注:ランキングは完全に筆者の主観的なものである(しかし完全に正しいものでもある)。
20. Timati feat. Egor Krid-Gucci
今年のロシアは、このメインストリームのラップ界の大御所たちにとって非常に忙しい年であったが、中でもYouTubeで6,200万回再生されたGucciは特に注目された。曲はGucciの洋服を見せびらかす新しいマンブルラップ(もごもご喋るタイプのラップ)スタイルを真似たものとされており、怪しいほど似通ったライフスタイルを持つことで知られる2人はまったく同じようなやり方でヒットソングを生み出し、多くの金を得つつ、このジャンルを楽しんでいる。しかし本当のところは、彼らの風刺は理解しにくい。
加えて、本当に恐ろしいことだが、一度聞いたら頭から離れない。前もって詫びておく。
19. Formally Unknown – Off Peak (Mella Dee mix)
サンクトペテルブルグのテクノデュオ。今年はUKのラッパー、Duskyのレーベル17 Steps からリリースしたEP“Off Peak”で一気に頭角を表した。この曲は、ロンドンを拠点とするジャングル音楽のプロデューサー、メラ・ディーのミックスによるEPのタイトルトラック。温かい重めのコードが、陶酔感のあるブレイクビーツとともにゆっくりヒートアップし、最後はすっかり冬から現実逃避させてくれる。
18.Gruppa Skryptonite – 愚かで必要のない(Stupid and Unneeded)
ラップ界の王者Skryptoniteは昨年、ヒップホップから脱すると発表し、衝撃を与えた。“Stupid and Unneeded”はGruppa Skryptoniteという新たな名前でのプロジェクトの最初の曲となったが、時間と労力が感じられるいい仕上がりだ。ダンスホールを取り入れたこの曲は、遠くに響くシタールのリフに乗せて、眠そうな声で、絶望を嘆くAdilをフィーチャリングしている。
17.Little Big – Skibidi
すでに知っている人もいるかもしれないが、Little Bigはロシアのレイヴグループで、確実にその奇妙さを世界に少しずつ浸透させている。ミームで拡散されるに十分価値のあるクレイジーでギョッとさせるような表情を織り交ぜた“SKIBIDI”は2018年を自分たちのものにした。もしまだ聴いていないという方はぜひご一聴あれ。Little Bigについて詳しくはこちらをどうぞ。
16.Big Baby Tape – Gimme the Loot
Biggie Smallsの同名の名曲をサンプリングしたもの。2018年に初登場したラップ界の今年の新星Big Baby Tapeはこの素晴らしい1曲でロシアのあらゆるラップ・ジーニアスRap Geniusの記録を打ち破った。ベース中心のビートはBaby自身の作曲だが、DIYのビート感はXXXtentacionの“Look at Me”にも似ている。
15.Poshlaya Molly – 君の仔犬になるよ(I’ll Be Your Doggy)
今年一番のロシア語のロックバンドは時代にぴったりハマり、レパートリーの“Your Sister’s Favorite Song” と“Everyone Wants to Kiss Me”の2曲でチャート上位に上り詰めた。一方、“I’ll Be Your Doggy”も同様のスタイルの一曲で、アンプなしのギターリフにフェティシズムや奇妙なパーティを歌った歌詞を取り入れている。
14.Husky –母国についてのポエム(Poem about the Motherland)
「わたしの故郷は愛。そして窓の外に目をやれば/ そこにはグレーのドレスに身を包んだモノタウンが見える」 ラップ界の重鎮であるHuskyは“母国についてのポエム“の中で多くのロシア人が持つ心の葛藤―つまり、祖国に対するプライドと国の将来についての憂い―を捉えている。言葉遊びと比喩に富んだこの歌は、戦争、成長、経済格差などといったテーマに言及している。
13. Kedr Livanskiy – そんな時代があった(There was a time)
“そんな時代があった”は一種の旅である。ジャングルビートの上を完璧に流れるリヴァンスキーの靄のかかったような声で、歌は十分な勢いかつ人を引きつける力でレイヴされ続ける。
12.Youra – Praktika
プロレタリアパンクの代表曲である“Praktika”はソ連崩壊後のロシアではあまりクローズアップされていなかったテーマに目を向けている。近代の工場のディストピアを描いた歌とミュージッククリップはいかに機械的な繰り返しが怒りを生むかということを完璧に指摘している。何といっても驚きは、2017年の大ヒット曲“氷が溶ける(Ice is Melting)”で知られるGribiの元リードヴォーカルが参加していることである。
11.Luna – Jukebox
ウクライナのシンガーソングライター、クリスティーナ・バルダシにとって、2018年は、アルバム“Enchanted Dreams”をリリース、このドリームポップな1曲を歌うなど、力強い1年となった。深く、逃がれようのない愛の本質を嘆く“Jukebox”は、電子音楽の王道を行って成功した作品だ。
10.Husky –ユダ(Judas)
“母国についてのポエム“に対しては眉をひそめる者がいるかもしれないが、この“ユダ”は今年Huskyにとってもっとも注目の1曲となった。狂ったようで、人を夢中にさせる、不可能なほど抽象的な作品で、自己預言者的なHuskyが、聴衆が彼からある音を求めることに対して、ハエであるとか裏切りものであるとか非難している。現代のラップは意味がないなどと言う人はいるのか?
