スパイ映画のロシアの悪役12人

「007 私を愛したスパイ」(1977年)=AFP/East News撮影

「007 私を愛したスパイ」(1977年)=AFP/East News撮影

世界で最も有名なスパイ映画007シリーズが、今年誕生50周年を迎えた。1962年10月5日に、「007 ドクター・ノオ」がロンドンで初公開されて以来、数々の映画でロシア人の悪者が、007のコードネームを持つ諜報員、ジェームズ・ボンドと戦ったり、また時にはボンド側について戦ったりしてきた。

1. 役名 アーニャ・アマソワ

女優 バーバラ・バック

映画 「007 私を愛したスパイ」(1977年)

「ボンドなんて排他的愛国主義者のブタよ」と、オーストリア出身のアメリカ人女優で、プレイボーイ誌のモデルだったバーバラ・バックは言い放った。KGBのアーニャ・アマソワ少佐の役は、バックが当初聞いていた話とは少し変わっていた。この映画の最後では、ロジャー・ムーア演じるMI6諜報部員を爆破する予定だったが、シャンペンの栓を抜いただけで、愛していた人の死に対する復讐は行われなかった。アマソワ(トリプルX)は、他のボンドの女たちとは違い、自分の価値を知っていた。徹底したプロで、基本任務をこなしてからボンドに仕返しをする決意をする。その任務は、ほとんどの部分で一緒に行っている。MI6とKGBは、突然消息をたったイギリスとソ連の潜水艦を探すよう、それぞれのスパイに命じる。残された跡をたどって行くと、社会に敵対する大富豪のカール・ストロンバーグ(クルト・ユルゲンスの晩年の役のひとつ)の海底秘密基地に続いていた。

2. 役名 ローザ・クレッブ

AFP/East News撮影

女優 ロッテ・レーニャ

映画 「007 ロシアより愛をこめて」(1963年)

冷戦時代に2つのイデオロギーで分断されていた地域のうち、どちら側が正しいのかを判断しようとする場合、007は消音状態で見ても、視覚的に支持すべき側を認識できる。”正しい”登場人物はとても美しく、”正しくない”登場人物はその逆なのだ。

ボンドと対立するローザ・クレッブは、ぶかっこうな眼鏡をかけた冷酷非道な女だ。007の原作者であるイアン・フレミングは、真の共産主義者は先天的なものだと考えていたようだ。

とはいえ、当時の世界政治の緊張に配慮して、元の小説で中心的な悪役をソ連の防諜総局スメルシとしているのを、映画の台本では架空のテロ・グループ、スペクトルに変えているなど、きつい場面を映画用に和らげている。

ローザ・クレッブという名前は、女性労働者運動の人気のスローガン「フレブとローザ(パンとバラ)」から考案されたもので、小説ではスメルシの大佐となっているが、映画ではスペクトルの任務をこなし、ボンドを危険なわなにかけて殺そうと企む。クレッブは完全に失敗し、毒が塗られた刃が靴のアウトソール飛び出るしかけとなっている秘密武器も役に立たなかった。

ローザ・クレッブを演じたのは、1935年にアメリカに移民した、オーストリアの歌手で女優のロッテ・レーニャだ。レーニャは、映画が公開されて以来、知らない人と会うと、まずその人の靴を見る癖がついたと言っている。

3. 役名 タチアーナ・ロマノワ

AFP/East News撮影

女優 ダニエラ・ビアンキ

映画 「007 ロシアより愛をこめて」(1963年)

才能豊かな若い諜報員、タチアーナ・ロマノワは、ボンドをおびきよせる役目を果たすのが、国につくすことだと思っていたが、実際には秘密組織スペクトルがロマノワを利用している。プレイボーイである007は、当然、そんな誘惑にひっかかることはない。その代わり、ボンドとソ連の諜報員の間には本物の愛が生まれ、イデオロギーの境界線など関係なくなる。

