石油・ガス依存のロシア

ナタリア・ミハイレンコ

ナタリア・ミハイレンコ

広大な国土を背景に石油・天然ガス大国を誇るロシアでは天然資源に依存する体質が国全体の産業バランスをいびつなものにしている。石油や天然ガス生産による国の収益が国内経済に有効・合理的に再配分されているのかを疑問視する声が強い。新たな技術開発、産業育成にはどういう姿勢で臨む必要があるのか。資源政策に詳しい専門家が論じた。

無駄な配分を排し 

新技術に支援を

ロシアの鉱物資源に対する世界の需要は極めて大きい。石油と石油製品の輸出は過去10年間で1億2000万㌧から2億4000万㌧、輸出額にすれば500億㌦から3900億㌦まで上昇した。一方で、ロシアのノウハウを活用した工業製品やその他の産業に対する需要は減少している。

これはあまり驚くべき事ではない。鉱業製品の輸出が増加するにつれ、それが経済において担う役割も増大したからである。しかし、これを自然の成り行きとして受け入れてしまうのは危険だ。

ロシアの連邦予算は鉱業製品による収入に依存している。公式データによれば、鉱業製品による収入が連邦予算の60%を占めている。実質的には、サービス産業の大部分が石油とガス産業からの資金に依存しているため75〜80%にもなる。

我々は鉱業製品がこの国にもたらした富をより有効に活用しなければならない。問題なのは、資金を生産的な産業開発に投資するのではなく、非生産的なサービスに投資するなどして無駄にしていることだ。

ロシアの権力が資源産業を基盤に持ち、石油とガスに完全に依存している官僚制度に握られているからである。

ガスプロムやロスネフチのような大企業でも収入の1%程度の資金しか研究開発に投資していない。これは、関連産業の開発を刺激することができるような金額ではない。

さらにひどいことに、我々は自らの手で何か新しいものを創造するための努力をしていない。開発の意味を本当に理解している政府なら、独力で変革が生じることはないことを理解しているはずだ。

ロシア経済で鉱業製品が担う支配的な役割を軽減させたいならば、投資をより高い可能性を持つセクターに差し向けなければならない。

私は、ロシアが四つの分野で世界的なリーダーになり得ると考えている。

一つ目はエネルギーだが、単に石油を輸出するのではなく、石油製品を売る必要がある。二つ目は長期間にわたって名声を確立した応用数学である。三つ目は航空宇宙産業、そして四つ目はバイオテクノロジーだ。これらの産業を振興するのに必要な措置は企業に対する優遇税制措置である。

モスクワ郊外のスコルコボ・イノベーション・センターにある企業は、すでにこのような恩恵を享受している。イノベーションに関連する事業を行っている企業家には同一の支援が受けられるべきだ。そして5年後、これらの小企業の多くが中企業へと成長することで、確実に投資の成果を確保できるであろう。

今日、小企業がGDPにおいて占める割合は10%にすぎない。適切な措置を今採用することで、我々の知識集約型経済は10年後に連邦収入の50%に相当する額を占めることが可能である。 

イワン・グラチョフ 

ロシア下院エネルギー委員会議長

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非資源セクターに

投資を強化せよ

ある国が主要産物を天然資源に頼っているからといって、必ずしもその国が「資源ののろい」の罠にはまってしまうわけではない。

何十年にもわたり、ノルウェー、カナダ、オーストラリアは豊富な産物を民主主義と繁栄の共有と同時に達成してきた。最近では、豊富な天然資源を持つ開発途上国がいかにして安定した民主主義へ成長できるかをチリが示してくれた。

もちろん、鉱物依存型の経済も産物価格の変動によってその盛衰が影響されることを経験している。

しかし、手厚い救援資金と洗練された金融市場の開発によって最高値と最低値間の変動にむらがなくなるようにすることが可能だ。

特に石油業界は他の産業をけん引することができるハイテク技術の開発源という能力を秘めている。これが西側諸国では可能なのに、なぜロシアでは同じ事が起きていないのであろうか。

その本質的な理由は所有権と競争にある。民営企業のノバテクは国営ガスプロムよりもはるかに効率が良い。独占市場のガス産業における研究開発投資は石油産業における投資額に大きく後れをとっている。

 ロシアが過大に石油に依存しているため、いかなる変革の戦略もこの事実を念頭におかなければならないということに議論の余地はない。石油価格が10%変動すると、その結果としてGDPに1%の変動が生じる。国家予算額は石油価格によって左右されるのだ。

石油とガスに対する依存を軽減するにはどうすればよいか。天然資源セクター以外への投資の流入を助長する必要がある。プーチン大統領が5月7日に発表した長期的国家経済政策についての法令に従えば達成可能だ。

この文書は、天然資源セクター以外の産業すべてを2016年までに民営化することを見込んでいる。それを達成するだけでもビジネス環境は改善されるだろう。

これだけでも、世界銀行が発表している「ビジネス環境の現状」ランキングで、ロシアが現在の120位から50位に上昇し、ロシアのGDP成長率に2%を付加することが可能であると論じるアナリストがいる。

それでは、トップダウン型の非石油・ガス生産を構築するという多角化に向けたもう一つの方法はどうなのであろうか。 そのような方法に依存するのは誤りである。

ベンチャービジネス研究の先導者ハーバード・ビジネススクールのジョシュア・ラーナー教授は『壊れた夢の大通り』という著作の中で、アメリカでさえ、そのような試みに失敗したと指摘している。

無論、「資源ののろい」を民営化政策だけで取り払うことができるなどと考えてはいけない。また、我々は、腐敗に対抗し、財産権の保護、独占市場からの脱却と経済の規制緩和のために奮闘しなければならない。

セルゲイ・グリエフ

ロシア経済学院(モスクワ)学長 

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