ロシア文学の中の動物ベスト5

猫のベゲモート=

猫のベゲモート=

エレナ・マルトィニュク/ブルガーコフ博物館
 古今東西、文学作品の中に最も頻繁に登場する動物といえば、やはり人間に最も近しい動物たち、すなわちネコ、イヌ、ウマであった。そのそれぞれに一定の美質が固定され、その美質は本から本へと継承されていく。作家は動物を描くことで、より強く読者に訴えかけることが出来るようになり、動物の力を借りて、登場人物の性格を明らかにしていくのだ。

「猫、それは古い、そして神聖な動物だ!」(ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』)

 定期的に太っちょの人間に変化する、猫のベゲモートこそは、ロシア文学で最もチャーミングな猫だろう。ミハイル・ブルガーコフの神秘的な小説『巨匠とマルガリータ』に出てくる、闇の力の支配者・ヴォランドの手下だ。

 お茶目でわんぱくなベゲモートは、実に愉快な造形で、読者の前に姿を現す。後ろ足で立って悠々と歩く、「豚のように巨大、煤かミヤマガラスのように真っ黒な、手の付けられぬ伊達ヒゲをもつ猫」。このコミカルなキャラクターは、「片手にウォッカのミニコップ、片手にキノコの酢漬けの刺さったフォーク」を持ち、ふかふかの椅子の上にだらしなく寝転がっているかと思えば、ブローニング銃を手に、シャンデリアを揺すりながら、大捕り物を演じる。

 画像:ユリー・ヴォルコヴィチ

 それと双璧をなす、ロシア文学で最も有名な猫は、アレクサンドル・プーシキンの物語詩「ルスランとリュドミラ」序章に登場する。この「学者猫」は樫の木に巻かれた金鎖の上をぐるぐる歩き、人魚について、鶏の一本足の上に立つ小屋について、夢のような物語を作者に語り聞かせる。そんな物語のひとつを、作者が聞き取り、読者に物語るのだ。この魔法の詩を創作するヒントをプーシキンに与えたのは、古いロシアのフォークロアであり、「学者猫」の造形は、ロシアの民話の有名なキャラクター、猫のバユーンに起源を持っている。

 

よろしく、ムムー!

ロシア通信撮影

 猫がずるさと賢さなら、文学における犬のイメージは献身、そして私心なき愛である。

 ロシア文学で最も有名な犬のひとつが、イワン・ツルゲーネフの同名小説のキャラクター、ムムーだ。それは哀しい物語。聾唖の農奴制農民ゲラシム、交際嫌いで孤独なこの偉丈夫が、子犬を見つけ、心を通わせる。しかし彼の仕える女主人が、犬を処分するよう命じる。ゲラシムは最も近しい生き物を水死させなければならない。ムムーは飼い主のことが大好きだった。重しを結わえた縄をかけられてもなお、怖がらず、信頼にみちた眼差しを飼い主に向け、尻尾を振っていた。

kinopoisk.ru 

 別の有名な犬の物語はハッピーエンドで終わる。「カシタンカ」と題する作品の中でアントン・チェーホフは、道で飼い主にはぐれ、サーカスの調教師に拾われた犬のことを描く。調教師は犬に優しくし、芸を教え込むのだが、いよいよサーカスデビューというとき、客席に来ていた元飼い主・貧しい指物師とその息子が、カシタンカに気づく。二人はカシタンカを乱暴に扱い、餌もろくなものを与えなかった。にも関わらず、カシタンカは彼らの方へ駆け出していくのである。新しい、満ち足りた人生をためらいもなく振り捨てて。そうして私たち読者は、今一度、犬の献身には際限というものがない、と思い知らされるのである。

 

人間の顔をした馬

画像:ニコライ・ウスチノフ

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作家による作家観

 トルストイの同名小説の主人公、老いた去勢馬ホルストメールは、死を前にして、馬の群れに対し、自分の人生の歴史を物語る。ホルストメールは飼い主から飼い主へ転々とした。多くの悲しみ、悪意、不正を目にしてきた。しかし、他を憐れむことを覚えた。ホルストメールは思い出す、飼い主の一人、軽騎兵士官セルプホフスコイのこと。ホルストメールは、自分を死ぬほど鞭打って急き立てたこの主人のことを、愛情と、歓喜をもって物語る。セルプホフスコイが飼い主だった時代を、人生最良の時と見なしているのだ。

 トルストイ描くこの馬は、人格化され、トルストイが最も高く評価した美質、すなわち慎み、同情、人への私心なき奉仕という美質を付与されている。

 

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