この映画のお決まりのパターンは、ここでも例外なく使われ、ソ連の諜報員は007の恋人になってしまう。このロマノワ中尉はだまされやすく純粋なため、見方につく側を誤ってしまったのだ。イタリア人のダニエラ・ビアンキは、何よりもショーン・コネリーと並んでカッコよく映ることが求められたが、もともとモデルで、1960年にミス・ローマになり、またミス・ユニバースでも準優勝していたため、あえて”演じる”必要はなかった。

4. 役名 ナターリア・シモノワ

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女優 イザベラ・スコルプコ

映画 「007 ゴールデンアイ」(1995年)

「007 消されたライセンス」(1989年)に続く作品で、この二作の間にソ連とベルリンの壁が崩壊したため、ボンドの敵はどうなるのかと心配された。この映画では、舞台が1990年代に変わり、新たなボンドの敵また仲間が現れ、ソ連の諜報員の代わりに、プログラマーのナターリア・シモノワがボンドを助けている。犯人の手に渡ったソ連の秘密衛星兵器ゴールデンアイを、使えなくしたのだ。ピアース・ブロスナンが007を初めて演じた映画で、ナターリア・シモノワの役はイザベラ・スコルプコが演じた。

5. 役名 アルカジー・ウルモフ将軍


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俳優 ゴットフリード・ジョン

映画 「007 ゴールデンアイ」(1995年)

ドイツ人俳優のゴットフリード・ジョンは、17歳のころは自分の外見が好きではなかった。そのために、何年も経過した今でも、この役がぴったりに見えるのかもしれない。ジョンは現在70歳で、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、フォルカー・シュレンドルフ監督、ドリス・デリエ監督の作品に出演したり、フランス映画「アステリクスとオベリスク」でローマ皇帝の役を演じていたりと、出演リストにはたくさんの作品が並ぶ。アルカディ・ウルモフ将軍の役がはまり役に見えるのは、その役になりきる能力があったからに違いない。むろん、独特な顔立ちも大きく貢献しているのは確かだが。

ウルモフ将軍はロシア国防省高官で、宇宙兵器を担当しているが、死んだ006のアレック・トレヴェルヤンの名前を使いながら、犯罪組織ヤヌスに従って衛星ステーションに侵入してそれを破壊するという悪党でもある。ウルモフ将軍はすべてをシベリア分離主義者の陰謀に見せかけ、事態に感づいた国防大臣に向けてちゅうちょなく発砲した。ジェームズ・ボンドはソ連崩壊後のロシアでも勇敢な姿を見せ、戦車「T-55」をうばってサンクトペテルブルクの街の中で迫力のカーチェイスをし、最後にウルモフ将軍を殺害する。

6. 役名 クセニヤ・アナトップ

AFP/East News撮影

女優 ファムケ・ヤンセン

映画 「007 ゴールデンアイ」(1995年)

映画の最後で、息をしていないクセニヤ・アナトップの体は、キューバにあるどこかの木にロープでくくりつけられている。「強く抱きしめられることをいつも喜んでいた」と、ボンドは落ち着いて語る。アナトップはグルジア出身で、ソ連空軍のテスト・パイロットだったという設定だ。アナトップは人間を殺すことに何の感情も抱かず、ふとももの間に人を挟んで息を引き取るところを見ると、性的興奮のピークに達する。最初の仕事についていた時は、そのような病気は現れなかったが、犯罪組織ヤヌスと関わり初めてから、アナトップはあちこちで殺人を犯すようになる。この役を演じたのは、オランダのモデル兼女優のファムケ・ヤンセンだ。

7. 役名 ヴァレンチン・ジュコフスキー


AFP/East News撮影

俳優 ロビー・コルトレーン

映画 「007 ゴールデンアイ」(1995年)、「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」(1999年)

