ロシア文学のホラー5選:ゴーゴリ、A.K.トルストイ、アンドレーエフから現代作家まで

カルチャー
アレクサンドラ・グゼワ
 ロシア文学のホラーのジャンルは、実は150年以上の歴史がある。現代アメリカのホラー作家、スティーヴン・キングが9月21日に70歳の誕生日を迎えたのを機に、ロシア・ビヨンドが、ロシアの身の毛もよだつ代表的ホラーをご紹介する。

ニコライ・ゴーゴリの『ヴィイ』

 ニコライ・ゴーゴリの代表作『死せる魂』は、その一見おどろおどろしい題名にも関わらず、ホラーとは関係ない。しかし彼の『ヴィイ』は、ロシア最初のホラー作品の一つだ。その筋は――。  

 ある若い神学生が、金持ちの死んだ娘のために3日間の祈祷をしなければならない。神学生の祈祷は普通に行われていくのだが、死んだ娘が、突然、魔女になって目を覚まし、仲間の悪魔や魔物を呼び集める…。ヴィイとは、魔物の頭領の名で、魔物のなかでも最も恐ろしく醜悪だ。

 ゴーゴリには他にもこの分野の傑作がたくさんある。比較的知られておらずしたがって映像化もあまりなされていないものの中からいくつか挙げると、例えば、物語集『ディカーニカ近郷夜話』に収められている『五月の夜(または水死女)』、『怖ろしき復讐』など。でも、読むにはちょっと怖すぎかも…。

 

アレクセイ・トルストイ『吸血鬼』

 このゴシック小説は、幻想味豊かで重層的で複雑な作品であるとして、ロシアの批評家も高く評価した。物語は、吸血鬼たちが出席している(らしい)舞踏会が舞台となる。見知らぬ人が主人公に、客の幾人かは吸血鬼に違いない、自分は彼らの葬式に出たことがあるのだから、と告げる。結局のところ、読者は、吸血鬼が実在するのか、主人公の混乱した空想の産物なのか分からない。

 トルストイは若い頃に、吸血鬼を題材とした別の作品も書いている。『吸血鬼の家族』がそれだ。セルビアのある村に住む家族が、家族全員が吸血鬼(ヴルダラーク)になってしまった。そのなかには主人公が恋している娘もいた…。

 

レオニード・アンドレーエフの短編

 レオニード・アンドレーエフは、ロシアの最も傑出した作家の一人で、どんな題材もひるまずに使う(イスカリオテのユダを別の視点から描いた同名の作品さえある)。だから、彼の生み出す恐怖は、邪悪な力などではなく、人間の狂気と結びついている。それは、単純なホラー効果やゾンビより恐ろしいかもしれない。

 『赤い笑い』は、日露戦争中の1904年に書かれ、二葉亭四迷が1908年に『血笑記』の題名でいち早く翻訳している。戦いで疲れ果て荒野を行軍する男が主人公だ。彼は幻覚を見るようになり、悪魔の「赤い笑い」がいたるところで彼につきまとうと信じ込む。

 『深淵』も怖い話だ。森の中を歩いているカップルが、数人のならず者に襲われ、男を殴り倒し、女性を強姦する。男が我に返ると、女が意識を失って横たわっているのを目にする。男は錯乱しながら、女にキスする...。「そして黒い深淵が彼を呑み込んだ」という文でこの物語は終わる。

 

アレクセイ・イワノフ『犬の頭』

 アレクセイ・イワノフは現役バリバリの作家だ。ロシアの批評家たちは、『犬の頭 Псоглавцы』にはスティーヴン・キングが影響しているという。そのあらすじは――。

 3人のモスクワに住む男たちが、ボルガ沿岸の寒村を訪れ、荒れ果てた教会で、3世紀の聖人クリストフォロス(聖致命者ハリストフォル)の壁画を目にする。聖人は犬の頭をもった姿で描かれていた(*正教の伝承では、クリストフォロスは、犬頭人「マルマリテ族」の出身であった。1722年、ロシア正教の聖務会院は犬の頭を持ったクリストフォロスの描写を禁止したが、古儀式派では、現在にいたるまで、そうしたイコンが描かれている――編集部注)。やがて彼らは、復活した奇怪な犬頭の悪魔を見る…。

 イワノフは、『地球儀を飲んだ地理学者 Географ глобус пропил』、『反乱の黄金 Золото бунта』などの、シベリアを舞台とした歴史小説風の作品も書いている。

 

アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』

 “ロシアのスティーヴン・キング”と呼ばれる、ロシアのホラーの女王、アンナ・スタロビネツの作品を読めば、あなたの髪の毛が逆立つこと疑いなし。

 浸食ホラー、『むずかしい年ごろ』では、シングルマザーが、十代の息子の日記を見つけるのだが、それによると、女王蟻が息子の心に棲みつき、その密かな計画を暴露していた。その目的はまずは息子の身体をのっとり、さらには人類を征服することだという。

 とにかく蟻がいたるところに出てくるので、蟻嫌いの人は読まないほうがいいだろう。スタロビネツのホラーには様々な形のものがあり、ファンタジーや神秘的な物語から、『生者たち』のような黙示録的ディストピスまでいろいろある。

 『むずかしい年ごろ』と『生者たち』は、沼野恭子氏と北川和美氏による邦訳が出ている