=PhotoXPress撮影
オイミャコン村では、水も不思議な現象を見せる。屋外の水が、-60度でも凍らないのだ。魔法やシャーマニズムではなく、この地域の凍土は深さ1500メートルと地球最大規模で、凍土は体積が増しているため、地中の水に圧力がかかることで、地表に湧き出してくるのである。「オイミャコン」とは、ツングース語で「凍らない川」を意味する。
ここは無風で年中晴天、山の谷間にはツンドラ草原があり、サーカスのポニーほどの背丈がある体毛の豊かな馬が仲良く散歩している。ここに生息する馬の毛は冬季で10センチまで伸び、たてがみは肩にも生えていて、普通にイメージする馬とはまったく違う。遠くから見ると、クマと間違えそうなぐらいだ。この独特なヤクート馬は、マンモスがいた時代から存在している。地元のツングース人にとっては、「寒極」の忠実な仲間だ。
数秒で凍傷に
-60度以下の極寒の中では、人間が防寒されていない顔を数秒さらすか、または風に少し当たっただけで、凍傷にかかってしまう。また、温度計の水銀が凍ったり、熱湯をコップの中に入れてから空気中にまくと、氷雲ができたりする。車を使うのは非常に難しく、外国製の車はまずエンジンがかからない。ロシア製の「ウラル」や「UAZ」の車なら、ブロー・トーチの裸火を使えば温めることができるが、最初の数キロは暖機運転した車で厳密にまっすぐ走らないと、タイヤの外側が曲がり角で飛んでいくこともある。
これほどの非人間的条件でありながら、地元の人は自然と共存する術を見つけただけでなく、長寿で知られるまでになった。理想的に澄んだ空気や水、活動的な生活様式、健康的な食事など、伝統的な要素が影響しているのかもしれない。主な食料は魚、馬肉、乳製品だ。フルーツの不足分は野イチゴで補っている。
独特なヤクート馬は、マンモスがいた時代から存在している =PhotoXPress撮影
家族全員100歳超
ツングース人のアンドレイ・ダニーロフさんは、長年トナカイ飼育業に従事してきた102歳だ。ツングース人はトナカイの皮の住居を作らなくなったため、ダニーロフさんは-70度の気温下でテントで生活をしているが、はつらつとした心を失わない。彼の父は117歳で、母は108歳で他界した。
ダニーロフさんの友人で、ユルト(移動式住居)に暮らしているアリヤンさんとアフロシニアさん夫妻には、子供がいなかったが、最近90歳になった折に、女の子を養女として迎えた。現在、家畜の世話をしている。
不老長寿の秘密
夫妻はこれまで病気をしたことは1回もなく、健康の理由は地元の乳製品のハヤクとキョルチェフだと確信している。ハヤクは味と色が脂肪油に似ている。キョルチェフは製法から、アイスクリームを思わせる。牛乳に野イチゴを混ぜて凍らせ、かたまりにする。
オイミャコンで一番有名な料理といえばストロガニナだが、まず、魚釣りから始めなくてはならない。チョウザメ、オームリ、ブロード・ホワイトフィッシュなど、氷下から釣る高級な魚だけを材料にする。釣ったばかりの魚を一打で殺し、まっすぐな状態で凍らせる。曲がった状態にしてしまうと、削りにくくなるためだ。ストロガニナは、スペインの黒豚の生ハム「ハモン・イベリコ」のようにして食す。
研究者によると、マンモスが現在まで生きていたとすれば、まさにこのオイミャコン周辺だったかもしれない。世界の気象図では、この村が北半球の寒極と記されているが、ベルホヤンスクの観測史上最低の気温は、1892年の-67.8度で、1位の座を競うライバルだ。当時、オイミャコンでは観測が行われていなかった。オイミャコンのどの土産物にも-71.2度と書かれているが、これは1926年に、アカデミー会員のセルゲイ・オブルチェフが可能な最低気温を理論的に算出したもので、信用はできない。
有機的生命体の一部として
凍らせた魚は家に持ち帰ると、その場で削り始める。ロシア語でストロガチとは、おろし金で削るのに似た作業を意味し、料理名はそこから来ている。削った魚は、どの部分にも薄い皮下脂肪がついていることが重要で、それに含まれるω(オメガ)-3脂肪酸が心臓を強くし、老化を遅らせてくれる。
これらの料理は南部で作ることはできず、どこかに運ぶこともできない。北の生命体の一部として、まぶしい太陽と100歳のトナカイ飼育者とクマに似たポニーとともに共存しているのだ…。
オイミャコン村では、水も不思議な現象を見せる。屋外の水が、-60度でも凍らないのだ =PhotoXPress撮影
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。