ロビー・コルトレーンは、ハリー・ポッターのルビウス・ハグリッドばかりを演じていたわけではない。イギリス、スコットランド出身のコルトレーンは、ソ連崩壊後にビジネスを始めて犯罪の世界に足を踏み入れた、元KGBスパイのヴァレンチン・ジュコフスキーをこの2本の映画で演じている。サンクトペテルブルクにあるクラブで、ジュコフスキーは武器の売買を始めた。犯罪社会の大物は互いを知っているため、ジュコフスキーを通じてボンドはロシアの地下組織ヤヌスに潜入する。昔、ボンドはジュコフスキーの片足をピストルで撃ったため、ジュコフスキーは今足を引きずっているが、彼の杖は仕込み銃になっている。ジュコフスキーはバクーでカジノとキャビア工場の合法的なオーナーになっていた。

8. 役名 オルロフ将軍

AFP/East News撮影

俳優 スティーヴン・バーコフ

映画 「007 オクトパシー」(1983年)

この映画は、エキゾチックさと実際の政治状況が混ざり合っているのが特徴で、その冒頭では、ボンドがキューバにいる。そこからインドに行き、映画が進むにしたがって、インドのエキゾチックさと軍備拡張競争とNATOに関するテーマがからみ合って行く。秘密主義のオクトパシーは、インド在住のアフガニスタン亡命貴族カマル・カーンの指示に従って活動し、オルロフ将軍がソ連から持ち込んだ財宝を西側に流す。このオルロフ将軍の役を演じているのは、「ランボー/怒りの脱出」や「ビバリーヒルズ・コップ」などに出演しているイギリス人の俳優、スティーヴン・バーコフだ。オルロフ将軍は西ドイツを攻撃しようと目論む、ソ連のタカ派だ。ドイツに行く巡業サーカス団の小道具に隠された、レディーの卵(ファベルジュの卵)を、密かにオクトパシーから核爆弾に変えてもらう。爆弾はアメリカ空軍基地で行われている、サーカスの講演中に爆発するという企てだ。オルロフ将軍はいくつかの馬鹿げた論理にまどわされているが、それは007シリーズの荒唐無稽な部分に完全にマッチしている。将軍の理屈によると、爆発後、西ドイツの反戦活動家が、アメリカ軍の撤退を要求し、ソ連軍が西ドイツも傘下に収めやすくなるというのだ。ボンドはオルロフ将軍の企みを察知し、爆弾を処理しようと列車に乗る。オルロフ将軍はそれを邪魔しようと、西ドイツと東ドイツの国境で車から降りて列車を走って追いかけ、追いつこうとするが、東ドイツからの避難民だと勘違いした国境警備隊から、撃ち殺されてしまう。

9. 役名 アナトーリ・ゴーゴリ将軍

AFP/East News撮影

俳優 ウォルター・ゴテル

映画 「007 私を愛したスパイ」(1977年)、「007 ムーンレイカー」(1979年)、「007 ユア・アイズ・オンリー」(1981年)、「007 オクトパシー」(1983年)、「007 消されたライセンス」(1985年)、「007 リビング・デイライツ」(1987年)

脇役だが、存在感がある。1970年代から1980年代にドイツの俳優、ウォルター・ゴテルは、アナトーリ・ゴーゴリKGB長官役を007シリーズの6作品で演じた。映画ファンにとっては、この薄毛頭が、ボンドのフレーズに匹敵するほどのシンボルとなっていった。アナトーリという名前は、いくつかの映画でアレクセイに変わっていることもある。007をつくった作者がロシア語を母国語としている人間ではないことが、すぐにわかる。ゴーゴリ将軍は気品漂う人物という設定になっていて、ボンドとの対立の悪化を招くような行動はとらず、共通の敵と戦うために、ボンドと手を組む心構えができている。レーニン勲章をボンドに伝達するために、一度ロンドンのMI6本部に来たこともあるほどだ。

10. 役名 レオニード・プーシキン将軍

AFP/East News撮影

俳優 ジョン・リス・デイヴィス

映画 「007 リビング・デイライツ」(1987年)

