2022年にもっとも期待されるロシア映画10作

Aleksandr Khant/Perevorot Film Company, 2022
 ついに映画館で上映される映画祭で評価を受けた作品やスタジオ撮影が終わりつつある未来の世界のヒット作品までを一挙にご紹介する。

 2021年、ロシアの映画界は大躍進の年となった。カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」賞を受賞したキーラ・コヴァレンコ監督の「握り拳を広げながら」は、ヨーロッパ映画アカデミー賞にも輝いた。またフィンランドとの合作「コンパートメントNo.6」はカンヌ映画祭のグランプリを受賞しただけでなく、アカデミー賞候補に挙がっている。そして、クリム・シペンコ監督と女優ユリヤ・ペレシルドが宇宙で、映画「挑戦」の撮影を行ったことは大きな話題を呼んだ。実際に宇宙ステーションに滞在して撮影が行われたこの映画が公開されるのは2023年の予定となっているが、2022年、これ以外にも話題の新作がたくさんある。ロシア・ビヨンドがもっとも期待される大規模な作品6つと映画祭で人気を博し、ついに世界で公開されることになっている作品4つを紹介する。

 

1.「ヴォランド」(ミハイル・ロクシン監督) 

 2021年ネットフリックスオリジナルとしてリリースされ、視聴ランキングで上位に入った「シルバー・スケート」でデビューしたロクシン監督と脚本家ロマン・カントールによる2作目は、ミハイル・ブルガーコフの小説「巨匠とマルガリータ」を下敷きに制作された。ローマ帝国のユダヤ属州総督ポンテオ・ピラトとモスクワの詩人イワン・ベズドームヌィ、モスクワの「良くないアパート」、そしてゲーテのファウストよりも強力な謎の外国人ヴォランドの物語が神秘的な形でつなぎ合わされている。ヴォランド役を演じるのは、テレンス・マリック監督の「名もなき生涯」に出演したドイツ人俳優のアウグスト・ディール。巨匠役、マルガリータ役を、ロシア映画界の美男美女であるエヴゲーニー・ツィガノフと、「ニュー・ポープ、悩める新教皇」でジュード・ロウと共演し、注目されたユリヤ・スニギルが演じる。

 

2.「12月」(クリム・シペンコ監督)

 宇宙で撮影を行った世界で最初の監督になる数日前に、クリム・シペンコはロシアの詩人セルゲイ・エセーニンの晩年と、ダンサー、イサドラ・ダンカンとの関係について描いた作品を完成させた。雪に覆われたペテルブルク、激動の1920年代のソ連の陰鬱な雰囲気、陰謀論、焼かれずに残された文書・・・。そしてロシアの悲劇的な詩人役を、フョードル・ボンダルチューク監督のドラマ「スパルタ」と「アトラクションー制圧」(いずれもネットフリックスで配信中)やリュック・ベッソンの映画「アンナ」に出演したブロンドの俳優アレクサンドル・ペトロフが演じている。

 

3.「ニュルンベルク」(ニコライ・レベジェフ監督)

 20世紀最大の裁判であるニュルンベルク国際軍事裁判のプロセスを詳細に描いた世界で初めての作品。国際軍事裁判では、ナチス・ドイツ軍の元幹部らが裁かれた。監督は、今ロシアでもっとも人気のある監督の1人で、作品「伝説の17番」、「フライト・クルー」(いずれもネットフリックスで配信中)などの作品で知られるニコライ・レベジェフ。裁判の過程を映しだすだけでなく、作品には、本物の愛の物語が盛り込まれていると指摘している。

 

4.「最初のオスカー」(セルゲイ・モクリツキー監督)

 もう一つ、実際の出来事にインスピレーションを得た歴史をテーマにした作品で、前線で撮影を行った報道カメラマンについて描いている。前線のカメラマンたちは、第二次世界大戦開戦直後の戦場で撮影を行い、1943年に作品「モスクワの逆襲」は、最優秀ドキュメンタリー映画部門で、史上初の「オスカー」を受賞した。主役を演じるのは、チホン・ジズネフスキー。ネットフリックスでも人気を博した同名の漫画を基にした映画で刑事グロム役を演じている。

 

5.「フリー・フォール」(オレグ・ウラザイキン監督)  

