1.「戦争と女の顔」 カンテミル・バラゴフ監督
アレクサンドル・ソクーロフに師事する期待の新鋭カンテミル・バラゴフ監督の新作『戦争と女の顔』(原題・ロシア語: ディルダ <のっぽ>)は、すでにカンヌ映画祭の「ある視点」部門や国際映画批評家連盟賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞にもノミネートされている。戦後シンドロームに苦しむレニングラード出身の2人の女性が自分たちの人生を取り戻そうとする姿を描いた作品で、28歳のバラゴフ監督にとっては本編2作目となっている。本編デビュー作品となった「Closeness」は、バラゴフ監督の生まれ故郷カバルダ・バルカル共和国の1990年代終わりごろを生きる家族を描いた作品で、こちらもカンヌ映画祭で受賞を果たしている。
「すべてはノーベル受賞作家のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの代表作『戦争は女の顔をしていない』から始まりました。この本を読んでわたしは新たな世界を知ったのです。それまでは戦争について深く考えることもありませんでしたし、戦争を体験した女性たちの運命となると、ほぼまったく考えたことがありませんでした」と映画『戦争と女の顔』についてバラゴフは語っている。
映画の中で「ディルダ」と呼ばれるのはイーヤという名前の女性。彼女はPTSDのため動員解除され、現在は病院で看護師として働きながら男の子を育てている。1945年の秋、前線から女友達のマーシャが戻ってくる。そして2人の複雑な恋愛関係は本筋の裏にある多くの感情的なストーリーを作る核となっていく。.批評家らは「バラゴフは力強くありながら、無謀であることができる」と指摘している。死、心理的な脅迫、社会の不平等、ソ連の共同住宅を思わせる舞台装飾の中での同性愛。「ディルダ」にはすべて、あるいはそれ以上のものがある。
2.「彼は宇宙なしでは生きていけない」 コンスタンチン・ブロンジット監督
アニメーターのコンスタンチン・ブロンジットがアカデミー賞の「短編アニメーション賞」にノミネートされるのはこれが初めてではない。過去には「Lavatory-Lovestory」(2009)と「我々は宇宙なしでは生きていけない」(2014)がノミネートされている。今回ノミネートされている作品も2014年の作品と同タイトルだが、それぞれ独立した作品で、共通しているのはそのテーマだけである。
「扱うテーマが同じだということで敢えて同じタイトルにしました。テーマは、人間は宇宙なしには生きていけないということです」とブロンジットは語っている。
新作は自分の夢に向かって進んでいく子どもについての感動的な物語。子ども向けの上映会では、最初は笑っていた子どもたちも最後には静まり返っていたという。実際には、ブロンジット監督の映画は子どものため(だけ)に作られたものではないが。
ブロンジット監督の“魔力”を十分に感じるためには、2014年に制作された同じスタイルの作品を観てほしい。この映画は50以上の国際賞を受賞したが、おそらく新作も少なからぬ賞を授与されるだろう。
3. 「Aquarela」 ヴィクトル・コサコフスキー監督
ヴィクトル・コサコフスキー監督は、有名な監督アレクセイ・バラバノフの同級生で、ドキュメンタリー映画の巨匠とされる。ベルリン映画祭、ロシアのニカ賞、白象賞の受賞者で、ヨーロッパ映画アカデミー、アメリカアカデミー会員。作品「¡Vivan las Antipodas!」は2011年のヴェネツィア映画祭の開幕作品となった。
新作「Aquarela」はすでにセンセーションを巻き起こしている。映画は哲学的寓話で、主人公は水。ロシアのバイカル湖の氷から懸命に抜け出し、ハリケーン「イルマ」に襲われるマイアミを通り、ベネズエラにある力強い滝エンジェルに辿り着く。英国、ドイツ、デンマーク、アメリカとの合作で、驚くほど美しい作品に仕上がっている。
またこの 「Aquarela」は映画史上初めて1秒96コマで撮影された(通常は1秒24コマ)。(ピーター・ジャクソン監督は「ホビット 思いがけない冒険」で1秒48コマでの撮影を行っている)。その結果、映像がかなり立体的で、リアリスティックなものとなっている。「わたしたちは映画の中の雨というと、白い線のようなものを想像しますが、わたしたちの作品では雫の一つ一つが飛び散っているのが見えるのです」とコサコフスキー監督が語る。ヴェネツィア映画祭での初公開のあと、2018年にはハリウッドで活動する映画関係者の半数がコサコフスキー監督のワークショップへの参加希望を表明した。コサコフスキー監督の作品はアカデミー賞「ドキュメンタリー映画」部門でノミネートされている。