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世界中の多くの人の1日は、コーヒーを飲まなければ始まらないが、つい数年前までロシア人の大部分はこのような人の数に含まれていなかった。ソ連時代に質の高いコーヒーがなかなか手に入らなかったからというだけでなく、ロシアンティー(Russian Tea)という名前にも象徴される通り、近隣の中国やインドから茶葉が運ばれてきたおかげで、ロシアの伝統的な飲み物は何世紀にも渡って紅茶と考えられてきた。
世界第7位の消費国に
ところがこの伝統に変化が見られる。世界的なスターバックスやコスタ・コーヒーなどを含むコーヒー店の店舗数の増加と、国民の収入の増加を背景に、コーヒー市場が拡大している。去年はその規模が22億ドル(約1800億円)に達し、世界第7位の消費国までのぼりつめた。調査会社「ユーロモニター」の予測では、ロシア・コーヒー市場の2016年までの年成長率は、実質ベースで5%になるという。
ロシアはインスタント・コーヒーの消費量が年間5万7000トン(コーヒー生産者協会データ)で、世界第1位になっている。イギリスでは約3万トン、日本では2万8000~2万9000トンだ。
ロシア市場の今後の伸びは、インスタントではない本格的なコーヒーによって支えられる。パウリグ・コーヒー・ロシア支社のアレクサンドル・コルコフ最高責任者はこう説明する。「人々は本格的なコーヒーを試して、味の違いがわかっています」。現在のインスタント・コーヒーのシェアは68%、残りの32%がコーヒー豆で、インスタントは10年前より10~15%減った。
生豆の輸入税撤廃がブームに拍車
ロシア市場のもうひとつの重要なトレンドは、国内で加工、生産、完成品の包装をする会社が現れていることだ。生豆の輸入税が撤廃されたことから、原料を調達する方が有利になったのだ。ロシア・コーヒー市場のどの大手企業も国内に加工・包装工場を保有しており、国内生産は煎り・挽き豆部門で80%、インスタントで50%以上になっている。
ロシアにおけるコーヒーの生産および販売で主なシェアを誇っているのは、クラフト・フーズ(アメリカ)、ネスレ(スイス)、パウリグ(フィンランド)である。
コーヒー市場が紅茶市場と違うところは、シーズン的な需要の増減がないことで、コーヒーの場合、暑い夏にコーヒーをベースとしたコールド・ドリンクの人気が高くなるぐらいだ。伝統的なアメリカーノ、カプチーノ、エスプレッソなどは、夏でも冬でも消費は変わらない。モスクワで人気の高い、いくつかのコーヒー店のバリスタにアンケート調査を行ったところ、消費者は何よりも飲み物の量を重視するという。
質より量
バリスタのニキータさんはこう話す。「アメリカーノやラテの注文が多いですが、その理由はカップが大きいからというだけです。種類や質はほとんど気にしていません」。
家庭でつくるコーヒーが、カフェやレストランのものとまったく違うことは、多くの人が感じるだろう。バリスタの腕前やコーヒー豆の種類によっても変わるが、最終的には豆や価格ではなく、結局つくりかたで大きく左右される。
モスクワでコーヒー店を経営するセルゲイ・シフコフさんはこう語る。「どんなコーヒーでもさまざまな方法で沸かすことができます。コーヒーメーカーの質や、バリスタの手によっても変わります。コーヒーをおしゃれな飲み物と考える必要はありません。おいしいチーズのような、普通の飲食物なのです。ただマズくならないようにつくって、独立した飲み物として飲めばいいのです」。
ブラジル豆の不作の影響
現在のロシア市場のトレンドは、やがて確固たるものになる可能性がある。ブラジルの豆の不作により、世界市場は混乱しているが、ロシアも他人事ではなくなってきている。市場の専門家は、今年末までに価格が5%高騰すると予測している。需要パターンと、市場にインスタント・コーヒーがあることから、かろうじて5%程度に抑えることができる。
とはいえ、価格の高騰により、質の高いアラビカが中国やブラジルに流れてしまい、ロシア人はより安いものの、味が落ちるベトナムのロブスタでがまんしなければならなくなるかもしれないと、専門家は懸念している。
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