクマンベトフ監督は、2004年に発表した吸血鬼映画「ナイト・ウォッチ」とその続編「デイ・ウォッチ」で世の中に知られるようになった。ハリウッドでの第一作は、アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイ、モーガン・フリーマン出演の「ウォンテッド」(2008年)である。

 ベクマンベトフは映画プロデューサーとしても、ほぼすべてのジャンルの映画を手掛けている。コメディー「Lucky Trouble エターナル・奇蹟の出会い」(2018年)や、ホラー「アンフォロード」(2018年)、「アンフレンデッド」(2014年)、スリラー「search/サーチ」(2018年)、戦時ドラマ「Persian Lessons(ペルシャ語のレッスン)」(2020年)、宇宙冒険「スペースウォーカー」(2017年)、マーティン・スコセッシと共同製作した歴史ドラマ「エジソンズ・ゲーム」(2017年)などだ。

 5. 「ベン・ハー」 (2016年)

 ルー・ウォーレスの人気小説「ベン・ハー」を映画化した作品。1959年に制作され、アカデミー賞11部門でオスカーを受賞したウィリアム・ワイラー監督の傑作映画のリメイクである。

 王子ユダ・ベン・ハー(ジャック・ヒューストン)と義兄弟メッサラ(トビー・ケベル)は仲の良い幼馴染であった。そして、往々にありがちなことであるが、彼らの友情はまもなくライバル関係になる。そして嫉妬心を抱いていたメッサラは自分が軍隊で有能な戦士であることを証明したいと思うようになる。対照的に、ユダは結婚して静かな家庭生活を送っていた。この2人は8年後に再会するのだが、その時には2人の間にとても深い溝ができていた。

 ローマ帝国では、往時、パンと見世物を市民に与えていた。ローマ帝国の「Panem et circenses!(パンと見世物を!)」という有名なスローガンは今でも忘れられていない。ベクマンベトフがユダ・ベン・ハーを通じて描いたのは、アクションとドラマにあふれた物語である。彼の「ベン・ハー」は、ハリウッド映画ファンであるファミリー層に十分に受け入れられるもので、アクション・シーンや目まぐるしい冒険シーンが満載である。

4.「リンカーン/秘密の書」(2012)

 アメリカ人作家であるセス・グレアム=スミスは、悪霊に憑りつかれたある家族の話を取り上げ、それをさらに膨らませた。その後、老成した主人公は、全人生をかけて悪魔と戦う決心する。アブラハム・リンカーン(ベンジャミン・ウォーカー)は、アメリカを征服するという吸血鬼の野望が成し遂げられる前に、吸血鬼を退治しようとあらゆる手段をとる。

 天性の才能を持った映像作家であるティムール・ベクマンベトフは、アクション映画で観客をいかに熱中させるかの術をよく知っている。観客は「リンカーン/秘密の書」の素晴らしいスタントや激しいアクションシーンに惹きつけられ、この映画は世の吸血鬼ファンすべての人にとって示唆に富む探検の旅となった。

3.「ウォンテッド」(2008)

 ティムール・ベクマンベトフは、コミック漫画のストーリーを、普通の人(ジェームズ・マカヴォイ)が、殺し屋の本能を持った明るい碧い瞳の女性(アンジェリーナ・ジョリー)と出会ったことで身に起こることを描いたリアルな物語に変えることで映像監督としての価値を証明した。セレブ・スターを起用することで大ヒットは初めから約束されたようなものだが、それだけではない。

 「ウォンテッド」は、春の空気が暖さや陽気に満ちているのと同じように、アクション、サスペンス、陰謀に溢れている。轟轟と走る列車、迫力のクローズアップ、決死のスタントやスローモーション・シーンなどすべての「ウォンテッド」のシーンが観る人の知覚神経、感情、アドレナリンを刺激し、観客が座席で常に前のめりになるように計算されているのである。アクション、ストーリー、出演者の演技が完ぺきにミックスされ、「ウォンテッド」は理想的な大ヒット映画になっている。

2. Profile」(2018年)

 フリーランスの女性ジャーナリストがイスラム国(IS、ロシアで禁じられているテロリスト集団)のために働くリクルーターを暴くためにムスリムの花嫁に扮する物語。しかし、事態は悪い方向に行き、向こう見ずなイギリス女性の運命は危機に瀕する。エイミー(ヴァリーン・ケイン)はスカイプを使ってビレル(シャザド・ラティフ)と通信し多くの情報を流すのだが、テロリストの影響下において、より深みに落ちていく。興味深いことは、「Profile」のすべてのシーンがコンピューターの「Screenlife」形式の画面の中で展開されることで、観客はエイミーのコンピューターのフェイスブック、フェイスタイム、YouTube、ウェブ・ブラウザやメッセージ・アプリをのぞき込むことになる。

1.V-2. Escape from Hell」(2021年)

 この映画は実在の戦闘機パイロット、ミハイル・デヴャタエフの体験に基づいている。彼は、1944年夏に捕虜として捕らえられ、最初ザクセンハウゼン強制収容所に送られた後、バルト海のウーゼドム島にある別の収容所に移送された。運命のいたずらか、その島はナチスの新兵器試験場で、新型ジェットや弾道ミサイルが開発されていた。デヴャタエフ(パーヴェル・プリルチヌィ)は、そこから逃げ出さなければ、死しか待っていないと知る。ベクマンベトフによれば、彼が映画の中で描きたいのは何よりもまず、何がいちばん大事か―公正か名誉―の選択、そしてその結果どうなるかということだという。この映画は、1962年にミハイル・デヴャタエフが自身の脱出劇について書いた自伝から着想したもので、「Escape from Hell=地獄からの脱出」という題名はまさにぴったりである。

 

 「V-2. Escape from Hell」はアクションとサスペンス満載のハラハラする筋書きにビデオゲーム技術が加えられ、作品をより本物らしくしている。またこれは、スマートフォンの縦型の画面形式ですべてが撮影された最初の大作映画である。

 最後にもう一つ重要なことを付け加えれば、作品ではドイツのロックバンド「ラムシュタイン」のリードボーカル、ティル・リンデマンが感動的な挿入歌「Lubimy Gorod(愛しい街)」を歌っている。彼は誰にも劣らぬロシア語を披露しているので、ぜひチェックしてみてほしい。