1.エヴーゲニー・グラニリシコフ(1985年生まれ)
ビデオアートと実験的映画を融合させた作品を発表している。30代に突入したかと言うジェネレーションY、つまりミレニアル世代と呼ばれる人々の姿を描く。グラニリシコフの作品に登場する人物たちはさまざまな出来事を体験し、ニュースについて意見を交わしたり、政治について論じたりする。作品は監督の日常の出来事を綴ったまるでビデオ動画のような終わりのない1本の映画のようである。グラニリシコフの映画は多数の賞を授与されており、ロシアのカンディンスキー賞に入賞した他、第4回モスクワビエンナーレにも出展、Unfinished Film (2015)はオベルハウゼン映画祭で上映された。
2.タウス・マハチェワ(1983 年生まれ)
有名なソ連の詩人ラスル・ガムザトフの孫娘。作品の中ではグローバリズム時代のカフカスの伝統文化の変化を追っている。マハチェワの映像は機知に富み、伝統文化とそこに入ってくる新たな文化と共存するカフカスの民族の生活をポエティックに捉える。マハチェワの作品は、パフォーマンスとビデオアートの中間とも言えるジャンル。本人が主役の「スーパー・タウス」となり、作品に登場することも多い。アヴァール人の民族衣装を身につけた勇敢なヒロインはいつでも偉業を成し遂げることができる。タウスは多くのビエンナーレに出展している。最近ではリヴァプール、仁川、リガのビエンナーレ、またManifesta 12にも参加した。
3.グループZIP
観客との密接なつながりの中で「美的作用」を用いた作品を作るクラスノダール(モスクワの南方1,300キロ)のグループ。グループは単なるアーティストではなく、クラスノダールの近代的な芸術活動のためのより良い環境をゼロから作り上げた社会活動家でもある。彼らの尽力により、クラスノダールには現代芸術大学が創立され、アート・イン・レジデンスが作られ、ストリートアートフェスティバルが開催され、展示ホール、カルチャーセンターが建てられた。また自動車に独自の作品を集めた「ZIPミュージアム」を積み込み、ロシア全国を旅しながら、さまざまな都市で移動展覧会を開いている。主に伝説的なアート集団Fluxusを思わせるような絵画作品やインスタレーションを手がけ、観客を巻き込んだ作品作りを行う。
4.チモフェイ・ラジャ
エカテリンブルグ出身のストリートアーティストで、ソ連パルチザンスタイルのストリートアートとプロとしての経験を融合させた作品を制作する。グラフィティによく見られる素材を使った作品だけでなく、専門家グループを要するような高度の技術を駆使した作品も作る。ネオンで描かれることが多いテキストは住宅や廃墟と化した工場、天文台の屋根や壁、野原に映される。内容は詩的なものばかりでなく、政治的な意味合いを含むものもある。今年、ラジャは見本市Cutlogでグランプリを受賞した。
5.エヴゲーニー・アントゥフィエフ(1986年生まれ)
現代アート界の考古学者。イルカの骨、鉄隕石、狼の歯といった変わった素材を使い、現代版のお守りや崇拝対象の彫像を制作する。一方で建築用シートやキャラメル菓子を取り入れることで、錬金術的作品をやや柔らかい雰囲気にしている。アントゥフィエフは現代の対象物をミイラ化させることで、時間を閉じ込め、不死不朽の謎に近づこうとしている。アントゥフィエフはビエンナーレManifesta 11、Manifesta 12に出展、展覧会CollezioneMaramottiに参加、ポンピドゥセンターでも展示された。
6.タチアナ・アフメトガリエワ(1983年生まれ)
グラフィックの言語をテキスタイルの言語に変換しながら工芸作品を作っている。作品の中では現代アート的な要素と、刺繍、織、編み物といった伝統工芸とが組み合わされている。温かみのあるインスタレーションは数メートルもの長さのものもあり、写実主義と抽象画の間のバランスを保った作品となっている。テキスタイルを使った作品では、人物はまだ完成されていないスケッチのように描かれているが、そこからは生きた人間の感情が伝わってくる。ロシア、イタリア、スカンジナヴィアで展覧会を開催。また、フィンランドのGalerie Forsblomの代表である。
7.ポリーナ・カニス(1985年生まれ)
カニスはビデオアートを手がけるアーティスト。主なテーマとして社会的ステレオタイプ、社会の固定観念として存在する性別と年齢の役割の矛盾。当初は自らビデオパフォーマンスに出演していたが、最近は演出家に徹している。最近の作品のストーリーはダンスステージを舞台にしたものが多い。ロンドン、バーゲン、ウィーンなどの展覧会に出展している。
8.イリヤ・フェドートフ=フョードロフ(1988年生まれ)
「学術的芸術」の一方向であるビオアートに取り組む自然派アーティスト。作品やインスタレーションでは植物、ときには動物を使う。自然と自然に対するイメージの境界線を示そうとする研究者の立場に親しみを覚えるという。2017年のモスクワ現代アートビエンナーレに出展。
9.オリガ・クロイトル(1986年生まれ)
パフォーマーのオリガは常に限界に挑戦している。彼女のパフォーマンスはかなり危険なもので、人間の能力を最大限発揮することが求められる。パフォーマンスでは、サナギのように自分の体にサランラップを巻きつけて、木にくっついたり、髪で床を掃除したり、オフィーリアのように床下のガラスの中に裸で横たわったり。2015年、4メートルの木の柱の上に数時間立つというパフォーマンス「支点」で、ロシアのカンディンスキー賞を受賞。
10.アスラン・ガイスモフ(1991年生まれ)
戦争の傷あと、そしてチェチェン民族の歴史上の重要な出来事を取り上げた作品作りを手がけるチェチェンのアーティスト。ホームレスや家に帰れない人々を重要なテーマとし、絵画、インスタレーション、ビデオを制作する。戦争のメタファーとして、燃やしたり、切られたりした本で制作したインスタレーションで、大きな注目を浴びた。モスクワビエンナーレ(2013)、リヴァプールビエンナーレ(2018)に参加、2019年のヴェネツィアビエンナーレのロシア館で出品することになっている。