9.Andrey Pushkarev – Can I take a picture with you?
ロシア電子音楽界の重鎮、プシカレフはパーフェクトだと認めた作品しか発表しない。この8分に及ぶ自信作はハウス音楽のように穏やかで気持ちを高揚してくれる。
プシカレフについては、2017年のロシアテクノのビギナーズガイドでも取り上げている。
8.Cream Soda – いなくなって。でもここにいて(Leave, no, stay)
「いなくなって。でもここにいて/ わたしの頭の中にはスペースがありすぎるの/ここで迷い込みましょう」。メンバー2人で活動していたモスクワのバンドCream Sodaだが、ヴォーカルのアンナ・ロマノフスカヤが新たにメンバーに加わった模様で、人気上昇に繋がった。彼らの音楽は以前にもまして完璧なものになり、彼らの特徴であるオフビートのシンセがヴォーカルのソウルフルなバラードと完璧にマッチしている。
7.Luna – 眠れる森の美女(Sleeping Beauty)
おそらくこれまででもっとも意欲的なシングルリリースとなる“眠れる森の美女(Sleeping Beauty)”は歪んだシンセサイザー音と轟くようなディスコ調ベースラインを使い、おぼろげなヴォーカルの声をこれまでにないほど重みのあるものにしている。
6.Pharaoh – ロリポップ(Lollipop)
誰にも止められない絶好調の22歳のPharaohは、キャッチーかつ衝撃的なまでに下品なこの“ロリポップ”で、今年新たな高みに到達した。模範的な流れと面白いビートの集め方でいえば、いまロシアにPharaohの右にでるミュージシャンはいないだろう。
5.IC3PEAK– 死はもうない(DeathNoMore)
レーニン廟を背に生肉を食べ、クレムリンを背にグラスに血を注ぐ。IC3PEAKはLittle Bigのエッジの効いたゴスと同じ部類である。これは奇妙で、インターネット世代のためのトラップの影響を受けたパンクで、美しいヴォーカルと重いベースのビートが衝撃的な政治的効果と合わさっている。
4.Monetochka – 90
通りでの撃ち合い、英語で罵るツインピークス、「若きロシアの顔」はすべてのロシア人をタイムマシンに乗せ、1990年代に連れていってくれる。これをそのまま真実だと受け止める必要はないが、この作品は、多くのロシア人が当時を振り返るとき、実際よりも悪い時代だったと考えていることに対する皮肉である。しかし魅惑的なノスタルジーを奏でるシンセの音を止めることはできない。アレクセイ・バブラノフのファンなら動画も楽しめる。
3.M & Ritmo – もしも(What if)
「バカバカしさの中にすべての希望がある」。これはあらゆる物事にあてはまる真言だが、ベテランラッパーMがそれを露わにした。このアングラ詩人は実に正直に、自分に振り向いてはくれないと分かっていたある女性に心を奪われていく様をつづった。彼はVKに、「その幻想は、ブラックホールのように自分の体からエネルギーを吸い尽くす。」と書いている。Mのむき出しの情熱は全編を通じて感じられ、そのビートは、徐々に高まるクライマックスの心地よさをもたらす。
2.Cream Soda – ヘッドショット(Headshot)
“ヘッドショット”は柔らかな中にも爆発的な心地よいヴァイブが感じられ、ほぼ1位の位置につけた。2018年はCream Sodaにとって、ハイクオリティな作品を作れるようになり、チャートを狙えるグループとなった。新たなリードヴォーカルを加え、今後も興味深い活動が期待できる。
1.Monetochka – いつでも(Every Time)
さて、2018年が誰のものだったかと言えば、それはMonetochkaである。とりわけこの曲はロシアのあちこちで聴かれ、あらゆるラジオで、そしてテレビのCMでもかかっていたが、耳障りに感じることはなかった。しかしこの19歳の流行の最先端を行く歌姫の存在価値を表わす曲は“いつもいつでも”以外にはない。この曲は始めから終わりまで彼女が全く元カレを思い出さないという皮肉である。(ネタばれ:実際彼女はそうである)。何れにしても、これが今年のロシアのベストソングで、これ以外にはありえない。素晴らしい音楽を聴かせてくれるMonetochkaを特集した記事はこちらから。