作曲家イーゴリ・ストラビンスキーがセルゲイ・ディアギレフが率いる「バレエ・リュス」のために作曲したバレエ音楽、「春の祭典」の場面=タス通信撮影
振付師プティパ
マリインスキー劇場(1783年開設)はロシアのバレエとオペラの殿堂としてモスクワのボリショイ劇場と並ぶ存在だ。
バレエ団はフランス人振付師マリウス・プティパ(1818~1910)の作品を大切にしており、劇場は「プティバの家」とも呼ばれている。プティパは、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」、「バヤデルカ」(ラ・バヤデール)などの名作を上演した。
バレエダンサーだったプティパがロシアにやって来たのは1847年のこと。1869年にマリインスキー劇場のバレエ監督に就任して、ロシア・バレエが世界に誇る芸術としてはばたく基盤を作った。
興行師ディアギレフ
「バレエ・リュッス」を主宰した興行師セルゲイ・ディアギレフ(1872~1929)は初め、マリインスキー劇場を直接牛耳ろうとしたが、うまくいかず、ダンサーの引き抜きなどで影響力を及ぼした。
「バレエ・リュッス」の公演は作曲家ストラビンスキー、画家ピカソ、舞踏家ニジンスキーなど各分野の天才たちの力が結集されて、世界の芸術史を彩る事件となった。
だが、ディアギレフのレパートリーがマリインスキーで上演されるようになるのは、1990年代以降のことである。
ワガノワ時代
偉大なバレエ教師アグリッピナ・ワガノワ(1879~1951)の時代がこれに続く。彼女は傑出したダンサーだったが、ニコライ皇太子(後のニコライ二世)の愛人マチルダ・クシェシンスカヤなどの陰に隠れあまり恵まれなかった。
本領を発揮するのは教師になり、独自の方法(ワガノワ・メソッド)を編み出してから。ガリーナ・ウラノワ、イリーナ・コルバコワなどの名プリマを世に出した。
1957年以来、バレエ・アカデミー(学校)はワガノワの名を冠している。教え子のナターリア・ドゥジンスカヤとコンスタンチン・セルゲーエフのデュエットも一時代を画した。
ゲルギエフ芸術監督
現在はワレリー・ゲルギエフが芸術監督として、オペラのみならず、バレエについても方針を決めている(もちろん、この部門の監督のユーリー・ファチェーエフと協議しながらだが)。
今日に至るまで、マリインスキーはロシア・クラシック・バレエを根幹に据えて踊り続けている。同時に新作もどん欲に取り入れている。
ゲルギエフが日本公演で特に推奨する「アンナ・カレーニナ」だ。
ヒロインのアンナはウリヤーナ・ロパトキナ、ディアナ・ビシニョーワ、エカテリーナ・コンダウロワが交代で演じる。
3人とも、現代最高のプリマと言われるマイヤ・プリセツカヤのお墨付きだ。彼女の夫シチェドリンが妻のためにこの作品を書いた。
「シチェドリンは、リムスキー=コルサコフに匹敵する天才だ。19世紀にはその作品を、今はシチェドリンの作品を上演するというわけです」。こうゲルギエフは語る。
《ラ・バヤデール》
11月15日(木)文京シビックホール
11月24日(土)東京文化会館
11月25日(日)東京文化会館
11月26日(月)東京文化会館
《アンナ・カレーニナ》
11月22日(木)東京文化会館
11月23日(金・祝) 東京文化会館
《白鳥の湖》
11月17日(土)文京シビックホール 11月20日(火)府中の森芸術劇場
11月27日(火)東京文化会館
11月29日(木)東京文化会館
《オールスター・ガラ》
12月2日(日)東京文化会館
公演3作品の見どころ
「バヤデルカ」(ラ・バヤデール)
日本公演初日の演目。初演は1877年。舞台は古代インドだが、プティパは一度もこの国を訪れたことはなく、厳密な時代考証を求めても意味がない。実際、この話のような三角関係はどこにでもある。貧しい娘と若い優秀な軍人のペア。そして将軍の娘。インド版「アイーダ」といったところだ。
目くるめく極彩色のダンスに観客の意識も朦朧としてくる。
「アンナ・カレーニナ」
文豪トルストイの長編小説をもとに、1971年、作曲家ロジオン・シチェドリンがバレエ音楽を作曲した。
今回の振付は、2004年にアレクセイ・ラトマンスキーがデンマーク王室バレエの委嘱で考案したもの。
ラトマンスキーのフィナーレの振付は衝撃的である。
「白鳥の湖」
今回の公演はマリウス・プティパとレフ・イワノフによる振付にコンスタンチン・セルゲーエフが改変を施したもので、1950年以来上演されている。
最後の第4幕では白鳥たちだけでなく、黒鳥たちも踊るのだが、これもプティパの考えによる。王子はヒロインのオデットに愛を誓いながら、悪魔とその娘に欺かれてしまった。黒鳥はオデットの悲しみのシンボルなのだ。
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