 ロシアで制作されているのは戦争映画や宇宙映画だけではない。そして宇宙で撮影されているだけでもない。新人監督のオレグ・ウラザイキンは、スタジオで撮影した作品の公開を予定している。映画に登場する唯一の俳優は、「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」でヘルムート役を演じたアレクサンドル・クズネツォフ。「フリー・フォール」で、主人公は宇宙ステーションの修復に向かうが、事故により、宇宙空間に一人取り残されてしまう。地球との唯一のつながりは、助けを求める交換手のアンナ。そしてもちろん自分も生き残らなければならない。

 

6.「Land of Legends」(アントン・メゲルディチェフ監督) 

 「フリー・フォール」が「ゼロ・グラヴィティ」に対抗した作品だとすると、この「Land of Legends」はロシア版「ゲーム・オヴ・スローンズ」と言えるだろう。この作品でも主役を演じるのはアレクサンドル・クズネツォフ、監督はアントン・メゲルディチェフ。作品はロシアで今もっとも人気がある現代作家アレクセイ・イワノフの小説を映画化したもの。物語は、15世紀を舞台に展開し、モスクワ公は従属しようとしないペルミの地を併合すべく、占領者をウラルに送る。

 

7.「ヴォルコノゴフ大尉は逃走した」(ナターシャ・メルクロワ、アレクセイ・チュポフ監督)

 2021年にヴェネツィア映画祭のコンペ部門で初公開された作品で、映画祭では高い評価を受けたが、ついに国内外での封切りが予定されている。主役を演じるのは、「コンパートメントNo.6」、「シルバー・スケート」、そして近くネットフリックスで配信されるロシアドラマ「Nothing Special」にも出演しているユーラ・ボリソフ。主人公は、死後、天国に行くべく道を探すが、生きているとき、彼はすべての人々に苦しみを与え続けていたのであった。主人公はソ連のNKVD(内務人民委員部)に勤務していたが、悪事を働いていることを知らなかった。これまで「すべての人を驚かせた人間の社会的な死の恐怖ではなく、個人の恐怖をテーマにしてきたメルクロワ監督とチュポフ監督は、この作品で、NKVDというものとは何か、また「赤いテロル」の影響とは何なのかをはっきりと描き出している。作品はロシアの映画祭「キノタヴル」で最優秀脚本賞を受賞、また国家映画賞の金鷲賞にノミネートされている。

 

8.「オフシーズン」(アレクサンドル・ハント監督)             

 実際の出来事を基にしたロシア版「ユーフォリア」。ワルシャワ映画祭をはじめとするいくつかの映画祭でしかまだ上映されていない。ちなみにワルシャワ映画祭では、国際映画批評家連盟の若手審査員賞を受賞したほか、主なオーディエンスであるティーンエイジャーから絶賛された。大人への道を描いたハードな物語は、時代を見失ったかのようで、ソ連映画的なビジュアルとTikTokで人気の近代音楽が混在している。しかし、重要なのは、これはいつの時代にも重要なストーリーだということである。これがロミオとジュリエットに似ているのか、ボニーとクライドに似ているのかは観客の視点に委ねられている。

 

9. No Looking Back(キリル・ソコロフ監督)

 映画批評サイト「ロッテン・トマト」で高評価を受けた「とっととくたばれ!」の監督の2作目のテーマは女性で、時代に即しているといえる。ロシアの村の3世代の自由な女性を描いている。前作では、家族は生きるためではなく、死ぬまで壮絶なバトルを展開する。タランティーノや韓国サスペンス、コーエン兄弟へのオマージュが散見される。

 

10.「スカースカ(おとぎ話)」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)  

 2011年にヴェネツィア映画祭で金獅子賞を受賞した「ファウスト」以来、劇映画の制作を行っていなかった国外でもっとも有名なロシアの映画監督アレクサンドル・ソクーロフの新たな謎のプロジェクト。作品は第二次世界大戦をテーマにしたものだが、内容はファンタジーである。歴史上の出来事や文学作品を基にした作品を送り出してきたソクーロフにとっては珍しいものである。これまでソクーロフ監督は、「モレク神」、「牡牛座」、「太陽」、「ファウスト」の4部作で、それぞれ、ヒトラー、レーニン、昭和天皇、そしてファウストを描いた。

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