ゴーゴリ将軍の後は、プーシキン将軍と、007のKGB本部には、ロシアの作家と同姓の人間がたくさんいるようだ。これは単なる偶然かもしれないし、ソ連の諜報局の指揮をとっているのは賢い人間ばかりだとほのめかしているのかもしれない。アナトーリ・ゴーゴリ将軍が外務省に栄転した後、後任としてレオニード・プーシキン将軍が任命された。この時期にはすでにペレストロイカが始まっていて、次の007ではKGBが無意味な存在になっているが、この映画ではプーシキン将軍は、元同僚の陰謀と対立しなければならない。

退役したKGB将軍コスコフは西側に送り込まれ、ボンドの上司に、プーシキン将軍が「スパイに死を」という陰謀を企み、西側のスパイの銃殺リストを作ったと吹き込もうとする。この陰謀を信じさせることで、ソ連と西側の関係を悪化させ、密かにアヘンを取引し、アフガニスタンでのソ連の戦闘でもうけようと企んでいるのだ。ボンドとプーシキン将軍は協力して、最後にタンジェでコスコフ将軍を逮捕する。

11. 役名 カミーユ

AFP/East News撮影

女優 オリガ・クリレンコ

映画 「007 慰めの報酬」(2008年)

西側の映画では、多くのロシア人が演じられたが、ロシア人自身が演じることはなかった。オマル・シャリーフはドクトル・ジバゴを、グレタ・ガルボはしっかり者の共産主義者ニノチカを、ロビン・ウィリアムズは「ハドソン河のモスコー」でサックス奏者のウラジーミル・イワノフを演じているが、これはほんの一例でしかない。「ロッキー4/炎の友情」でアマチュア・ボクシングのヘビー級王者イワン・ドラゴを演じる、スウェーデン人俳優のドルフ・ラングレンは、ロシア語なまりの英語を話している。007シリーズにはロシア人が山ほどでてくるが、誰ひとりとして本物のロシア人はいない。

2008年に公開された、現在一番新しいこの007シリーズの映画の主役に、ようやくロシア人が現れた。クリレンコは当時28歳だった。ただ、演じているのはロシア人ではなく、亡くなった家族の報復に燃える、ボリビアの特殊諜報員だ。オリガ・クリレンコは正確にはロシア人の母親のマリーナとウクライナ人のハーフで、ウクライナで生まれ育ち、1995年からフランスに暮らしている。一説によれば、才能ある少女を探していたモデル事務所の人間が、モスクワの地下鉄のエスカレーターに乗っていた13歳のクリレンコと母親を見て、その場でスカウトしたという。

12. 役名 マックス・オットー・フォン・シュティルリッツ

タス通信撮影

俳優 ヴィヤチェスラフ・チホノフ

映画 「春の17の瞬間」(1973)

ロシアの007のようなものだが、実際にはまったく違う。アクション・シーンは少なく、女性との恋愛もない。このテレビ映画には、心理的な緊張感に満ちている。1973年に初めて放送された時、ソ連で5000万人から8000万人が見たという。そのため、再放送はわずか3カ月後に実現した。この映画は現在でも象徴的な映画となり続けている。あらすじはこうだ。

ナチス・ドイツでもっとも影響力のある組織のひとつ、国家保安本部には、ソ連の人間がいる。国家保安本部に採用されたマクシム・イサエフまたはフセヴォロド・ウラジミロフが、親衛隊大佐のマックス・オットー・フォン・シュティルリッツになりすまし仕事をしている。1945年初め、シュティルリッツは、総督に近い人物の誰かが密かに連合国と単独和平協定を結ぼうとしているとの噂について、調べるように言われる。冷静沈着なインテリのシュティルリッツは、すぐにその人物をかぎつけるが、同僚たちはシュティルリッツへの不信感をあらわにした。

12シリーズあるこのテレビ映画には、ヒトラー、ゲーリング、ヒムラーなどのナチス・ドイツの高官がほとんど全員登場したが、これもブームを巻き起こす一因となった。ドイツ人は、風刺的ではなく、かなりニュートラルに普通の人として描かれている。

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