なぜロシアはアサド大統領の即時退陣に反対するのか

アンドラニク・ミグラニャン   =タス通信撮影

アンドラニク・ミグラニャン =タス通信撮影

メキシコのロスカボスで開催されたG20(20カ国・地域首脳会議)や、そこで行われた米ロ首脳会談と時を同じくして、ワシントンで、シリア情勢に関するセミナーが開催された。まず注目すべきは、西側の政界や一般社会で、いくつもの空説が定説になっている点だ。

その一つ目は、西側のマスコミがシリア情勢を一方的に報道しているため、シリア社会全体がアサド大統領に反対し、退陣を要求しているかのようなイメージができ上がっていることだ。

実際のところ、今年5月7日に実施された議会選挙の結果が示しているように、アサド大統領は、かなり多くの国民に支持されている。しかも、少数派の民族と宗教、宗派の少数派がアサド支持だし、中東ではかなり軍備が充実しているシリア軍に支えられている(注1)。

編集部注

(1)カタールの機関が昨年末に行ったネット上の世論調査でも、シリア人の55%がアサド大統領を支持し、45%が彼は辞めるべきだと答えている。カタールの主な宗教はスンニ派であり、シリアの反政府勢力を支持していることに注意。

シリアは多民族国家であり、宗教的にも、キリスト教徒、イスラム教徒のシーア派、スンニ派、アラウィ派など雑多で、本質的に脆いモザイク構造をなしている。そのモザイクを総人口の10%に満たないアラウィ派が抑えており、アサド大統領も軍幹部も同派に属している。今の統治システムが壊れて一気にカオス化することを恐れ、現体制を支持する人は多い。

シリア騒乱の原因としては、サウジアラビアなどスンニ派の国が、シーア派のイランの台頭を抑えるために反政府勢力を支援していること、西側もまたイランを孤立化させるために呉越同舟となっていること、などが挙げられる。

意外に固いアサドの支持基盤 

二つ目は、アサド大統領がロシアと中国に完全に依存しているという誤解だ。くり返しになるが、大統領自身には国内に支持基盤がある。大統領は、シリア社会の影響力のある団体と、政治的、経済的な利害関係で固く結ばれているため、ロシアに簡単に左右されることはない。

ワシントンのセミナーでは、ロシアがその影響力やシリア軍との関係を利用して、軍事クーデターを起して解決していくべきだ、などと言い出すアメリカの参加者もいたほどだ。

ロシアにこんな提案をする人々は、シリアの政治を麻痺させるほどの大規模な反アサド運動はないし、軍の分裂もないことにも気づいていない。そもそもロシアは、シリアや他の国に対して、具体的な指導者を立てて自国の考えを押し付けるようなことはしていない。ロシアはこの問題に自国の利害を結びつけているわけではないのだ。

中東の火薬庫を爆発させないために 

西側がアサド大統領の即時退陣を要求していることに、ロシアが反対しているからといって、何が何でもアサド政権を残そうとしているわけではない。ロシアはシリア情勢が流動化して、暴力、混乱、無秩序が拡大するのを避けようと努めているにすぎない。

シリアは中東の最も“敏感な”場所に位置しており、今起きている問題は、簡単にレバノン、イラン、トルコ、イスラエルなどに飛び火する可能性がある。シリアは「火薬樽」なのだから、火に油を注ぐことのないよう、極めて慎重に対処していかねばならないし、法の枠内に収めることも非常に重要だ。仮に政権交代が起きた場合でも、誰かが損をすることで誰かが得をするような、「ゼロ和ゲーム」に終わらせないことが大切である。

西側は何を欲するのか?…

最も重要な点について述べたい。不思議なことに、この地域の無秩序を煽っているのは、ロシアではなく、アメリカとその同盟国なのだ。初めにアサド退陣ありきで、武装化した反政府勢力の期待や要求を高めるようなことばかりしている。

(2)アサド大統領が強気なのは、強力な軍をもっており、国内の支持基盤もかなり固く、また西側がここ当面、本格的な軍事介入はできないのを見越しているためだ(米国は今年大統領選挙があり、軍事費を削減している折でもある)。一方、反政府勢力の方も、西側、トルコなどに支持されているため一歩も引かず、解決の目処は立たない。

シリアの反政府勢力はリビアの先例を見ているため、現政権に対して極端な要求をするばかりで、対話や譲歩に応じるきっかけすらつかめない。支援している西側やその同盟国に対し、シリアへの介入とアサド政権の転覆も求めている始末だ(2)。

こうして西側は、この問題の政治的または外交的解決も、ロシアが支持するコフィー・アナン前国連事務総長の調停案の代案も提示せず、ただ情勢の悪化ばかりを招いている。

期待をもたせる米ロ共同声明

(3)露米両大統領による共同声明には、シリアでの政治的移行は「シリアの主権下でシリア人自身が取り組むべきだ」と明記されている。これは、言い換えれば、欧米が介入すべきではない、ということで、ロシアの意向が反映されたものだ。

ロスカボスの米ロ首脳会談終了後、シリア問題についての共同声明が発表され、その中で両国がアナン特使の活動を支持し、シリア情勢の当事者すべてが参加して平和的な対話を行い、シリア国民の力でこの問題を解決することを願う、としたことは、一定の楽観論を生む(3)。

ロシアが提案しているシリア問題国際会議の枠内で、この声明の内容が実現するか否かは時が教えてくれるだろう。