“東京100年”を100分で

東京を自分の目で見ようと思ったら、モスクワのリュミエール兄弟写真センターに行くだけで十分だ。木村伊兵衛、名取洋之助、園部潔など40人の写真家がこの街を見事に再現してくれる。1912年製のコダックの小型軽量カメラで撮った20世紀初頭の光景、戦争への道を突き進んでいた30年代、戦後の苦しい復興期、面目を一新した60年代、そして21世紀の東京――。「東京100年」は、財団法人「日本カメラ財団」のJCIIフォトサロンの開館10周年を記念する海外展示として始められた。今回のモスクワ開催では、同サロン所蔵の写真450点が展示される。

 大抵のロシア人にとって日本との接点というと、寿司を食べアニメを見るくらいが関の山だろう――ときたま柔道をやっている人にお目にかかることもあるが。ところが、写真展の長蛇の行列を見ると、もっと日本について知りたいと思っている人は少なくないようだ。

 

 謎が謎を生むワンダーランド

 入館者はまず、花見やお盆の花火の写真で、期待通りの日本情緒を堪能する。ところがそのあと、東京の超ヨーロッパ風の街並みに度肝を抜かれることになる。新しい映画館も、広告も市電も、西側の流行ファッションに身を包む男たちも、全然日本ぽくない!

 しかし、それは見かけだけのこと。楽しいキャプションを読みながら、ディテールに目を向けると、日本らしさが見えてくる。ロシアとは似ても似つかぬワンダーランドが、ちょっとベールを脱ぎ始める。ところが、謎が解ける代わりに、もっと多くの謎が現れてくるばかりだ。

 日本人は、海外の潮流を自分たちの伝統に合わせて、取捨選択して取り入れる。この特異な能力には脱帽するほかはない。

 

 戦後の復興に焦点:「もう一度頑張ろう!」

 この写真展には別の課題もある。

 赤錆びた鉄道車両に住んでいる子沢山の家庭を撮った写真がある。隣の写真では、10歳くらいの薄汚れた浮浪児が、大人のような顔つきで、煙草を深く吸い込んでいる。若い娘が大喜びでドラム缶で入浴している一コマもある。

 だが振り向くと、全然別の写真がある。おしゃれなお嬢さんたちが美容院で、ふんわりした髪型にセットして、鏡を見てご満悦だ。

 戦後の貧困は、高度経済成長に代わった。日本の復興――これがおそらく写真展の主要なライトモチーフだ。

 「戦争で家と親を失った子供たちの写真を見てほしいと思います。そして、日本がが廃墟のなかから立ち上がったさまを」。写真展のキュレーターを務める森山・日本カメラ財団理事長(元内閣官房長官)はこう説明してくれた。

 その課題は果たされたようだ。

 

モスクワのリュミエール兄弟写真センター=スラヴァ・ペトゥラーキナ撮影

 反響

 「日本は絶えず変化している、それも良い方に。停滞は死だ。私は日本人を尊敬する。こんなに小さい国にこんなに沢山の人々がひしめいているのに、彼らはできる限りのことを成し遂げた。そして、自分たちも“日の当たる場所”に生きる権利があることを、全世界に向って証明した」。写真展に感動したロシアのブロガーは、こう書いている。

 「一番印象に残ったのは、地下鉄の車両に乗客をぎゅうぎゅう押し込んでいる駅員かな。有名な日本の集団主義が感じられるような気がする」。こうエカテリーナさん(25)は微笑みながら言う。彼女は、全然知らないがどこか魅力的なこの街を見にやって来た一人だ。

 「新宿の若者たちにも驚いたなあ。こういうのはロシアにはまずないわね。でも、写真展でこの街が実感できるようになったかというと…。東京はやっぱり不思議な街のままね」。最後に彼女は白状した。

 日本を本当に知ろうと思ったら、やはり航空券を買う必要があるようだ。

 

 *写真展“東京100年”は、モスクワのリュミエール兄弟写真センターで、3月27日~5月12日に開催。