114のめい想の島

=Lori/Legion Media撮影

=Lori/Legion Media撮影

コラ半島に住むサーミ人は、北極のオーロラを見て占いをする。ロシアには2000人弱のサーミ人しか残っていないが、その大半がムルマンスク州のロヴォゼロ村に暮らし、ロシア人には聞きなれない言語を使っている。

ロヴォゼロ湖、クルガ島 

10メートルほどの松の木々は、ギシギシと音を立てながら、その鋭い先端で空をかすめる。浅い沼は崖や砂岸にその姿を消されて行く。古い桟橋のたもとには丸太づくりの小屋が立ち、芳しいコケモモやホロムイイチゴの茂みが覆い、近くには釣り船がゆらゆらと波にのって浮かんでいる。これが世界の果てなのだ。

ロヴォゼロ村に行くには、モスクワ発ムルマンスク行きの飛行機に乗り(往復航空券は約300ユーロ)、その後はバスやタクシーで190キロ走る(車1台の平均価格は70~100ユーロ)。

遠くには、小さなチョルマ島が朝霧の中に隠れ、その後方には、チョールヌイ島とコブラスオル島がある。ロヴォゼロ地区には、さまざまな大きさの島が114島あり、それぞれが世界の果てだ。その中でもっとも大きな長さ7キロのクルガ島には、島の中にさらに湖があり、その湖にも小さな島々が浮かんでいる。

聖なる最果ての地 

コラ半島の中心部に位置しているロヴォゼロ湖とセイドゼロ湖は、何世紀もサーミ人の聖なる湖となってきた。コラ半島の湖の湖岸は、セイドと呼ばれる聖物でうめつくされていると伝えられており、これらの聖物には人々の秘密が隠されているから、絶対に壊してはならないのだ。住民はいまでも聖物に捧げ物や贈り物をしている。クイヴチョッル崖またはクイヴァは、コラ半島のサーミ人のセイドで、何メートルもある人間の形をした岩の模様が、岸壁にくっきりと浮かび上がっている。

ロヴォゼロ湖とセイドゼロ湖は極圏に位置しているにもかかわらず、ツンドラは、ロシア南部のベリーのような、ホロムイイチゴやカラフトスグリの芳醇な甘い香りに包まれている。ここの亜北極帯気候は、メキシコ湾流の温かな海流で和らげられ、極夜は44日、白夜は61日続く。

世界唯一の白人種のトナカイ飼育民 

ホロムイイチゴ狩り、漁業、トナカイ飼育、狩猟は、16世紀末からロヴォゼロ村に暮らす、サーミ人の主な仕事だ。サーミ人は世界で唯一のコーカソイド(白人種)のトナカイ飼育民で、かつてフィンランドやノルウェー周辺を遊牧していたが、国境線で仕切られるようになると、定住生活を送り始めた。65年前、ロヴォゼロ湖の湖岸には、ロシア初のオーロラ研究所が開設された。ロシアのラップランドの首都である現代のロヴォゼロ村は、ソ連が建設した小さな別荘村で、現地の人は冗談で「パリ」と呼んでいる。

3月の最後の週末には、クロスカントリー、トナカイのソリの操作など、伝統的な北部のスポーツ競技が行われる「北のお祭り」がある。6月には「サーミ・ゲーム」というカーニバルのような大会があり、丸い毛皮のかたまりのように見える、冬のサーミ人の完全「武装」で参加者が戦う。女子が長いスカートをはいて、トナカイの皮でつくられた革製のボールをフィールドで追うサーミ・サッカーは、特に観戦者が多い。

この村の主要な企業はトナカイ飼育協同組合「ツンドラ」で、旅行者などを飼育場に案内している。この場所が、セイドゼロ湖、ロヴォゼロのツンドラ地帯、クルガ川、サラ川、ツァラ川などの極圏旅行スポットをめぐるコースの出発点なのだ。

沈める国の伝説 

 この場所への関心が高いのは、美しい自然、反映している民族文化、特有の天然記念物だけではなく、アトランティスの伝説のように、ヒュペルボレイオス人が暮らしていたと言われているためで、研究者はここに来て調査を行っていた。信じる人もいれば、信じない人もいる。ヒュペルボレイオスは「北風(ボレアス)の彼方に住む人々」の意味で、ギリシャ神話に登場する。幸福に満ちた地で、自由に空を飛び、平和に暮らしていたという。

ヒュペルボレイオスはアトランティスのような、地殻の衝突によって海に沈んだ伝説の国のひとつである。セイドゼロ湖は氷河期以前のヒュペルボレイオスの文化の中心で、サーミ人はヒュペルボレイオス人の子孫で、知識を継承していると考えられている。セイドゼロ湖の湖底と山には、古代建築や発祥不明な寺院の跡が発見され続けている。

歴史科学では、ヒュペルボレイオスの伝説は辺境の地の民族に関する古代文化の空想のひとつと考えられ、まじめに受け取られてはいない。でも完全に証明されていないことを信じるのが人間だから、北部を泳げば、ヒュペルボレイオスに泳ぎ着くと信じたくなるのだ。かつてコラ半島ではシャーマニズムが栄えていたが、現在ではサーミ人の多くが正教徒となっている。それでもサーミ人は、いまだに呪術には特別な尊敬の念を抱いている。

テントで瞑想する旅行者 

住人のアントニナさんはこう話す。「ここは素晴らしい聖地です。夏になるとめい想をしに島に人々が訪れ、テントをはって、寒くなるまで生活するのです。私たちはこのような人々が好きです」。ロヴォゼロ湖やセイドゼロ湖の唯一の交通機関は、モーターボートだ。島から大陸までの平均旅行費料は、1500ルーブル(約3800円)。

ヴィルマ川河岸のロヴォゼロ湖は、人が住む土地の端部で、その先にはツンドラ、沼、無数の湖、トナカイの休み場しかない。世界の果てはここしかない。地理学でも人々の言い伝えでもそれが証明されているのだ。もし他にも世界の果てがあるのなら、サーミ人の伝説がその果てが違うことをたやすく証明するだろう。